「ラビ。暫くお前を人に預けるぞ」
「…………はぁ?」





 中学三年、夏休み。
 中学最後の夏休みを怠惰に過ごす予定だった俺は(何故なら俺は受験予定の高校が余裕で合格圏内だったからだ)、ジジィに引き摺られて知らない家の前にいた。肩に背負ったボストンバックが重い。旅行用のスーツケースにも荷物が入っていて、それはもう重くてしょうがないから地面に置いてある。
 ガキの頃に両親を失った俺の直接の身内はジジィだけなんだけど、どうもこの夏休み期間中、ジジィは海外に用事があるらしい。
 だったら一人にしてくれればやりたい放題で天国なんだけど、そうは問屋が下ろさなかった。15のガキを一人にしてはおけない、そういう事らしい。
 心底気乗りしないまま、インターフォンを鳴らしたその家の前で俺達は家人が出てくるのを待っていた。

「お待たせしました」
「お久しぶりですな、ティエドールさん」

 少しの後に出てきたのはヒゲもじゃのおっさん。まぁ、悪い人じゃなさそうなのだけが救いだ。どうせなら美人なおねーさんでもいてくれれば幸せなんだけど。

「そちらが?」
「ええ。お電話でお話しした…………挨拶くらいせんか」
「…………ラビっす。よろしくお願いします」
「はは、こちらこそ。うちも、うちの子を一人にするには不安だったからね。」
「え?」

 うちの子を一人にする? ってことはもしかして俺と同じ状況?
 相手はどんな奴、思わず話していた相手の背後を覗こうとすると――――――


 ゴスッ。


 見事な踵落としが、目の前のおっさんの頭に向かって落ちてきた。
 …………痛そうさ…………。

「何馬鹿言ってんだクソジジィ」

 不機嫌そうな低い声。

「何が一人にするには不安、だ。滅多に帰ってこねぇ癖に」
「ああっ、寂しかったのかいユー君!」
「…………うっぜ…………」

 溜息が一つ。
 それからおっさんを退かすようにして出てきたのは――――――

 …………女の人?
 じゃないな、うん。そうじゃない。
 目の前には、俺より大分年上だろう、男がいた。多分男。きっと男。迷ってしまうのは、その相手が俗に云う美人の範疇に入る顔をしていたからだ。

「お前がラビって奴か?」
「あ、はい」
「…………一人に出来ないっつーからにはもっとガキかと思ってた」
「すまない、迷惑を掛けるが…………」

 すると目の前の相手は俺を上から下まで見回して、

「別に。この位育ってりゃ自分の事は自分で出来んだろ」
「ああ。存分にこき使ってやってくれ」
「ちょ、ジジィ!」
「黙っとれ」

 誰も世話して欲しいなんて思っちゃいないけど、それでも面倒はごめんさ!
 俺達のやり取りを見ていた相手は一つ肩を竦めて、俺の荷物を指さした。

「取り敢えず、それ持って入ってこい。部屋に案内するから。ジジィはとっとと空港行けよ、遅れるぞ。ブックマン、じゃあ悪いがこのジジィを空港まで連れてってくれ」
「承知した。ラビ、神田に迷惑をかけるなよ」
「ユー君、おみやげは何がいい!?」
「何もいらねぇ。この間みてぇにデカイ像なんか買ってきた暁にはブッ殺すぞ」

 剣呑な言葉を吐いてから、相手はドアを大きく開いた。
 後ろから小突くようにしておっさんを家から出し、代わりに俺を招き入れる。

「じゃーなジジィ。当分帰って来んなよ」

 そんな台詞と共にドアが閉められた。





 ラビ:中学三年生。15歳
 神田:大学三年生。21歳
 因みにリクエストを最初に拝見した瞬間「あぁ、神田によるラビの筆おろしの話かぁ」とか思ったのは秘密です。
 そんな事は何処にも一言も書いてない。



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