「…………で、何だって?」
「お断りです、だと」

 再び王族の兄弟達は顔を突き合わせて頭を抱えていた。
 今回の問題の主犯である末弟は姉妹達に任せて、別室での会議だ。

「ふざけるな、あり得ない、死んだほうがマシ、っつーかさっさと死刑にしろそれでいいって」
「…………アレンも嫌われたものだ」

 いや、ワイズリーやスキンも、最初はティキが彼女に頼んだ――――――命令ではない――――――内容に驚いたものだ。
「弟がお前を孕ませた、だから弟の妃になって欲しい」などと。因みにこの場合の弟とは勿論アレンの事だ。

「女じゃねーから分かんねーけど、確かに死んだほうがマシって思うかもな」
「いっそ死なせてやった方がまだ優しいんじゃないか」

 彼女こと神田から見れば自分に散々嫌がらせを繰り返した元主君で尚且つ強姦犯である相手だ。結婚など論外、寝耳に水、最終的には死んだほうがマシになるだろう。

「駄目だろ。アレンのガキ孕んでんだろ? なら腹の子は王族だ。死なされちゃ困る」
「でもまだ細胞レベルなんじゃ」

 恐ろしい事にアレンがやらかしたのはほんの二日前なのだ。
 神田が本当に孕んでいるのかも不明だ。アヌマスは確かに強力だが絶対という訳でもない。数ヶ月待ってみなければ検査にも掛けられない。

 溜息を付くと、丁度その時ドアが開かれ、国王と王太子の許に事情説明に赴いていたティキが帰って来た。

「どーすんだよ、ティキ」
「少なくとも処刑は無し。駄目絶対。表立った処分は一切無し、他言無用で行くつもり」
「セーフ」

 これで神田の命の保証はされた。
 双子のジャスデロとデビットがセーフ、とジェスチャーする。二人はそれ程神田と親しくしていたわけではないが、話を聞いてしまった今となってはこのまま神田が重罪人として死刑にされでもしたら、あまりにも目覚めの悪い話だ。

「アレンは当分の間謹慎と再教育。神田は数ヶ月城で「保護」するって。…………妊娠してなきゃそのまま解放してもいいってさ。そしたら陸軍で預かってもいいんだけど」

 果たして彼女が来たがるかは不明だ。
 元々陸軍志望だったらしいが、かと言って今回のこの事件。全貌を知っているティキの許で働きたいと思うだろうか。しかもティキがいるという事はアレンにも近いという事だ。

 問題は今後の事だ。
 神田には身寄りがない。いや、正しく言えば父親や異母兄達は健在らしいが、彼女が母方の姓を名乗っている通り、断絶済みだ。帰せる家はない。
 親衛隊は勿論除隊するだろうが――――――本人の望みでもある――――――、近衛や軍に今の彼女が居場所を見いだせるのか。人の口には戸は立てられない。事件の全貌を知るのは実質王族達とティキが信を置いている諜報の幹部数名のみだが、彼女が仕えていた王族に暴力を振るって解任された、という話は遅かれ早かれ出まわるだろう。そうすれば待っているのは好奇の目と反感だ。 

「アレで普通の女なら良縁でも世話してやればどうにかなったかもしれねぇのに」

 平民で身寄りがなく傷物、と嫌な方向に三拍子揃っているとはいえ元々彼女は貴色持ちという身であるし、それを抜いても容貌は十二分に整っている。王族が後見人になれば高位貴族へ嫁ぐことだって可能だ。望んで是非我が妻にと手を挙げる者も多いだろう。
 だが、彼らには分かっていた。絶対に彼女がそんな事は望まないことを。

「何ヶ月も待たないで、いっそ俺達の内誰かが娶ってやればいいんじゃね?」

 無責任にも聞こえる弟のセリフにティキは溜息とともに答えた。

「駄目。フられた」
「そこはもっと食い下がらないと」

 それは既にティキも考えたことだ。
 腹に子がいると仮定して、その父親のアレンに嫁ぐのは本人が全力で拒否。だったら兄王子の内誰かに嫁がせ、嫁いでからあまりにも早く子が産まれたとしても詮索無しで行く。
 例えアレンと同じ白い髪をしていたとしてもそこはそれ、叔父に似るのは不思議も何でもないだろうと言い張る。
 ティキは今は継承権第三位と王位に近いが、何れは既に婚姻している兄にも子が出来る。そうすれば継承権は当然そちらが優先で、今後順位は下るばかりの予定だ。それ程自分の血を遺す事に固執してもいない。そもそも弟の子なら我が子とまでは言わなくとも、身内であるのは間違いない。
 そんな事をつらつらと並べ立ててみたが、返事は素っ気なかった。

『お断りします』

 何故、とも聞けない雰囲気だった。それ位「断固拒否」そんな表情だった。顔色が非常に悪く、もしかしたら身重なのかもしれない、既に罪人としては扱われない事が決定している彼女をこれ以上煩わせるのも出来ず、ティキはそのまま退散した。

「んな事出来ないって。っていうかそろそろ精神状態が心配だったし」

 錯乱まではしないにしても、数日の事件と更には本人が予想だにしていなかった可能性や物事まで話が及び、相当混乱しているようだった。
 当面は城の奥深くで絶対安静の休養だ。
 顔色は悪かったが表情はいつもどおりだ。だが、それが上辺だけのものであるのは、堅く握りしめられた拳が震えている事からも容易く見て取れた。

「あー…………どうすんだよ、ったく…………」
「で、親父殿は孕んでた場合はどうするって? 産ませるのか?」

 スキンの言葉に、天井を仰いだり目元を覆っていたりしていた他の兄弟達はあぁそういえば、と再度ティキを見る。彼らが此処で何を論じたところで最終的には王が決定を下すのだから。

「…………まーね。理想は、アレンに責任取らせて添わせたいって」
「それもどーよ」

 何だか結局アレン一人がいい思いをするようで、そこはかとなく納得がいかない。いや、末弟が幸せなのは良い事なのだが、あまりにもその相手になる神田が気の毒じゃないだろうか。
 アレンが結婚したいと思っているのかどうかは今の時点では若干怪しいが、兄弟の共通見解ではそもそもの引き金はアレンの無自覚且つ行き過ぎた恋愛感情の暴走として見ている。

「どうしても無理っつーなら子供が産まれた後解放。一生遊んで暮らせる程度の纏まった金と、望むなら住居や職も用意してやれって」
「子供はどーすんの?」
「適当に王族筋の家柄の庶子って捏造する。今の所最有力候補はリー公爵家」
「あそこの家長は未婚だろうに」
「平民の恋人がいますー身分差で結婚できませんーでも純愛貫くので他の嫁はいりませんー子供は僕の子ですー?」

 ワイズリーが心底適当に棒読みにするとティキは頷いた。

「大体そんなカンジ」
「公爵結婚できないじゃん」
「いやその位当然の報いだ、だってアヌマスの種渡したのアイツだろ?」

 正妻を娶らず庶子しかいなければ家督は恐らくはその庶子に行く。もしかしたら妹が継ぐかもしれないが。そこは公爵家内の話になるので手出しできなくなる。まぁ、王族の子を預かるのだから悪いようにはしないだろう。

「結婚。結婚ねぇ。まだガキのあいつが…………」

 世も末だ。
 そんな意味合いを持たせた呟きに、誰もが頷いて答えた。



 この頃神田は別室にて気絶中。
 アレンは姉ちゃん達にメンタルボッコされてる。
 
 
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