蕎麦が、最初に盛ってあった量の半分くらいになった頃だった。
ふと、それまでの周囲の粘着質な視線とは格が違う「ヤバイ」視線を感じた。
「…………」
恐る恐る、視界の端に食堂の入り口を映す。
「――――――!」
そこにいたのは、先程沈めたはずの二人だ!
ニタァ、と嫌な笑顔を(奴らはあれで爽やかに笑ってるつもりらしいが、嘘つけ!)浮かべ、こっちを、いや確実に俺を見ている。
もうこれはホラーだ。悲鳴を上げなかったのはせめてもの矜持だが、正直今すぐにでも逃げ出したい。間の悪いことに、俺の両隣には誰もいない。奴らは確実に此処に来るだろう!
思わず逃げられるような所を探し、そして見つけた。
じっ、とそこを見つめる。と、一人が気付き、もう一人も気付いた。
二人並んで飯を食っていた奴ら――――――マリとミランダは顔を見合わせ、そしてミランダが席を左に一つずらして真ん中を開けた。
「!」
…………すまん。恩に着る…………。
トレーを持ってマリとミランダの所へ向かい、そして開けられたマリとミランダの間の席に座る。恋仲の奴らの間に割り込むのは中々勇気がいるが、それでもあそこで奴らの襲撃を受けるよりは大分ましだ。
「だ、大丈夫? 神田君」
「…………悪い」
心配そうなミランダの視線は今俺じゃなくて俺をガン見してる入り口の紅白に向けられている。
「あの二人は相変わらずだな…………」
呆れとも何ともつかないマリの呟きは果たしてこれまでに何度聞いたことか。
逃げこんで来たはいいが、一気に食欲が失せた。
どうしたものか、と手元の蕎麦を見下ろす。残すのは気が引けるが…………
ふっ、と手元に影が差した。
反射的に顔を上げ――――――二の腕にざわざわっ、と悪寒が走る。
「おっ邪魔ー♪」
「此処、いいですか?」
――――――っ!
「う、ああああああっ!!」
何で来るんだよこいつらは――――――!
反射的に俺は手元にあった蕎麦汁を投げつけた!
するとモヤシは左手を発動させて受け止める。
「うわ、驚きました」
「ユウ、今日も蕎麦? 好きさねー。俺がユウ好きなのと同じくらい好きなんじゃねぇ?」
気持悪ぃ!
ラビに意識が向いていた俺は、一拍遅れてモヤシの奇行に気付いた。
…………モヤシは俺が投げつけた蕎麦汁を飲んでいた。
「あ、これいらないんですよね? ご馳走様でした。…………神田と間接キス…………。ふふ、ふふふふふ」
〜〜〜〜、〜〜〜〜〜〜〜〜!!!
「あー、いいなぁアレン。ずるいさー。所でユウその蕎麦要らないんなら頂戴?」
そう言いながらラビは蕎麦汁も無しに(…………)俺の箸で(…………)蕎麦を食いだした。
…………ヤバイ、血の気が引いてきた…………。こんな眩暈は三幻式を使って以来だ。
体が傾ぎ、直ぐ隣にあったマリに頭を預ける格好になる。すると、
「ミランダ⇔マリ←神田ね。神田のマリへの横恋慕…………と」
リナリーが小さなノートに何やら物凄い勢いで書きこみつつ、俺達をガン見していた。
…………リナリー、お前は大人しくあっちで製本してろ…………。
あと敢えて突っ込むならそこは普通「ミランダに」横恋慕だろ…………。
「…………マリ。ストレスで胃に穴が空きそうなんだがどうしたらいい」
あぁでも俺はセカンドで治癒力あるから胃に穴が開いてもどうせ閉じる。寿命は削るが。
あー良かった良かった。
ヤケクソで呟くと、マリとミランダが両方向から手を伸ばしてきて、俺の頭を撫でた。
「おいそこの役立たず」
「…………随分な呼称ですがそれはもしや私のことですか、神田ユウ」
「うっせお前なんか役立たずで十分だ。モヤシ一匹の手綱も握れねぇ癖に」
「…………」
全てにやる気を失いふらふらと食堂を後にしようとしたとき。
そこによく見るモヤシの金魚のフン、監査鴉野郎がいたので取り敢えず文句を付けておく。
こいつが初めてモヤシに付いたとき、これで漸くモヤシの変質的行動から逃げられると喜んだ物だが飛んだ見込み違いだった。
「…………因みにアイツの奇行は中央にはどう報告してんだ」
「…………」
俺が訊くと相手はふいっ、と顔を逸らす。…………報告してねぇんだな。さては。
「もう一つ訊く。職場環境の改善要求はお前ん所の上司宛でいいのか」
「…………恐らくは」
よしじゃああのジジイん所にぶち込みに行ってやる。
そして俺は向かった先、ルベリエの部屋で文句をつけるも、「無理だな☆」と爽やかに言われたので取り敢えずルベリエと近くの鴉共相手に、思う存分暴れてきた。
もうやめて!神田さんの(精神的)ヒットポイントはもう0よ!
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