日差しが強くなり肌がじっとりと汗ばむ季節。次の講義がある校舎迄は外を通っていかければならない。
首筋に掛かる髪を厭わしく振り払いつつ、不快感に眉根を寄せる。
実習するには酷く嫌な季節だ。忌々しい。
思わず舌打ちしたくもなる。
だが、そんな不満は正しく冷水を背にぶっかけられたかのような衝撃の前に霧散して消えた。
「――――――ユウ?!」
それは、四年ぶりに聞いた懐かしい声。
情けなく震えそうになる膝を叱咤する。そんな事でどうするんだ。
出来る事なら耳を塞いで駈け出して逃げ出したい。だがそんな事をしたら後ろの奴は追ってくる。絶対に。そういう奴だ。
俺がこれからしなければならないのは二度と、声をかける気になどならないように「嫌われる」事だ。
一つ息を吸って振り向いた。
左…………には知らない奴。右は、…………あぁ、大体予想通りに育ったんだなコイツ。
「あ〜! やっぱユウだ! 久しぶり、元気にしてた!? まさかユウも此処通ってたなんて知らなかったさ!」
人懐っこい笑顔で、近寄ってこようとした相手を睨みつけて、
「寄るな。――――――相変わらずフザけた野郎だな。うぜぇんだよ」
なるべく感じ悪いように意識しながら暴言を吐く。内容に、俺の知らない左の男が眉根を寄せた。その表情は正しく「感じ悪ぃ奴、」だったから俺のコレは間違ってない。
「うわ、きっつー…………四年ぶりに会ってそれ?」
困ったように眉根を寄せて、苦笑いみたいな顔で返す相手は大して堪えてなさそうだ。
「テメーなんかが居るって知ってたら、こんな所入らなかった」
これは心からの本音だった。まさかこんな、互いの実家から遠く離れた、それも体育以外は取り立てて有名でもない大学にコイツがいるとは思わなかった。
何か言おうと口を開きかけた相手に先に暴言を放り投げて口を塞いだ。
「お前のツラ見てると苛々するんだよ。二度と俺の視界に入ってくんな」
「…………うーん。相変わらず、何か怒ってるんかなー…………」
「つーか、何アレ誰アレあの感じ悪ぃの! ナニサマ!? お前ももーちょっと怒れよラビ!」
同じ講義をとっている、高校から一緒になったダチは自分の事でもないのにプリプリ怒っていた。
「あれ、幼馴染なんだよね。中学まで一緒だった」
「幼馴染ぃ?」
その顔が「あんな感じ悪ぃのと?」だったから俺は苦笑いするしかない。
「うん。そーなんさ。そーなんだけどね〜…………」
家が同じ町内で、同い年だった。
幼稚園から中学校までまさかの同じクラスだ。付き合いは長かった。
確かに向こう、幼馴染の神田ユウは人当たりが良い方じゃなかったけど、だからと言ってあそこまで…………。
「突然、だったんだよなー…………」
嫌われるようになった切っ掛けは全然分からない。中学校卒業式のまさにその日に突然「二度と話しかけるな」だ。最初は何時も通り癇癪を起こしただけだと思っていた。
それが本気だと知ったのは、春休み中一切繋がらなかった携帯電話と休み明けの番号が使われていませんというアナウンス、極めつけは入学予定だった筈の俺と同じ進学先を蹴り遠い遠い私立の高校の学校に入学したと聞いた時だ。
十年以上一緒に居た幼馴染はいとも簡単に俺を人生から切り捨てた。別に俺もそれを根に持ったりしたりしている訳じゃないんだけど。
まさかこんな所で再会するとは思ってなかった。
これは幸いだ、まるで喉の奥に刺さった小骨みたいに引っかかる感覚だったから。
何にそんなに怒っているのか、どうしてそこまで避けるのか。
「絶対吐かせてやる」
物好きな、という隣からの呟きは聞き流した。
嫌われたい神田、追っかけたいラビ。