2008年に書いてそのままにしてあった話。に加筆修正を加えました。
古いので設定も古いです。ネア? ナニソレ状態。(と言いつつもこの話と一話前はまるっと書きたしたものです)
でも折角だから晒しあげ。
アレン×神田嬢です。死にネタです。ご注意下さい。
「そして再び交わる」
「言っておくが俺のガキじゃねぇぞ」
「…………」
「クロス元帥、」
それ以上は、と神田が震える唇で呟いた。
けれど師匠は神田を無視して、僕を見た。
「お前のガキだ、アレン」
「――――――っ!」
ああ、そんな、まさか、どうして。
口を開きはしたけれど何も声にならなくて、意味を成さない。
「教団から逃げてきた理由は一つだ。ガキを堕ろせと迫られた。だろう?」
「…………」
言葉の最後は神田に向けられている。けれど俯いた神田は返事を返さない。それを気にした様子はなく師匠は続けた。
「まぁ、コムイの判断は間違っちゃねぇな。正解とも言いがたいが」
「…………っ、コムイ、さんが?」
「あぁ。他に誰がいる?」
僕は、そんな事聞いてない!
神田が身篭ったことも、その子を堕ろせと迫られたことも、何も、何一つとして!!
余りの衝撃、余りの怒りに唇が震える。固く、爪を握りこんだ掌は爪先で傷がついた。
「おい馬鹿弟子。コムイの判断は間違ってねーっつってるだろーが」
面倒臭そうに頭を掻いた師匠が僕に向かって金槌を投げつけた!
「うわっ! …………〜〜〜〜っ、何処かですか、どうしてそんな酷い事がっ…………!」
神田が子供を望まなかったなら話はまだ分かる。だけどそうじゃない、そうならこうして逃げて来るわけがない!
師匠が悪い訳じゃない、分かってるのに睨み付けてしまう。駄目だ、分かってるのに止められない。
そんな僕にうんざりと溜息を付いた師匠は放り出すように言った。
「ガキを産ませたらソイツが死ぬからだ」
「え」
呆気無く告げられた言葉。
それは僕にとって、非常で非情な衝撃を与えた。
冗談、ではないだろう。そんな冗談悪趣味過ぎるし、こんな冗談師匠にとって何の意味もない。
「寿命が残り少ないっつーのはさっきソイツが自分で言ってただろ。そのままだ。出産という負荷には耐えられまい」
理解したか? と師匠が眉毛を跳ね上げた。
理解したか、って、理解できるわけがない。いや、したくない。
神田のお腹にいるのは僕の子供で、でもその子を産んだら神田が――――――死ぬ?
体が凍りついたように動かない。辛うじて何とか目だけを動かして、俯く神田を視界に入れる。
「――――――が。結局堕胎させたところでそれが原因でソイツは死ぬだろう。腹ん中を引っ掻き回すようなもんだ。傷がつくことには変りない。産ませた場合と残りの寿命にどれほど差が出るかは分からんな」
「…………あ…………」
喉がひくり、と動いた。
「神田」
「…………」
師匠が神田を呼ぶ。返事は、無い。
「俺がアレンを呼びつけた理由はお前を教団に戻すためだ」
「――――――っ」
肩を強ばらせた神田がシーツをきつく握り締めるのが見えた。
師匠はまた、僕を見る。
「コムイからしてみりゃもう『手遅れ』だからな。――――――俺は、選択肢を取り上げた」
「選択、肢?」
「もう堕胎は出来ない。そういう月齢だ。知ってるかアレン。腹の中でガキがある程度育った後に堕ろそうと思ったら薬で無理矢理ガキが育ちきらん内に産ませるしかない。結局は同じだ、ソイツは死ぬ」
「…………え、」
「コムイも諦めるだろう。今から堕胎させたら無意味に両方を殺すことになるんだからな」
神田の命と、子供の命。
どちらかの、選択。
「神田。俺はお前の選択を支持した」
「…………」
「もう遠くない内に死ぬお前が子供を殺して僅かに生き長らえるよりは、子供を生かした方が合理的だ。両親共にエクソシストで、適合者の可能性も高い事だしな」
「…………っ、し、ししょ、」
「恨みたきゃ存分に恨め、アレン。申し開くような事も無い」
恨む? そんな事はできない。
けれど、どうしてだろう。とても哀しい。とても、苦しい。
――――――僕は図々しくも、せめてその選択をする時に傍に居させて欲しかったと、そう思っている。何て図々しい。僕は、彼女からしてみれば彼女を冷酷にも捨て去った人間なのに。
一人で。自分の命と、子供の命を天秤にかけて。
その時神田が何を思ったか分からない。想像すら、つかない。
手で口元を抑えて、何とか嗚咽のようなものが溢れるのを止める。
「泣くな、」
「…………」
「泣くな。俺はお前にそんな顔をさせたかった訳じゃねぇんだ」
神田がお腹を庇っていた手で、僕の頭を撫でた。
「…………何もお前が気に病む事なんてない。お前に何の責任を取らせようって訳でもねぇ」
「神、田」
「勝手に孕んで勝手に産もうとして勝手に死ぬんだ。放っとけ」
「放っておく事なんて、」
出来る、訳が無い!!
「…………別れた女のガキの事に責任取る必要はねぇだろ」
冷静な、そして何の期待もしていない神田の言葉に否を唱えたのは師匠だった。
「んな訳ねぇだろ。普通そこは認知させて養育費払わせる所だ。大体お前、アレン以外の誰に育てさせるつもりだったんだ。俺か?」
「…………師匠に頼もうかと」
「ティエドールにか? 適合者探しの旅に乳児連れで行けってか」
「…………」
「不安定な精神状態だったのは分かるがお前も随分考え無しに飛び出してきたもんだな」
「…………」
す、と視線を伏せた神田は小さく唇を噛んでいる。
「神田、お願いです…………全部、教えてください」
「…………」
「護る、から。僕も、そんなに長くは生きられない身ですけど、命の続く限り護るからっ…………」
「…………え?」
戸惑った顔をして僕を見た神田の手に僕の手を重ねた。
そして僕らは互いの秘密を知って、その酷さに涙した。
互いに、相手の幸せを願うが故に僕らは言えなかった。自分もそうなんだ。相手の気持ちは、良く分かる。
全てを知り合って僕らが選んだ道は同じもの、だった。
クロスは短命の弟子の忘れ形見が欲しかった。