開会の挨拶の後は立食形式のパーティだ。大食漢のモヤシも流石に場を弁えているのか料理には殆ど手を出していない。生殺しなんじゃないか、とチラと思った。城に戻ったら軽食の用意をさせなくては…………。
それとなくモヤシの背後に付いていると媚びた顔の貴族連中と談笑していたモヤシがチラリと俺を振り返り、視線を向けてきた。
離れろ、という意思表示に瞬間躊躇い、だが顔も名前も、勿論身元も知れている奴が多い所だ、と大人しく従って数歩下がる。
すると数秒前まで俺が居た所に別の奴がやって来て、モヤシに声を掛けた。
「…………」
まぁ、いい。道中モヤシには散々護衛ではなく一卒業生として出るようにと言われたんだ。(本人がついさっき護衛だとばらしていた気がするが。なんだあのダブルスタンダードは)軍や近衛に属している奴まで居るんだ。偶には任せるか。
離れついでにウェイターから飲み物を受け取って、バルコニーに出た。中の熱気の所為で暑かった所だ、体を冷やしてから戻ろう。
頬を冷たい風が撫でていく。ドアガラス越しには変わらず談笑中のモヤシの姿。任せると決めたのについ不審者が居ないかどうか周囲を確認してしまうのは一種の職業病だろう。
――――――どうしてこうなったんだか。
元々陸軍志望だった。学校在籍中、盛んに要人警護関連の課目受講を勧められたのはまかさその当時からモヤシ付きになるのが内定してたからなんだろうか。勘弁してくれ。人の人生設計捻じ曲げんじゃねーよ。
グラスの端を舐めていると、ふと視線を感じた。物言いたげに中から俺を見てくる何人か。
王子の護衛が何してる、という批判なのかそれとも物珍しさか。何方でも同じだ、煩わしい。面倒事を避けるために視線を逸らして、それから何時からこうやって回避ばかりするようになったのか、と自嘲した。昔の俺なら物言いたげな視線なら全力で食って掛かったものだ。我ながら血の気が多い。
眼前に広がる庭は王宮の物とは比べものにならないほど小さいがそれでも趣味よく整えられている。ぼんやりと見下ろしていると、
「――――――神田君」
声をかけられて、面倒な予感に眉根を寄せながら振り向いた。
王族に取り入ろうとするばかりの取り巻きにやや辟易しながら――――――元は自分で知りながら招いた災厄だ、仕方ない――――――、テラスに出ている神田を振り向いた。一瞬息が止まる。
命知らずが一人、テラスで神田と何やら話している。だが神田の態度は僕に対するソレと同じ、つれない物だったらしくやがて男はすごすごと戻ってきた。僕の視線に気づいたか、気まずそうに人ごみの中に紛れていく。
「…………」
だが、そんな神田のある意味残酷だが優しい態度を前にしてもそれでも我こそは、と思う命知らずはまだまだいたようでテラスに繋がるドアの前には彼女の様子を伺うように何人かが鈴なりになっていた。
彼女を護衛に迎える際に身辺調査は一通り済ませている。下級貴族と平民の妾の子。名家に嫁ぐには難しい産まれなれど、彼女の持つ色はそれこそ王族妃に擁立されるだけの価値がある。貴族にとってもソレは同じだ。寧ろ王家との縁が薄い分手に入れやすい――――――残念な事に世間一般的には彼女の生まれは軽々しく扱われる類のものだ――――――所にぶら下がっていれば必死にもなるだろう。
感情が荒れてざわつくのを冷静な一部で静かに観察する。彼女が彼らを受け入れる筈など無いのだ。
それは僕のものだ、触るな――――――そう叫べたらきっと楽だったのだろうけど。
あぁくそ、次から次へと鬱陶しい――――――!
一人追い返せばまた次の誰かだ、俺はお前らの顔も名前も覚えてねーんだよ! モヤシの腰巾着でもやってろ!
余りにも頻繁に声をかけられることに辟易してテラスから撤退した。普段はモヤシの護衛だから、俺の存在など良くてモヤシの添え物、普通なら視界にすら入らない空気だ。そんな雰囲気に慣れきっていたから、此処まで声をかけられることが鬱陶しいことだとは思ってなかった。
苛立って握りしめた掌は握りこんだ爪先で傷ついた。剣を握る手をこんな事で傷つけてどうする、と慌てて手を開く。
「モテますね」
「…………」
嘲りにも近いような笑みを浮かべたモヤシが腰巾着を下がらせたのか、一人で声を掛けてきた。
何処がだ何がだ、と反論するのも面倒で黙って睨み返す。
「お疲れみたいですね。はい、どうぞ」
「…………」
二つグラスを携えていたモヤシが片方の気泡が浮かぶ金色の液体が満ちたグラスを差し出してきた。いらねぇ。
だが主君から下されたものを断るのはまずい。二人だけの執務室でならばやるが、特にこんな人目ばかりの場所では難しい。
「心配しなくてもノンアルコールですよ。僕だってアルコールは嫌いですし」
「…………頂戴致します」
受け取って口を付けた液体は果実とハーブを効かせた冷たいものだった。果実の匂いがしっかりとしているにも関わらず甘くなく、ハーブだろうか、ピリリとした辛味が喉を刺激する。が、モヤシが飲むものにしては珍しい、と思った。子供のような(実際子供だが)味覚のコイツは何時まで経っても甘ったるい果実の飲料を好む。
次から次へと現れた俺の元同期生達とやらを追い払うのに普段大して使わない喉を使ったせいか、知らぬ間に乾いていたそこに冷たい液体は心地よく染みた。
腰巾着相手に事情は同じだったかモヤシもまた自分のグラスを飲み干していた。空いたグラスを受け取り、通りがかったウェイターに預ける。
「殿下、」
タイミングでも見計っていたのか、腰巾着共がまたモヤシに声をかける。
勝手に引き寄せた災厄だろうがご苦労なことだ。
もう一人になって誰かに纏わり付かれるのも面倒で、俺は大人しくモヤシから数歩離れた所に控えた。
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