ラビ×ユウ(←アレン)海賊パロ。
大変恐れ入りますがこちらの小説は十八歳未満の閲覧は堅くお断りします。
エロ及び暴力・残酷表現が非常に強くなります。どちらかと言えば残酷表現がメインです。普通に人が殺したり殺されたりします。
登場人物の大半が腹黒(アレン)かヤンデレ(ラビ)かイカれてる(神田)かのどれかです。
上記の設定に不快感を覚える方もどうぞお帰りください。
4.紳士と荒くれ者
クイーン・グローリー号の最上等の応接室。
そこに招き入れられた神田は相手の勧めを待つこともなく、ソファーの上にどかりと腰掛けた。足を組む様は何とも優雅だ。
「あの狂犬を連れて来なかったのは意外です」
「毎回毎回お前と大喧嘩されても迷惑だ」
「確かに、ね」
ウォーカー少佐はにこり、と笑んで。
「ワインで宜しいですね? 兄さん」
ワイングラスの中に半分程注がれた暗赤色の液体を神田は眺めやった。
「女王陛下はお喜びになるでしょう」
「そーかよ」
投げるようにして渡されたダイヤを指で撫でつつ、ウォーカー少佐こと、ブラック・スワン船長の腹違いの弟である少年アレンはうっそりと笑った。
「ご自分の戴冠式に使う予定だった石です。蛮族共に奪われたことを、酷く憤っていらっしゃったから」
「ま、お前達の手柄にしたいんなら好きにしろ」
「酷いな…………僕がそんな恥知らずな真似をするとでも?」
「お前は兎も角、手柄が欲しい奴はこの船には山程居るんだろ」
家名を背負うが故に勲功を上げたい。が、危ない橋は渡りたくない。そんな輩からしてみれば労せず手に入れられる手柄なら喉から手が出る程欲しいのだろう。
「貴族とは名ばかり、持つべき誇りも無い人間が多くて困ります。要らぬ気位だけは高いのに」
「跡取りじゃねーんだ。高貴な義務とやらなんざ教えられてねーんだろ」
基本的に彼らの母国では、貴族位と付随する全ての権利、財産は嫡子ただ一人が相続する。
次男以下の弟達、もしくは庶出の息子達は貴族階級で在り続けたいならば子供に恵まれなかった家に養子に入るか、娘しか居ない家の婿になるか。もしくは軍や政府で勲功を上げ、自らが叙爵されるしかない。
最も神田にはそんな事は須らく無意味だったのだが。
華奢なワイングラスのボウルを掌で包み、口をつける。ふわりと漂う芳醇な香りは船内では滅多に口にできない類の上等酒だからだろう。最も彼らは偶に略奪品の中に非常に高価なワインを見つける事もあったのだが。
其の様子をにこやかに見守る自分に似ていない弟に視線を戻し、で、と口を開いた。
「最近イスパニアの奴らの様子はどうだ」
「海賊共ならまた懲りずに元気になってますよ。先日もイングランド国籍の客船が一隻襲われました。…………身代金の請求はありませんでした」
「…………」
客船を襲っておいて身代金の請求が無いとは、それはつまり乗っていた民間人が皆殺しにされたという事だ。もし一握りでも美しく若い女がいたなら生きたままイスパニア本国まで連れて行かれ、売り払われている事だろうがそうなっては最早、余程の資産家の家柄か貴族階級の女で無い限りは救い出す手立てはない。
海賊に等しい略奪行為を行うとはいえ「ブラック・スワン」は私掠船だ。一応は国の定めた法に則っている。敵国籍への襲撃はするが、かといって民間人を皆殺しにする事までは流石にしない。海賊船、もしくは軍艦相手であったならばやるのだが。
「相変わらず奴らはエゲツねぇな」
「無法者にルールを説いた所で無意味でしょうけれどね。報復として我が国では、現在身代金交渉中だったイスパニア貿易船からの捕虜について交渉を打ち切る方針です」
「打ち切ってどうするんだ。殺すのか? 女は売るにしても男共を収容所に送ったってんなもの、飯代だけでもバカにならねぇだろ」
「さぁ。強制就労じゃないですかね。こればかりは、上の考える事ですから」
「ふん」
酒の不味くなるような話だな、とぼんやりと考えながら残ったワインを飲み干した。直ぐにボトルを持ち上げたアレンが代わりを注ぐ。
「海賊で名をよく聞くのはロバーツ一派です。無敵艦隊の方は…………まぁそれなりですね。僕らや貴方達、それに自国の海賊の相手に四苦八苦しているようですが」
「ケッ」
ロバーツ一派は何度か殺り合った相手だ。旗艦ブラック・スワン一隻しかない此方と違い、相手は海賊と呼ぶには随分大仰に六、七隻で艦隊を組んでいる。海賊を名乗るにも関わらず群れるよう、海賊の風上にも置けない輩だ。
但し、その六、七隻を持ってしてもブラック・スワンは沈められない。次にあった時には何方かが海の藻屑となるだろう。鋭さを増した目で船長は机の上に広げられている海図を見る。
「珍しい所ではポルトガルのノア一家も最近随分とイスパニア相手に暴れ回っているようです。まぁこの間鉢合わせした我が国の貿易船は見逃されたようなので、今の所軍は動きませんが」
「あいつらは結局海賊なのか? 私掠船なのか?」
「さて…………気になるなら調べておきますが」
「どっちでもいい。向こうが戦る気なら――――――」
ダンッ、と鈍い音。
