「…………あれ、」
神田が居ない。
任務に出ておらず、鍛錬場にも姿を現さなかった日だ。
ディナータイムには食堂に来ているだろうと思っていたけど…………、いない。
彼女は食への興味も執着も薄いから、それはさして珍しい事ではなかったけれど。
お腹が空いている今食堂から踵を返すのは中々に堪えるけれど、小さく溜息をついて何処か、恐らくは森か自室のどちらかにいるだろう彼女を引きずり出す算段と口実に思いを巡らした。
カチリ、と小さな音がして鍵が開く。
神田からこの部屋、彼女の自室の合鍵を渡されたのは最近の事だ。それは彼女との関係が一段深まったようで嬉しかった。
部屋の中は暗い。ドアを後ろ手で閉めて、眠っている可能性を考えて控えめに声を掛けてみる。
「神田? 僕です、入りますよ」
案の定小さな寝息が聞こえる。目を瞑ったままでも歩けるほどに慣れた神田の部屋だ、暗がりの中でも苦労せずにベッドの傍にまで辿り着く。置いてある――――――僕が持ち込んだ、それは主にナイトライフの為に――――――ランプに小さく火を灯す。
頼りない明かりに照らし出された横顔に思わず笑みが浮かんだ。安らかに眠っている所、悪いけど。
「かーんだ。ご飯ですよー、起きて下さーい」
肩を優しく掴んで揺らす。――――――と、
「…………ん?」
何か、随分熱い…………?
思わず眉根を寄せると、丁度同じタイミングで神田が目を覚ました。
「…………? 何でテメェが此処にいんだよ」
「君が食堂にいないからですよ。ご飯まだでしょう?」
「別に腹減ってねぇ、…………あ」
そうだった、と小さく呟いた神田はおもむろに起き上がった。何かを確かめるようにぺたぺたと自分の上半身を触っている。
「?」
「モヤシ、明かりつけろ」
「? はい」
ベッドから離れてドア近くのスイッチを押す。言われた通り、スイッチを探って押した。
「付けました、けど、…………!?」
ベッドに居る神田に振り向いて、思わず絶句した。ベッドの上で身体を起こして胸を張っている。
そこには今朝までは存在していなかったはずの見事な膨らみが出現していた。
「どうだ」
「いやどうだ、って、どうしたんですかそれ」
…………何か詰めたんだろうか。
一夜にして育ったとはとても思えないから何かしたんだろう。
何か…………絶対コムイさんだ。
それから、どうしてそんな事を考えたのか。それはもう、考えるまでも無かった。
『挟んで…………あ、すいません無理でしたね』
あれだ。間違いない。
いや、あれはついつい、だ。別にそう大した意味なんかなかった。むかーしむかし、そういうのがとっても得意な女性がいて、てんてんてん、だ。
っていうかそんなに気にされるとは思ってなかった。でもまぁ昔の相手と比較するのはマナー違反だったのは事実だ。僕だって比較されたら色々立ち直れない。彼女に僕と比較するような相手がいたかどうかはおいておくとして。
あの時も大分ご機嫌ナナメになり、慌ててご機嫌取りをしたりがっついて誤魔化したりした。
「ほらよ、お望みのもん付けて来てやったぞ」
「コムイさんから何か貰って来たのは分かりましたけど…………、大丈夫なんですかこれ」
「大して持たねぇらしい」
副作用は知らねぇ、と神田は中々恐ろしい事を言ってくれた。
とはいえ使っちゃったものはもう仕方が無い。コムイさんだってとんでもない副作用があるような物なら渡さないだろうし。寧ろそうであると信じたい。
腹を決めてしまえばついついその膨らみを目で追ってしまう。それほどグラマーな女性が好みな訳ではないけれど(だってそもそも神田はスレンダーだ)、まぁ本能みたいなものだろう。
吸い寄せられるように傍へ寄り、手を伸ばして触れた瞬間――――――
「っ!?」
「へ?」
びくっ、と大げさな程に神田の身体が跳ねた。
ずざざざざっ、と可能な限りベッドの上で僕の手から離れようと逃れる。
「な、何しやがった!!」
「何って、」
ちょっと触っただけだ。
それは神田にも分かってはいるようで、自分の反応こそが理解できない、そんな表情だ。
「…………!?」
「どうしたんです? 痛かったんですか?」
だとしたら悪いことをした。
コムイさんの作るものの事だ、何処が如何してこうなっているかなんて、勿論分からない。痛いような事もあるかもしれない。
そんな事を考えていると、神田がぼふりと顔からベッドの上に倒れ混んだ。くぐもった声で、
「あぁクソ、コムイの野郎…………!!」
「えっ? えぇと、だから、どうしたん…………」
言いながら神田の腰の辺りに手を置く。と、
「ひぁっ!」
甲高い嬌声を上げた。