ボリ、ボリ、ボリ、
深夜の部屋に咀嚼音が木霊する。
それなりに防音性能には気を使ってある部屋だからこそ許されるものの、これが市街の安宿辺りならば隣客に文句を付けられるレベルだ。そもそも物を食う音がそんなにするほうが可笑しい。
部屋に入った時に見た奴が抱え込んでいる赤ん坊が入りそうなくらいでかい籠の中身は山盛りの厚切りクリスプス。あんな脂っこい物を良くあんなに食うものだ。
呆れ半分感心半分、ランプの揺れる光りに照らされる中でクリスプスを貪り食う横顔を眺めていると気付いたのか、
「神田も食べます?」
「いらね」
そう勧めてきた。
クリスプスは好きじゃないし今は深夜だ。任務明けでもない限り夜中に、それもベッドの上でモノを食うような習慣はない。確かに一汗かいたが別に腹が減ったわけでもない。
「美味しいのに」
口元で一枚パキリと割ったモヤシは破片二つを同時に口に放り込む。シーツや床の上に少しでも零したら掃除させるつもりだったが意外と、というよりは当然のごとく欠片も落ちていない。一欠片も残さずすべてモヤシの腹の中だ。
山盛りあったはずの中身はもう半分以下だ。驚異的なスピードで咀嚼されていくそれらをうんざり眺めながら、俺は以前ラビが言っていた言葉を思い返した。
『なぁユウ、知ってる? 一説によると食欲と性欲って比例するんさ』
今から思えばあれは何か勘付いての事だったかもしれない。別に良かった。触れて周りはしないが隠し立てするつもりもない。
『だからさ、絶対アレンってすげぇって』
確かにな。と頷きかけて止めた。
実際その気になれば一晩中繋がることすら出来る奴だからその説はあながち間違っていないと思う。食は最低限でも構わない俺の性欲が薄いことからしてもその説に当てはまる。気がする。
それにある国の諺がある。「腹が減っては戦はできぬ」。モヤシはまさにそれだ。腹が減ってたら勃たない。勃たなきゃ勃たないでやらなきゃいいだけだと思うがモヤシ曰くそういう問題ではないらしい。
「ところで何考えてたんです?」
「さーな」
いつの間にか籠の中を空にして栄養補給を完了させたモヤシが振り向きついでに伸し掛かって来た。腹が満ちたら次はコレ。単純だと鼻で笑うとムッとした顔で、
「ムカつく。いいですよ、そんな事言ってられなくしてやるから」
「…………どうでもいいがお前、口の周り払えよ」