コムイはゴーレムを通して会話していた。

「うん、うん…………。じゃあ悪いけれど、頼んだよアレン君」
「…………」

 椅子に座りながらコムイの通信が切れるのを待った。
 アレンを呼んだらしい。
 俺はアレンが元帥になっていることを今の通信で知った。ログに付け加えておく。

「元帥…………かぁ」

 確かに俺が此処にいた頃から臨界者だなんだと言われてた、そりゃ七年も経てば昇格だってしてるだろう。けれどコムイが「ウォーカー元帥」と呼びかけたのは最初の一言目だけで、その後は昔と同じ呼称になった事を思えば本質的にアレンは変わって無さそうだ。
 通信が切れたコムイは改めてこっちを向く。

「…………詳しい事は彼から聞くのが一番だろう」
「アレンに?」
「七年間、神田君の一番近くにいたのは彼とリナリーだ。神田君が直接君に、…………七年間の事を丁寧に説明するとは思えないよ」
「…………」

 …………そりゃそうだろう。
 つい先程の入り口での瞬間。覆しようのない、拒絶を感じた。
 あれが正しい反応だろう、もっと大勢の人間にああいう態度を取られると思ってた。
 俺が、いや、俺達がやった事はユウの件を除いたとしても「裏切り」と取られても致し方ない。俺達から言わせてもらえばそもそも味方であったつもりもないけれど。

「まぁ最も、君の方で興味が無いならそれはそれでも構わない。もしそうなら、アレン君には別の事でも訊いてくれ」

 含むような台詞は、まるで試されてるみたいだった。








 ほんの少しの時間の後に、ドアがノックされた。
 コムイが声を掛けると、「失礼します」という言葉と共に入室してきたのは、

「――――――ラビ、」
「や、久しぶり。…………アレン」

 すげぇ。これまで見た奴らの中で一番変わってる。
 俺の知ってる十五の子供じゃない。当たり前だ、もう今のアレンは俺が此処にいた時よりも尚大人だ。
 俺を見て、一瞬ふと微妙な顔をして、それから俺の直ぐ側までやって来た。苦笑顔で右手を差し出してしてくる。

「お久し振りです。無事で、良かった」
「そっちこそ」
「アレン君、悪いがラビの案内を頼めるかい? 七年前とは色々変わってるからね」
「ええ、構いません」
「あ、そう言えば…………修行の途中じゃなかった?」

 修行。そう言えば、ついさっきユウが…………

『お前は今日アレンに稽古付けてもらう約束だろう? 早く行け』

 …………となると、ユウの、いや、ユウと俺の息子だろうあの子供はアレンの弟子なのか。
 溜息をついたアレンは首を振る。

「気が散ってるようでしたので、止めました。怪我をされても困りますしね」
「そうかい。…………じゃあ、ラビを頼んだよ」
「では、ラビ。着いて来てください」

 先導するアレンに導かれるまま、俺は室長室を後にした。







 大きく改造されていたフロアをざっと案内された後に連れてこられた先は人気の無い談話室と思しき部屋。
 アレンは部屋の隅に置かれたコーヒーメーカーから二人分のコーヒーを淹れて、片方を俺の前に置いた。
 俺の向かい側のソファーに掛けて、まずは二人で一口啜ってから。

「…………七年前、どうして此処を出ていったんです?」

 直球な問いが飛んできた。
 アレンの目には、殊更咎めるような色は無い。
 それなのに責め立てられているような気分になるのは少なからず後ろめたいからだろう。あぁ、この手の感情はブックマンには不要な物だと、何度も教えられていたのにだ!

「――――――ジジイの指示さ。教団の事は粗方記録したから、これ以上の滞在は無意味だって判断したんさ」
「でも、ノア側にも行かなかった」
「まぁね。幾ら何でも危なすぎたし、戦局を見守るのは外からでも出来た」

 実際俺はノアの連中に殺された掛けた事もある。

「そうですか。――――――正直君達が居なくなった時、敵として相まみえる事もありえるかと、覚悟していました」
「…………」

 アレンは腹の前で手を組み、俺を見据えた。記憶にあるモノよりも大分精悍さを増したそれは成程元帥らしい威厳を秘めている。

「七年間、今迄何処に?」
「色々さ。本当に色々。世界中回ってウロウロしてた。最初はジジィと一緒に、三年前ブックマンを継いでからは一人で」
「そう言えばブックマン…………いえ、今は先代ブックマンですか、彼はどうしたんですか」
「今でも元気さ。ブックマンになる前の名前の一つを名乗って生活してる」

 相変わらず頭が上がらないのは変わってない。年寄りの割には元気だ。

「成程」

 納得してはいなさそうな声で呟いたアレンは目を閉じた。
 暫くの後に再度目を見開く。その光がどうにも剣呑で、身が引き締まる思いがした。
 そもそも今の俺に取って教団は、敵地ではないけれどだからと言って無防備になれる場所でもない。向こうにとっても俺の存在はそうだろう。
 今のアレンが、旧知であるというだけでそのリスクを見逃す程甘くはないだろう事は分かっていた。

 色々と覚悟していた俺に届いた言葉は、少し意外なものだった。

「そちらから、色々聞きたい事があるでしょう。可能な限り、答えられる物は全て答えます。でもその前に言っておくべきことがある」
「…………」
「僕は君が帰ってきてくれたことは嬉しいと、素直に思います。でも正直な所、時期が僕にとってはありがたくなかった」
「…………時期?」
「ええ。出来れば彼女から、答えを貰ってからにして欲しかったですね」

 アレンは肩を竦めてそう言った。
 彼女、ってのは――――――多分、ユウの事だろう。

「答え、って何さ」

 嫌な予感がする。そう思った。
 アレンは堂々と、秘するところなど何も無い、そんな顔で俺を見据えた。それからまるで宣戦布告するみたいに言い放った。

「先日、僕は神田にプロポーズしました」

 それは正しく宣戦布告だった。
 




 アレンVSラビ。
 ブックマン(先代)はあれだ、アジア支部の近くにでもいるんじゃないですかね。
 若しくはブックマンの里みたいなのがあるか。



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