イスパニアの主要軍港に程近い海域を示す海図に振り下ろされた一本のダガーに、アレンは口の端を釣り上げた。
「俺達は全力で殺るだけだ」
一時間程を会談とワインに費やした神田は、いい加減焦れて乗り込んできそうな副船長の事を思い浮かべた。
暢気に見えて、あれで中々短気を起こす相手だ。そろそろ戻らなければ煩いだろう、と思わず溜息が漏れる。
会話の合間には甲斐甲斐しく給仕をする、自分とは似ていない腹違いの弟を眺めてから、
「所で伯爵夫人は健在か」
その言葉に途端に苦い物を飲み込んだような表情を浮かべたアレンは頷いた。
神田の言う伯爵夫人とは目の前の現ウォーカー伯爵たる少年の夫人の事ではなく――――――そもそも彼は未成年で独身だ、名家の跡取りとしては許嫁くらいは居そうなものだが――――――、先代伯爵の正妻、即ちアレンの母親の事だ。
神田にはとっては義母に当たるかの女性の記憶は殆ど無い。産みの母と死に別れてからは伯爵家に引き取られはしたが、兎に角蛇蝎の如く嫌われたものだ。まぁ、正妻である自分に子が無いにも関わらず妾の子なぞを育てろと連れてこられたら、そうもなるだろう。女の心理などは知らないが、面白く無いであろう事位は想像がつく。
「相変わらず、ですよ。タウンハウスとマナーハウスを行き来して…………お元気なようですが」
望むべくは家名を貶めるような事は慎んでいただきたいものです、と今度は心底憂鬱そうなアレンの言葉。
夫と死に別れ未亡人となり、息子も家を出て軍に入った後の夫人はまさしく糸が切れたかのように不品行を繰り返した。夜会で目星をつけた若い男を引き込む事から始まり、悪い意味で名の知れた遊び人のあの貴族、黒い噂のあるあの資産家、と手当たり次第、といった所だ。阿片窟に彼女の侍女が出入りする事すらもあるという。女主人ただ一人が君臨する家の中で何が行われているかは最早推して知るべしだろう。それでも捜査の手が入らないのは一つにはウォーカー伯爵家が今の王家よりも旧いイングランド貴族の家系である事とアレンの叔父が政界で名の通った権力者である事、そしてウォーカー家の子息二人――――――アレンと神田のことだ――――――の後見人を務めるのが海軍元帥であり全軍に影響力を持つ人物であるからだろう。問題の彼女については一応、名目上は船長にとっても母であるので――――――とはいえ彼が妾腹であることは周知の事実、暗黙の了解を得ている――――――その行状については耳に入ってきている。興味はないのだが。
「次に帰ったときに、お前の弟か妹がいるんじゃねぇか」
愉しげに呟いた神田の言葉に、アレンはどこか恨めしげな顔をした。
「空恐ろしいことを…………ありえなくも無いのが困ったところです」
全ては自分を裏切った亡き夫と自分を見捨てた息子への意趣返しなのだろうが、果たして肝心の息子はそれに気づいているのかどうか。
ちり、と過ぎった名前を知らない感情は、直ぐに消し去られた。
別室で品の無い酒盛りの真っ最中だった手下を小突きつつ、「ブラック・スワン」の船長は「クイーン・グローリー」の甲板に再び立つ。今度は視線の先は自らの船、そしてそこに無言で佇んでいる留守を預けた副船長。彼の視線は船長へ、それからそのすぐ背後にいるウォーカー少佐へ。
お世辞にも友好的とは言い難いその視線に、船長の耳には背後から鋭い舌打ちが届いた。ちら、と一瞬だけ背後に視線を向けるも気を取り直す。アレは相当機嫌を悪くしている。哀れにも副船長を抑える役目を与えられた船員達は、青い顔で右往左往だ。
殆ど助走を付けることもないまま「ブラック・スワン」に飛び移るなり、船長は副船長に抱き寄せられる。
変わらず敵意を浮かべたままの鋭い視線は、「クイーン・グローリー」の甲板に向けられたまま。微かにその唇が動いて何事がを告げる。正確に読み取った副船長は顔を歪めた。
一息吐いた船長は、副船長、そして周囲でうろついている船員達に届くように大声を張り上げた。
「何をボサっとしてやがる! 全員テメェの配置につきやがれ!!」
その声に雷にでも打たれたかのように反応した船員達は、慌てて懸けだした。得体の知れない雰囲気を背負った副船長を宥めることだけにけして良いとは言えない頭が一杯だったのだが、彼らが神よりも悪鬼よりも海の魔女よりも恐れる船長の帰還だ。
随伴の船員が全員戻ったのを視界の隅で認識した船長は片手を上げた。応じて「ブラック・スワン」はゆっくりと海上を滑り出す。正式な操舵士は今此処で船長の腰を抱いているので、今舵を取るのは副操舵士だ。副とはいえども他の船でなら存分に操舵士となれるであろう、そもそもは先代船長の元にいた操舵士であるので腕に心配はない。
船長が何時までも腰を抱く副船長の頭を肘で打って突き放したのは、「クイーン・グローリー」が遥か彼方に消え見えなくなった後だった。
マジで仲悪い。でも実際面と向かうとにこにこして話す。でも目が笑わない。
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