ツイッターでのやりとりより。人様の呟きに便乗。
デキてるアレ神嬢。
神田嬢がちっぱい。むしろないちち。
それを気にしてコムイに薬を寄越せと凸する話。
…………こんな話じゃなかったはずなんだけどなぁ…………。
足音荒く廊下をずんずんと歩んでいく彼女に、周囲はざぁっと波が引くかのように道を開く。
鬼気迫るその表情に恐れをなした人々は壁際にへばりついて震え上がった。彼女の気性の荒さは織り込み済みだ。
足音荒く向かう先には室長室。
それ見た人々は思った。あぁ、またあのトラブルメーカーな室長が、彼女に気に障るような何かをやらかしたのかと。
…………最も今回に限って言えば、それは全くの濡れ衣であったのだが。
「コムイッ!」
バタンッ、と勢い良く蹴り開けられたドア。自分のデスクで書類とビーカーに埋もれていたコムイは顔を上げた。
「ん? 神田君どーしたの?」
慣れた様子で鬼気迫る彼女に相対するコムイは、面倒な書類仕事から解放されるといわんばかりの歓迎の表情。そんなコムイを苦く眺めるリーバーにも、こんな様子の神田の邪魔をする勇気は無い。彼女の剣がリーバーに向けられたことは殆ど無いがそれでも怖いもんは怖いのだ。
これは暫くは仕事にならない、とお気に入りのレモンソーダを一口吸い込んだリーバーは、しかし次の瞬間それを噴水のように噴き出す羽目になる。
「おいコムイ、乳のデカくなる薬寄越せっ!!」
「あのさぁ神田君、何がどうなってそうなるのかは知らないけど取りあえず女の子が乳とか言うのはどうかと思うよ」
「いいから早く出せ」
腕を組んで苛々と足を踏み鳴らす神田にコムイは苦笑顔だ。二人の視界の隅にはレモンソーダが気管に入ったリーバーが苦しげに咳き込んでいるが二人は特に気にかけていない。
「育乳なら薬じゃなくて揉んだ方がいいかもよ? 手伝おうか?」
「いらねぇ、間に合ってる。薬寄越せ」
「薬だと短時間で切れるけど」
「いーんだよ別に、今日だけでいい。んなデカいもん付いてても任務の邪魔だ」
ゲホゲホゴホゴホ、まるで神田の不適切な発言を隠そうとするかのようにリーバーの咳が続く。
「どうして突然そんな事言い出すのさ」
「…………。お前には関係ねぇ」
「用途が分からないと効果時間どの位にすればいいのか分からないじゃないか」
「…………。モヤシの野郎が喧嘩売ってきやがった」
不機嫌に吐き捨てる神田に、はて、とコムイは首を傾げる。
「は? アレン君が? 君ら夜は仲良いんじゃないの?」
「おっさんみたいな事言うな。アイツ、人に挟めとか言っといて直ぐに無理でしたねとか言いやがったんだぞ!?」
「それはまた…………男女問わずサイズの話はトラブルになるから止めといた方が良いのにねぇ」
だから目に物見せてやる、と息巻く神田にコムイは一つ溜息をつく。
「…………ま、そういう事ならあげてもいいけど。でも実験してないから、副作用については責任取らないよ?」
「聞いといて何だが何でそんなもん作ってんだ、お前」
神田が薬を受け取り来た時と同じ足音で立ち去り、暢気にさぁて続き続きと呟いたコムイに漸く立ち直ったリーバーが、
「ちょ、室長…………副作用って大丈夫なんですか!?」
「あー平気平気。神田君の使い道なら全っ然平気。寧ろアレン君に感謝して欲しい位だけどね、僕としては」
「あと何でそんな薬作って…………」
「それについては黙秘しまーす」
つーか何でああいう事をほざきやがるんだあのクソモヤシ!!
自室で苛々しながらコムイから寄越された白い紙袋を握り締める。返す返すも腹立たしい。
自分の身体に女らしい出っ張りが足りてないなんて事は百も承知だ。姿見で眺めて自分で棒切れみたいだという感想を持ったこともある。
それでも気にしたことは殆ど無かった。デカい乳なんて戦うのには別に必要じゃないし寧ろ邪魔だ。
だが。
それを馬鹿にされても平気かどうかというのは、また別の話だ。
あのクソモヤシ、自分だってチビの癖に…………! 人の乳に文句なんざ付けられる身分か!!
紙袋の中身をベッドの上にぶちまけた。中身はカプセルが五つ。用法用量なんて勿論書いてないから、適当に二つを摘んで口の中に放り込んだ。水差しの水を呷って、残りを紙袋に戻す。
「…………馬鹿らしい」
やっといて何だが我ながら実に馬鹿らしい。モヤシの戯言なんざ聞き流せばよかったんだ。それが出来なかったのは多少なりとも俺自身が気にしてたって事か? …………無いな、全く身に覚えが無い。
途端に何だか馬鹿らしくなってベッドの上に倒れこむ。何時頃から効き始めるのかは知らないが流石に数分で効果が切れる訳でもねぇだろうし。
どうせモヤシは今ラビかマリ辺りと鍛錬中だ。暫く顔を合わせることも無い…………。
あぁ、それにしても、
「眠ぃ…………」
副作用ってこれの事か?
頭の片隅でぼんやりそんな事を考えながら、目を閉じた。
本人が自分で思ってるよりも気にしている。
あと小さいって責め返せなかったらしい。