「モヤシ」
「駄目」
「大根」
「却下」
「白髪葱」
「無い」
「…………小蕪?」
「いー加減、野菜から離れるさユウ!!」

 ダンッ、と俺は炬燵の天板を叩いた。…………痛ぇ。するとテレビに視線を向けていたユウは億劫そうな顔で俺を見た。

「んだよ」
「もうちょっと真面目に考えるさ、おチビが可哀想!!」

 腕の中に小さな狐を抱えながら、俺はユウに注文をつける。
 今俺とユウが話し合っているのは此処で育てられることになったこの子狐のおチビ(仮称)にどんな名前をつけるかだ。
 期待してなかったけど案の定、ユウのネーミングセンスは壊滅的だった。
 好物ばかり挙げてくるが、どれもこれもとても名前とは思えないものばかり。

「なー? おチビだって野菜の名前なんてやだよなー?」
「きゅー」

 先程まで天板の上に並べられていた煮物とみかんをとても赤ん坊とは思えない食欲で食い散らかし、満腹になったのかうとうとしているおチビを軽く突く。小さく鳴き声をあげるが起き上がる様子はない。

「お前のチビよりマシだろ。何時までもチビじゃねぇんだろうし」
「いや俺がおチビっつってんのは別にそれを名前にしたいんじゃなくて」

 あくまで(仮称)だ。

「もうモヤシでいーだろ、モヤシで」
「何それ、何でそんなに野菜に拘ってんの!?」

 それがユウの好物なのは分かったから!

 ダンッ、と再度天板を叩いた瞬間、襖が勢い良く開かれた。

「っとー、邪魔するぜー」
「あん?」

 振り向けば、そこにいたのは八咫烏のティキ。

「どーしたんさ?」
「鬼神の旦那に喚ばれてたんだよ」

 俺、太陽神の神使の筈なんだけど、と苦笑顔だ。此処に座する鬼神様はそういったしがらみを無視するのが得意で、目の前にあったものは何でも使う主義らしい。
 同様に支配下にある鬼妖が他系の神々に顎で使われても何も思わないようだから、まぁ、鬼妖も大概迷惑な話だろう。
 と、これまで腕の中で大人しくしていたおチビが突然アグレッシブに動き始めた。

「お、おお? どーしたんさ?」
「鴉の匂いが気になるんだろ」
「あー。成る程」

 襲われたときのことを思い出して不安になっているのかも知れない。
 俺のシャツの中にもそもそ入ろうとしてくる。入ってこられてもくすぐったくて困るから、代わりにこたつ布団で包んでみた。安心したのか動きが止まる。

「んー、俺そんなに臭う?」
「ノーコメント」
「ヒドッ!?」

 わぁわぁ騒ぐティキを、ユウは心底迷惑そうな顔で見た。

「困ったなー、俺旦那にアレンの世話手伝えって言われたんだけど」
「「?」」

 ティキの言葉に俺とユウは顔を見合わせる。…………アレン?

「誰の事?」
「へ? あ、アレンの事? その子狐ちゃん」
「何勝手に名前付けてんだてめぇ」

 ユウがみかんの入っていた果物鉢をティキに向かって投げつけた。
 危げなく受け止めたティキは顔の前で手を振って、

「いや、名づけたのは俺じゃないって。鬼神の旦那。親が付けた名前、読んだんでしょ?」

 狐は相手を支配する為に名前を必要とするから、棄てる子と言えどもつけたはずだとティキは言う。

「記憶を?」
「さぁ、時間かもしれないけど。そこまでは聞いてない」

 時間を読むってどういう事さ。
 全く意味分からん。まぁ、神様のやる事なんて大概そんなもんだ。俺みたいなただの人間には理解できない。
 ユウが納得した顔をしてるのはまぁあれだ、ユウはクロスと浅からぬ因縁があるって話だから、多分そういう事だろう。うん。

「っつー訳でユウ、この子アレンだってさ」
「チビには過ぎた名前だ。モヤシで充分だろ」
「充分の意味が分かりませんけどユウさんんんん!!??」





 



 モヤシを諦めない神田。






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