ススキの生い茂る川端を歩き、何処かの家の庭先に植えられた金木犀の香りを楽しむ。
 空はいつもより高いような気がする、そんな秋の朝。

 …………因みに俺の意識を閉めるのは見事な金色のススキでも金木犀のいい匂いでも空の高さでもなく、隣を歩く親友…………うん、親友の事だったりする。




 高校3年生の俺達にとって、この季節はただ秋を楽しむだけに非ず。
 来るべきセンター受験という関門に向けて其々必死に――――――人によっては就職やら面接試験だけだったりするけど――――――勉強している真っ最中だ。俺は…………まぁそんなに必死でもないけど(嫌味じゃないよ?)。
 だけど、今隣を歩くアジアンビューティーの代名詞、俺の幼馴染兼親友兼一方通行想い人のユウはそういう訳にも行かなくて…………。

「おいラビ、」
「何?」
「今日帰ってくる模試って、何の教科だ?」
「科学と数学さ」
「…………」

 両方ともユウの苦手な科目さ。
 …………ユウは、親御さんとの約束で国公立大学以外には行かないって言ってる。
 で、ユウは勉強苦手、と。
 …………うん、もう、頑張れ。本当頑張れユウ! 俺も応援してるからっ…………

「そういえばお前、何処に出願すんのか決めたのか?」

 
 ギクッ


 俺が心の中で拳を握っていたことなど露知らず、ユウがさらっと訊いて来た。
 
「え、や、ま、まだ決まってないんさ。あはははは…………」
「お前の脳味噌なら何処でも行けんだろ? 何で決めねぇんだよ」
「はは、は、色々目移りしちゃって…………」

 本当は、ユウと同じところにしたいから…………何て言える訳が無い。

「ユウが決まったら俺も教えるさ!」
「…………」

 俺がそう応えると、ユウは不機嫌そうに眉根を寄せた。あ、あれ? 嫌味っぽかった…………かな?
 
「チッ、余裕こきやがって」

 吐き捨てられた言葉に片頬が引き攣った。ご機嫌斜めにしちまったみたいさ…………
 それから俺は一生懸命ユウのご機嫌を直そうと努力して、そうしている内に学校に着いた。





「そういやお前今日日直だろ」
「あ、そうだ! やば、」

 ついつい普通にユウと教室に入ろうとしたところで指摘された。日直はホームルーム前に職員室に行って担任のところに行かなきゃ行けないんさ。すっかり忘れてた。
 俺は慌てて踵を返して職員室に向かって駆け出す。指定の時間(ホームルームの15分前だ)に間に合わないと担任が煩いんさ。とゆーか、ヘンな薬の実験台にされかねない。
 時刻は8時13分―――――――あと2分しかない!

 南無三!

 ま、間に合え―――――――!!






 見る見る内にラビの姿が小さくなり、そして角を曲がって消えたのを見送ってから思わず小さく呟いた。

「…………お前が決まんねーと、俺も決められねぇんだよ…………」
 
 何処でも余裕なラビと違って俺には選択肢はそんなに無い。
 此処数ヶ月で以前よりは偏差値も上がったとはいえまだまだだ。

「…………はぁ、」

 らしくもなく、思わず溜息をついてしまったのは、あいつの所為だ。絶対そうだ。







「はい、時間ぴったり。お早うラビ。…………いやぁ残念だなぁ、丁度新薬のデータが取りたかったんだけどなぁ」
「そんなのは他所に当たるさ!」
「あはは」

 俺達の担任、コムイ(担当・科学 別名マッドサイエンティスト)は笑いながら俺にバインダーを渡してきた。今日の授業変更とかなんかそんな感じのを挟んだ奴さ。

「そういえばラビ。…………神田君の事なんだけど」
「?」

 パラパラ見てた俺は、ふとコムイに声を掛けられて意識がそっちに向いた。

「彼の志望先とか何か聞いてる?」
「? 国公立の大学っしょ?」
「そうなんだけど、具体的な学校名」

 コツコツ、とコムイがシャーペンで机を叩いた。

「って、コムイ知らないんさ?」
「…………決まってない、って聞いてるんだけど。本当?」
「俺も聞いたこと無いさ」
「…………そろそろ決めてもらわないとなんだけどねぇ」
 
