翌日。
 夕方やっぱり夕食が終わった位の時間にチャイムが鳴った。今度は誰だろう。

「はいはいはーいさ!」

 今日はユウ兄に訪問客なら入れていい、って言われてたから躊躇いなくドアを開く。
 と、そこにいたのは大きなダンボール箱を軽々担いだ、白い長い髪のお兄さん。俺を見てやっぱり不思議そうな顔をする。

「ん? 君は?」
「今期間限定でユウ兄んとこでお世話になってるラビっす」

 奥を指し示しながら俺はそう答える。

「そうですか、じゃあ上がらせてもらいますね。…………神田ー!」

 お兄さんは大きな声でユウ兄を呼んだ。
 するとリビングのほうから顔を出したユウ兄は、

「やっと来たかモヤシ。…………何だその荷物」
「それがバイト明けで疲れてる僕に掛けるねぎらいですかこのパッツン」

 …………何か言い争いを始めた。ちょっとおっかないから俺は離れた所で小さくなっておく。

「…………それにしても突然どうしたんです? AV持ってこいなんて」
「あぁ、アイツが使うんだ」
「!」

 指差されてこっちに注目されるとちょっと肩が震えた。二人とも方向性は違うけど美形なので尚更だ。

「あの子が? …………あぁ、何だ。一本二本で良かったんですか?」
「てーと、これ中身全部」
「AVです」

 白い髪のお兄さんが下ろしたダンボールは随分重そうな音を立てた。

「お前こんなに集めてんのかよ…………流石に引くぞ」

 うわぁ、という顔でユウ兄がお兄さんを見た。
 するとお兄さんは心外という顔で、

「違いますよ。寮で声掛けたんです。『神田がAV欲しがってるから、不要なのがある人は供出して下さい』って。皆処分に困ってたみたいで快く出してくれましたよ」
「…………おいこらテメェ、何言ってくれてんだ…………」
「だって事実じゃないですか。君の好みなんて誰も知らないから適当に幅広く持って来ました」

 …………爽やかに笑うおにーさんと、そのおにーさんが抱えているダンボールに入っているであろうもののギャップが凄い。
 ユウ兄は覗き込んで適当に一つを掴み、パッケージを見て。

「エグいなおい」

 熟女緊縛なんたら、というタイトルにそう感想を漏らした。

「これだけジャンルとかバラバラだと壮観ですよねー」
「いやそういうレベルじゃねぇだろ。…………おいラビ、好きなの選べよ」
「え…………。あ、うん…………」

 取り敢えず熟女緊縛モノはいらないさ。

「見ろ、アイツもドン引きしてるじゃねーか」

 お兄さん達の後ろから、そっと段ボールを覗き込む。

「だから僕の所為じゃあありませんって。っていうか全部貰ってくれないと僕が困るんですけど」
「余った奴、ビデオ屋売り飛ばしてくればいいじゃねぇか?」
「…………それもそうですね。手数料ってことで。やった、臨時収入!」

 その場合ビデオ屋の店員さんにお兄さんはどんな目で見られるんだろうか、とちょっと気になった。口にはしないけど。
 俺がダンボールの中を覗いているとユウ兄は一度キッチンに戻り、それからタッパーを持ちだしてきた。

「夕飯の残りもんあるぞ。持ってくか?」
「戴きます。寮の夕食時間終わってますし」

 言うが早いかサッ、とテーブルについたお兄さんはまだテーブルの上に出ていた常備菜を詰め始めた。心なしかホクホク顔だ。

「僕は君の性格は認めませんけど顔と料理の腕は認めてますからね!」
「褒めてんのか? 貶してんのか?」
「両方です」

 クソモヤシ、とユウ兄が毒吐いた。
 けど仲が悪い訳じゃないらしく、その声には内容ほどの険悪さは無い。
 現にお兄さんに渡す為だろう、ユウ兄は残りご飯を器用に丸めておにぎりにしている。

 テーブルの方の二人には割り込めない気がして、一人でこっそりダンボールの中から何本か失敬した。








 それから三十分くらいして、お兄さんはそろそろ帰るらしい。
 玄関でユウ兄の後ろに立って一緒にお見送りさ。

「それじゃあ、また。偶には寮の方にも顔だしたらどうです? 喜ぶ層がいるんですから」
「背筋が寒くなる様な事言うなよテメェ」

 ?

 ユウ兄に持たされた包みと俺が選ばなかった残りのAV入りのダンボールを持ったお兄さんがそういえば、と俺を見た。

「今更ですが、僕はアレン・ウォーカーです。神田の同ゼミ生なんですよ、宜しくね。…………でも君随分若いですよね? 神田?」
「十五だ。中学三年」
「一応建前上こういうのって十八歳未満は見ちゃいけない筈なんですけど」
「んなもん自己責任って事でいいだろ。今のガキで見たこと無いなんてヤツ居るのか?」

 俺達の頃と違って、とユウ兄が言う。
 君ねぇ、と呆れたように呟いたアレンが、

「まぁ見るなとは僕もいいませんけども…………まぁ上手くやって下さい」

 ようは「親に見せるな入手元を吐くな」って事さね。

「へーい。…………十八になるまでとっときます」
「んな訳ねーだろ」

 ユウ兄が鋭くツッコんできて、俺達は声を上げて笑った。







 アレンがドアを閉めるなり用は済んだとばかりにうユウ兄は踵を返してリビングに戻った。俺もその後を追う。

「ねーユウ兄。どうして「モヤシ」なんさ?」
「昔のアイツはチビでガリガリだったんだよ」

 今のお前よりもな、とユウ兄は言う。あれ、俺別に痩せて無いけど…………。

「それで髪が白いから、モヤシって」
「うわぁ酷いさー…………アレン怒ったんじゃないの?」
「散々殴り合った」

 ようするにユウ兄はアレンと付き合い長いんさね。
 今の俺と比較するってことは今の俺と同じ位の歳の頃から? 高校から、とかだろうか。

「アイツだって俺の事を女顔だのパッツンだのバ神田だの散々言いやがったからな」

 でも先に喧嘩売ったのはユウ兄なんだろうなぁ。

 俺はそんな事をぼんやり思いつつ曖昧に笑った。



 十五歳にAV見せようとする駄目な神田。
 アレンは神田と同い年で高校一年からの同級生。
 尚此処の大学生アレンは長髪アレンです。
 入学して初日、同じクラスで隣同士になって余りに互いに違いすぎて固まったという二人。腐れ縁。
 要はアレンとラビの立場入替みたいな話ですこれ。
 現在は割りと仲がいい。だかしかしこの話はラビュである。筈である。




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