とある日の修練場。
僕は珍しく、ラビと手合わせをしていた。
「行きますよっ!」
「来るさ!!」
武器の性質上なのか単に鍛錬に興味がないのか、ラビがこうして手合わせ相手になることは以外に少ない。
どちらかと言えば修練場に来ても僕や神田の手合わせを眺めていたり、隅で読書をしてたりする。
そんなラビを手合わせに引っ張り出したのは丁度暇そうなエクソシストが他にいなかったからだ。神田や他数人も出動はしていないようだったけれど、修練場に居なかった。
最初こそ渋られたけれど始めてしまえば彼も鍛錬は嫌いじゃないらしく(とは言え神田ほどのストイックさは無さそうだけど。)、打ち合いになった。ちなみにイノセンス、ラビの槌は接近戦に適していないとかで使っていない。ラビが手合わせに参加しない理由はそれかもしれない。僕もあわせて普通の剣を使っていた。
ラビが構える剣目掛けて突進して、狙う。
ガキンッ、と鈍い音。と共に、
「あーあ…………アレン、三本目」
あっさりと根元から折れた剣と手を振りながらラビが苦笑いした。
「うー…………」
極々普通の剣は僕が振るうには強度が足りない。先程から打ち合っては折り、打ち合っては折りの繰り返しだ。
「どーすっかね、何本あっても足りないさこれ」
「神田とやるときはこんなに折れないんですよ? ラビ、変な力の入れ方してるんじゃないです?」
「人の所為にするなっつーんさ。お前さんが馬鹿力で突っ込むからだろ?」
「むぅ」
そんなに力入れてるつもりじゃないんだけどなぁ…………。
かと言ってまるで入れないっていうのは鍛錬にならない。
「しょーがないさ。イノセンス使うか」
「え? いいんですか?」
「いいけど最初の間合いはきっちり取って欲しいさ。あと、あんまり壁とか傷つけないように気を付けないと何言われるか」
ラビが言い終わるのと僕が左手を発動させるのはほぼ同じタイミング。
「…………やる気満々すぎておっかねぇ…………」
そんなラビのため息混じりの言葉を合図に、僕らは飛びすさった。
眼の前にはラビが発動して大きくなった槌。
これを振り回すんだから修練場内での鍛錬には向かない訳だ。
僕らが最初剣で手合わせしてた頃にはいた見物の人達も、危険を察知して逃げ出している。実に正しい判断だ。
ほんの数瞬前に僕が居た所の床は凹んでいる。ガード無しに当たれば大変そうだけど生憎こっちは、
「っ!」
「うわっ!?」
再度落ちてきた槌を、左手で受け止める。
思っていたより質量があって、足がザザッと下がった。
「ちょ、アレン、コレそういう遊びじゃないさ!」
向こうでラビが何か叫んでるけど聞こえない。
そのまま持ち上げて、ラビごと後ろに放り投げて――――――
「こらぁぁぁぁぁぁ! って、ユッ…………!?」
何やら不穏な叫びと共に、ラビは壁にぶつかった。
壁の一部は崩れてパラパラと床に破片が散っている。
…………やりすぎたかなぁ。
「!!」
けどラビは直ぐ様立ち上がった。思ったよりダメージはなさそうだ。ざんね…………じゃなくて、良かった。
ラビに声をかけようとしたけれど、そんな言葉はラビの悲鳴にかき消された。
「ユ、ユウ!! 大丈夫か!?」
全身の血の気が引いた。
医務室近く。
僕が放り投げたラビは、丁度修練場に姿を表した神田にぶつかった。壁とラビに思ったほどダメージが無かったのは神田が間に挟まって丁度クッションになったからだったんだ。
その神田は頭を打ったらしくて意識不明。だけど大事はなさそう、そう聞いてほっと胸を撫で下ろしたけど、別の心配も勿論あった。
「あぁぁぁぁ怒ってる怒ってるぜぇったい怒ってる、ぶつかったのはラビだからラビに怒ってくんないかなぁ…………」
「おいアレン、お前その派手な独り言聞こえてるさ」
僕が長椅子で頭を抱えていると、隣に座っていたラビがジト目で睨みつけてきた。
「? 僕何か変なこといいました?」
「変っつーかもう、…………あーぁ、ユウの言う似非紳士って意味良く分かるさ…………」
「どういう意味ですか、失礼ですね!?」
「お前が俺に失礼さ」
廊下で言い争っていると、
ガチャッ。
「あ、」
「コムイ、ユウはどう?」
神田の病室に呼ばれて入っていたコムイさんが出てきた。
てっきり目覚めた、という知らせだと思っていた僕らにコムイさんは少し難しい顔で、
「二人共、ちょっと入って来てくれるかい?」
「? はい」
「目ぇ覚ましたんさ?」
「目は覚ましたよ。勿論意識もある。けどね…………。まぁ、ともかくちょっと入って来て神田君に顔見せて」
コムイさんに従って病室の中に入る。何時ぞやに使った大部屋じゃなくて個室だ。神田は気難しいからこっちの方がいいだろう。
てっきり罵声か、下手をすれば六幻が飛んでくると思ってた。けれど。
「神田君。――――――アレン君とラビだよ」
「…………」
病室。ベッドの近くには医療班の医師と婦長。
ベッドの上で上半身を起こしていた神田が、ゆっくりと僕らに視線を向けた。そんな仕草に違和感を感じて眉根を寄せる。
「…………ユウ?」
僕の隣にいたラビが、何処か戸惑ったように呟いた。
「神田君、彼らが分かるかい?」
「…………。…………」
神田からの返事はない。
「神田君」
「…………。知らない」
一呼吸置いてからの返事は、僕らを絶句させるには十分過ぎた。
アレ神成立前設定からスタート。
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