 そりゃそうだ。
 出願時期、ってそろそろヤバイんじゃ…………

「珍しいよね、こういっちゃ何だけど神田君がそんなに悩んでるなんて…………」
「まぁね…………」

 中学から一緒だった俺達だ。ユウがこの学校に進学を決めたのは極めて単純明快分かりやすく、全国制覇出来るほどの剣道の腕を買われて特待生として誘われたからだ。
 …………俺もユウがそう言ったから速攻この学校に決めた。
 幸いこの学校はこの辺でもトップクラスの進学校だったから、特に家族の反対も受けずにスムーズに決まったわけだけど…………

 …………ヘタに大学ランク落とすとジジイにぶっ殺される…………かな…………。

「もし聞けるようだったら聞いておいてくれないかい?」
「分かったさ」

 …………とはいえ、聞けるような気はしないんだけどなぁ…………。





 どうやって聞こう。

 そればっか考えてたらあっという間に放課後になった。
 今日もユウは図書館で居残り勉強だ。俺も暇なのでそれに付き合う。

「ユウ、そこ公式違う」
「あ…………、そうか、」

 主に採点役さ。

「…………、もう近いんだよな」

 ユウが頬杖ついて溜息をつく。
 
「出願の事?」
「…………ああ。…………んで? お前は何処行くんだよ」
「え、えーと…………ひ、秘密っ」
「何でだよ、何で言えねぇんだよ」
 
 …………そりゃ決まってないからで。

「…………決まってないんさ。ほんとだよ」
「何でお前見たいな何処でもいけるような奴が決められねーんだよ」

 ユウが俺を睨んだ。
 俺もちょっとだけむっとする。
 ユウが教えてくれさえすれば、

「ユウだって俺に教えてくんないじゃん」

 …………俺の声は、言った俺ですらちょっと驚いたくらい、不機嫌だった。

「…………」

 ユウは暫く無言で俺を見てから、すい、と手元の本に視線を落とす。
 …………何とも気まずい空間が出来上がってしまった。
 

 カリカリカリ…………
 

 ユウがシャーペンを滑らす音だけが響く。
 身が竦むような時間を過ごして、五時半になった頃ユウが立ち上がった。 

「…………もう帰る」

 ペンケースに筆記用具を仕舞って、放り込むってのがぴったりな様子で鞄に参考書と問題集とノートを放り込んでいく。
 それに合わして俺も立ち上がった。…………まだ気まずいんだけど、俺もそれに合わせて立ち上がる。

「…………」

 一、二年の奴らが部活をしているグランド横を通り過ぎ、俺達は人影のまばらな昇降口に辿り着いた。
 外はもう、オレンジと赤の中間みたいな、綺麗な夕焼けだ。日が落ちるのも早くなってきた。
 
「…………なぁ」
「ん?」

 ユウが、ぽつんと呟いた。

「行くトコ決まったら、教えろよ?」
「…………そりゃ決めたら教えるけど、ユウこそ、」
「俺は…………お前が決まんねーと…………」

 ?

 小声でユウが呟いた。

「何? 何さ?」
「なっ、何でもねぇ!!」 
「俺が決まらないと?」
「聞こえてんじゃねーか!!」

 むぅ。

 ユウは相変わらず強情さんだ。

「ねー、ユウ。俺希望としては、ユウと一緒の所に行きたいんさ」 

 …………何気なくを装って、そんな事を言った。

 そしたら、ユウはぽかん、とした顔でこっちを見た。

「は? 何言ってんだお前? 何でお前みたいな頭の良いのが、俺と同じ…………?」
「…………だって、」

 離れたくない。
 一緒にいたい。

 それは親友に向けるにしては、相応しいような相応しくないような、だ。

 ぽかんとしたユウに、俺は肩を竦めて、

「…………駄目?」
「俺、は…………」
「?」
「おっ…………お前の行くトコの近いトコに行きたかったんだよっ!!」
「…………へ?」

 夕日をバックにしたユウの顔は、真っ赤になっていて、


 その言葉の意味を理解した俺は、――――――多分ユウに負けず劣らず、真っ赤になってたんだろう。








 次の年、桜の時期に俺達が合否発表の掲示板前で肩を抱き合ったのは、また別の話。

<終>
  
 

 


 あとがき 
 30000番でリクエスト頂きました紫秋 朔様へ!
 ラビュ学生パラレルで…………季節秋かよ?とかラスト何故同じ大学にいけたんだという突っ込みは無しの方向でお願いします(滝汗)
 大変お待たせいたしましたがどうぞお納め下さいませ!
 ありがとうございました!



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