コムイと共に教団内部へと入る。その間互いにずっと無言だった。互いに何から聞けば、何を話せばいいか迷う、そんな空気だ。
 入って直ぐに俺は驚愕と、それから幾許かの軽蔑の視線を受けた。視線の先を辿れば、それは七年前にもいたファインダー達だった。

「…………」

 無言のまま室長室へ。
 中に入るとまるで時間が止まったみたいに、中にいた人間の動きが止まった。
 ひたすら凍りつく空気の中、コムイが一声。

「誰かリナリーを探してきてくれないかい?」

 その言葉に壊れた人形のようにカクカクと頷いた科学班のメンバーは、散り散りになった。リナリーを全員で探すんだろう。

「まぁ、座りなよラビ」

 …………宛ら犯罪者にでもなった気分だ。いや、この扱いはここでは実際にそうなんだろう。

「…………改めて。久しぶりだね、ラビ。無事でよかった」
「コムイこそ。元気そうで何よりさ」

 聞きたいことを腹の奥に隠したまま、そんな上っ面を撫でるような挨拶を交わす。

「…………」
「…………」

 駄目だ、またすぐに沈黙が落ちた。
 暫く視線を彷徨わせ、それから溜息をついて、覚悟を決めて聞いた。

「ごめん。単刀直入に聞くさ。…………『アレ』は何?」

 するとコムイはやや視線を厳しくして、

「もし君の言う『アレ』があの子達の事なら、それは改めてくれ。あの子達は物じゃないしちゃんと名前がある」
「…………」
「…………分かってるんだろう? 分かっただろう? あの子達を見て。あの子達が君にとってどういう存在なのか、分かってるだろう?」
「…………」

 …………。
 分からない筈が無かった。
 あれだけ、俺に似た顔をしていれば。そして俺と彼女の特徴をそのまま受け継いだみたいな容姿をしていれば。
 気付かない筈が無い。

「…………子供が出来てたなんて、知らなかった」
「…………」

 七年前。
 心当たりが全く無いなんて言ったらそれは嘘だ。
 ただ俺もユウも、勿論避妊には気を使っていた。それが100%ではない事は知ってたけど。

「…………はぁ」

 思わず溜息が漏れた。俺の、子供? 俺が父親? 嘘だろ?
 目を覆って溜息をついた。

「君の滞在は歓迎しよう。…………でも、あの子達に対する接し方は考えてくれ」

 コムイの言葉は正論で、だけど俺に取っては酷く難問だった。








 ガキンッ!

「っ!」

 相対する相手の両手に握られていた二つの剣、その内右手の方の剣が高い悲鳴のような音を立てて後ろへ飛んでいった。
 愛剣を取り落としたことに目の前の少年の表情が歪む。
 最近では此処まで綺麗に決めるのは、僕ですら難しい。
 …………そもそも、今日の鍛錬に彼の気が入っていないのは最初から分かっていた。

「今日は此処までにしましょう」

 発動させていたイノセンスを解除すれば、

「どうしてですか!」

 案の定直ぐ様噛み付いてきた。確かにまだ打ち合いを初めて僅かだ。
 子供っぽい直情さと老獪な大人の思考を合わせ持つ少年は、けれど僕らの前では歳相応でそれが少し嬉しい。
 だけど今そんな事を言っている場合ではなく、僕は年長者として、そして元帥として威厳ある態度を作り、告げた。

「それだけ気が散っているなら続けても無駄です。訓練はただ闇雲に剣を振り回せばいいという物ではない」
「…………」

 そう告げると、自覚はあったんだろう。彼は俯むいて、それから自分のイノセンスの発動も解除した。腰に挿して、そのまま腰を折る。

「有難う御座いました、ウォーカー元帥」

 挨拶が済むと、直ぐに声が降って来た。

「兄様、おやつー!」
「おやおや。ユイが呼んでますよ」

 訓練用のスペースの上の階、柵から身を乗り出した少女が叫んで手を振っている。すぐ傍らには彼女達の母親が佇んでいた。

「分かった、今行く!」

 叫び返した少年はもう一度僕に向かってもう一度頭を下げると、階段に向かって駈け出して行った。
 無邪気な子供達の様子に目を細めていると、ふと階段を下ってくる気配がした。

「?」

 カツン、カツンという足音。
 それから姿を見せたのは、

「神田?」
「…………」

 つい先程まで上の階でユイの傍に佇んでいた神田だ。教団に居る時に子供の傍に居ないなんて珍しい。どうしたんだろう。

「どうかしたんですか?」

 やってくる彼女の様子に違和感を感じた。今朝食堂で会った時と、何かが決定的に違う。

「――――――神田?」

 視線を上げないままやってきた神田は僕の真正面迄来て、そこで初めて顔を上げた。自分の肩を自分で庇うようにしながら触れている。
 …………酷く、不安そうな顔をしている。
 記憶にある限り、彼女がこんな顔をしたのはバチカンに子供達を、あの子達を奪われそうになった時だけだ。
 まさか、またなのか。あの懲りない集団は…………!

「何か、ありましたか」

 思わず声が固くなる。
 だけど僕の言葉に神田は首を横に振った。

「?」

 何、だろう。
 彼女は、一体何を――――――、
 彼女は視線を何も無い所へ彷徨わせてから、決意するようにして重そうな口を開いた。

「…………多分、直に、コムイから呼び出しが掛かる」
「? コムイさんから? 何の用で?」

 元帥位に就いて以降、任務はコムイさんからではなく大元帥から来ている。まぁ、あんまり聞き入れてないけど。此処でコウの相手をしてる時点で命令無視もいい所だ。改めるつもりは毛頭ない。

「…………あいつが、帰って来た」
「あいつ?」

 あいつって、誰の…………、――――――!

「ま、さか」

 そうだ、決まってる。彼女にこんな顔をさせる「人物」なんて。
 そうか、ならコウのあの様子にも納得が行く。――――――会っちゃいけない相手に、会ったのか。
 神田が知っていれば会わせたとはとても思えない。…………不本意な形で、出会ったんだろう。
 そうすればあの聡い子供は一瞬で理解する筈だ。いや、誰が見たって分かるだろう。あれだけ血を濃く受け継ぎ似た外見を持っていれば。

「…………、」

 言葉を失ったように神田は黙りこみ、そして間もなく彼女の言葉通り、僕に通信が入り室長室への呼び出しが掛かった。
 




 アレンは元帥。神田も臨界者だけど元帥にはなってない(子育てのため)
 子供達がもう少し大きくなったら元帥になる予定。
 息子はアレンの弟子予定。まだ弟子じゃない。


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