とある暑い夏の休日。
 ブックマン家の三兄弟は、リビングのソファーでぐだぐだしていた。
 兄のラビの足が自分の膝に当たることに深く眉間に皺を刻んだ次男のディックは即座に唇を尖らせる。

「おい兄貴」
「んあー?」
「そこでグダッてんなよ、邪魔」
「はいはい、兄ちゃん足長いもんで。…………ジュニア、こっちおいで」

 寝転んでいたラビが体を起こし、歳の離れた弟ジュニアを抱える。

「暑いさー」
「そうさねー」

 暑い暑いと言いながらもべったりと、まるで亀の親子のように(何の因果か三兄弟はその容姿がそっくりだった、兄の昔の写真を見るとどう見ても今の自分や弟のようなのだ)くっ付く兄と弟を少し苛立った目で睨んだディックは勢い良く立ち上がった。

 …………あぁ、もう、鬱陶しい。

 暑さに苛立ち舌打ちしたディックはマンション隣のコンビニに行って、冷たいものでも買おうとテーブルに置いてあった財布を掴んだ。乱暴な仕草に弟が驚いたような顔を、兄が苦笑を浮かべているが取立てて気にしては居ない。
 自分と弟にアイスを。愚兄にはただの氷で十分…………そう思いながら廊下へ出て玄関へ向かったその時。

 丁度良く、家の呼び鈴が鳴らされた。








 …………クソ。
 来るなんて聞いてねぇぞクソ兄貴。

 胸中で思い切り舌打ちする。来訪の予定があるならば最初から言っておいて欲しい、知っていたら今この時間此処には居なかった。
 ドアを開くなり邪魔するぜ、と勝手知ったる我が家のように入り込んできたのはクソ兄貴の…………恋人だ。
 案内するまでもなくリビングまで入り込んだ相手、兄貴の恋人神田ユウを見て兄貴と弟がそれぞれ声を上げる。

「おー、ユウいらっしゃーい」
「神田のにーちゃん!」
「おう。冷たいもん買ってきたぞ、今食うか?」

 そう言いながら神田はコンビニのビニール袋をテーブルの上に置いた。そこは俺の席だ、勝手に置くな。

「「食べる!」」
「…………」
「ディック、お前は?」

 …………。
 何時見ても面白くねぇ…………。
 半眼で睨みつけるが僅かに自分よりも背の高い相手は何処吹く風、余裕そうな笑みすら浮かべて見せている。
 いらない、と突っぱねるのは簡単だ。だがそれはそれで相手の失笑を買いそうで気に食わない。
 色々なことを秤にかけて導き出した結論は、

「…………食う」
「じゃ、好きに選べよ。あぁ、そういえばこっちはミランダに持たせられた奴だ。適当に食え」
「へ? お義姉さんに? 何さそれ」
「何か朝っぱらからヒゲがマドレーヌ食いたいとかほざいてたから多分それだ」

 甘ったるい菓子の名前にうんざりしたが弟が目を輝かせたので余計な事は喋らないでおく。

「ラビにーちゃん、両方食べていい!?」
「んー? でもお腹一杯になっちまうぞ? マドレーヌは半分だけにするさ。残りは昼飯食ってからな」
「はーい!」
「おいこら馬鹿兄貴、むしろ半分でも食わせたらジュニアもう昼食わねぇよ!!」
「大丈夫っしょ、素麺の予定だし。ツルツルっと入るんじゃねーかな」
「どうせなら蕎麦にしろ」

 人ン家の昼飯に口出すな。

 あぁ、クソ。苛々する。
 頭を掻き毟りたくなるような衝動を抑えつつ、ふと思いついた。

「兄貴。俺ジュニア連れて出かける」
「へぁ? 何処へ?」
「アレンんとこ。アイツん家ならプールあるし」
「突然さね、約束してないんじゃねぇの?」
「…………。駄目なら市民プール行く。これからとてもじゃねぇけどジュニアに見せられねぇような如何わしい事する奴らとジュニアを一緒にしてらんねぇよ!」
「おい、バレてんぞ? ラビ」

 …………ちょっとは恥じ入るなりなんなりしろよ…………。

「あはははははー」

 誤魔化すように笑う愚兄をこれでもかと睨みつけて、アイスを齧るジュニアの手を引いて俺はリビングから出た。あぁやだやだ。ヤるならせめてラブホ行けっつーんだよ、俺もジュニアもいるのによ。

「ディックにーちゃん?」
「…………アレンんとこか、別のとこでプール入るか?」
「! 入るー!」

 嬉しそうに笑うジュニアはそう言えば最近幼稚園で泳ぐようになったと聞いた。どの位なのか見てみるか。
 取り敢えず行き先を定めるべく俺はアレンに宛てたメールを作った。













「ねぇユウ?」
「ん?」

 クーラーをガンガンに利かせて冷え切った部屋の中。
 湿ったシーツの上でゴロゴロしながら、ついさっきまで一緒に汗をかいていた直ぐ隣りのユウに声をかけた。
 ユウは寒いのかタオルケットを胸まで引き上げている。俺はまだ暑いからいらない。

「ごめんさ、気ぃ悪くしてない?」
「何のことだ?」
「ディックがさー…………」

 何が気に入らないのかイマイチ分かんないんだけど、ディックはユウを嫌っている。
 ユウは俺が知ってる限り嫌われそうな事は何もしていない。あくまで一方的に、嫌われている。

「あぁ…………あれか」

 思い当たった、とユウが小さく笑った。

「妬いてんだろ」
「って、誰に?」
「そりゃ俺にだろ」

 何でお前に妬くんだよ、とユウは笑う。

「ユウに嫉妬…………?」
「お前頭イイくせに…………あぁ、そうか。お前は一番上だからか」
「?」
「兄貴盗られたみたいで、面白くねぇんだろ」

 俺も心当たりはあるからな、とくつくつ笑う。

「俺もマリが結婚する時あんまり面白く無かった。ミランダは良い奴だったし、男所帯のうちに女が来れば色々楽になるのは分かってたけどそれでもな。兄貴盗られたみたいで面白くなかった」
「マジで? 何か盗られたとかそういう感覚なん?」
「自分達以外に目が向いてるのがそもそも気に入らねぇんだろ。そういう年頃だ」

 そう言えばユウの兄貴が結婚したのはユウが今のディックと同じ位の年の頃だ。結婚する兄貴の為に贈り物をするために、とユウはスーパーで働いてた。まさかあんなところで働いてるとは思わなかったけど。

「そういう年頃、かぁ」
「後数年もすりゃあどうでもよくなる」
「それはそれでちょっと寂しい気がするさ。兄貴としては」
「自分にイイ相手ができりゃもっと早いぞ?」
「げー。まぁディックには是非跡取りを作ってもらいたいとこだから、いいんだけどさぁ…………」

 けれどちょっと、寂しいかも知れない。
 そう呟くと、ユウがまた笑って、「我侭な奴だ」と言って俺の頬にキスしてくる。
 俺もそれに応え、それから勢いのまま、第二ラウンドへ突入した。




 ディックが想像以上に書きづらい。うっかりすると神田と混ざる…………。
 何かヒスってますがあくまで対神田限定です。
 ジュニアは天使。