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長い長い冬が終わり、里よりも少し遅れてアレンが暮らす山の麓にも春がやって来ました。
厳しい冬の終わりはいつも嬉しいものですが、今年はまた別の喜びがあります。
ここ二年程一人で暮らしていたアレンにも、この冬からは家で待ってくれている人ができました。
「んー、今朝は暖かいなぁ」
小屋の戸を開いて朝日を浴びたアレンは一度大きく体を伸ばしてから、小屋の中を振り返りました。
「神田、外は暖かいですよ」
「…………ん…………」
振り向いた先では、全裸のまま布団の上で半身を起こし、目をこしこしと擦るアレンの妻がおりました。しどけなく晒した肌には幾つもの紅い跡が残っています。
彼は最近朝に弱く、常に眠そうです。それは躰を初めて繋げて以降、二日と置かずに若さのままに求めるアレンの所為でしょう。
「水を汲んで来ますね。あ、一緒に水浴びしますか?」
「ああ…………」
ふぁ、と小さく欠伸をした神田は自分が下敷きにしていた着物をごそごそと取り出して、肩に掛けました。
里から離れた山の麓には、アレン以外に人は居ません。神田の同族も既に此処を離れたことでしょう。
つまりそれは、どれだけ外で騒ごうが何をしようが、他人の目を気にする必要は一切無いということです。
体を清めに行ったはずの川の中で戯れ、朝から疲れた二人はだるい体を引き摺って小屋に戻りました。二人して朝食の準備を始めます。
ゆったりとした朝の理由は、今の時期アレンの仕事は少なくなっているからです。今の季節は丁度田植えの時期で、アレンが手伝う大工達も自分達の田植えに集中するため大工としての仕事が無いのです。里にアレンの田んぼは無いのでアレンにはやることがありません。それでも手伝えるような力仕事を探しに、陽が高くなってから里に降りてはいるのですが。
「里におりがてら、山菜を探してきますね」
「分かった」
まだ眠そうな神田が、塩漬けきのこの汁をかき回しながら頷きました。
「お昼寝でもして、待ってて下さい」
「…………ん…………」
そこには「今夜も寝かすつもりが毛頭ない」という意味が込められているのですが、人の言葉の裏を探すのが苦手な、鶴である神田は言葉通りに受け取ったようです。こくり、と頷いてアレンの椀(大木を繰り抜いて作られた特大サイズ)に汁をよそったのでした。
空気が太陽により存分に温められた頃、アレンが里へと降りていきました。
その背を見送っていた神田は、ふと感じるぞくりとした、体の中を柔らかい何かで撫でられているような感覚にその場で身震いします。思わず漏らした吐息が艷めいていた事は、本人には分かりません。
続いて感じた微かな頭痛のようなものに眉根を寄せ、米神に指を当てながら神田は小屋の中へ引き返しました。
太陽が沈み始めた夕刻。
田植えの手伝いを少しして、それから小屋までの道のりに生えていた椎茸やら平茸、そして筍をどっさりと背負ってきたアレンは小屋の灯りを横目に、まずは川に入って土埃を流します。
その辺を泳いでいた川魚を手掴みで捕らえたりと暴れている間に、水音に気付いたのか神田がひょっこりと小屋から顔を出しました。
「戻りました」
「お帰り」
頭痛を堪えるかのように米神を押さえながらやってきた神田の目元はうっすらと紅く染まり、どこと無く艷めいています。
それこそがアレンが毎晩若さに駆られる原因の一つです。もう一つは、日を追う毎に激しくなる彼の乱れ様でしょう。
そしてその夜も、二人の夜は更けていくのでした。
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