ラビ誕生日記念verラビ×小悪魔?ドS?腹黒?神田嬢(クランベリートラップ)
八月。
大学は長期休暇に入っているこの時期…………俺は拉致られていた。
「ラビ、さっきの件はまだですか!?」
「おいおい早くしてやれよ、一分一秒の勝負なんだぜ〜?」
「…………はいはいはいはいはい!」
「うるせぇぞ。黙って手ぇ動かせガキ共」
俺の「お付き合いさせていただいている」ユウお嬢様の、父親とその部下二人組に。
バイト代は出してやる、だから夏休み中はうちで働け…………夏休みの一日目早朝、そう言いながら俺は文字通り、本気で拉致られた。燃えるゴミをだそうとした道すがら黒い車に引きこまれたんだから立派に拉致もしくは誘拐だろう。目撃者がいたら通報されてるレベルだ。そう抗議したら「そんなヘマするか」と鼻で笑われたんだけど…………あれこの人達真っ当な仕事してるんだよね?
行き先はユウの家でも親父さんの仕事場でもあるデカいマンション。引き摺られてきて訳もわからず混乱する俺を見たユウは一言、
「本当に連れてきたのかよ」
「俺が冗談ほざくと思ったのか?」
「まぁ、どうでもいいけど」
どうでもいいの!? 俺誘拐されたんだけどどうでもいいの!?
…………そんな風に抗議出来るはずもなく、俺は夏休み一日目から馬車馬のごとく働かされていた。
最初の半日で仕事の内容の説明をされ、午後から直ぐに実践だった。夜中までほぼ休憩を入れずに働き続けるユウの親父以下三人を見て、バケモンだ、と思う。直ぐに俺も同じ事をさせられるようになったけれど。
俺が馬車馬のように働かされている間、ユウはあの二言目が嘘ではない事を態度で示してくれた。親父さんの仕事に一切関わらないというユウは仕事場には姿を滅多に表さず、たまに現れてもソファーでペットの六幻を撫でながらお茶を飲んでいる程度。わざわざ仕事場でお茶をするのはユウの姿を見ると親父さん達のモチベーションが上がる、そんな理由だった。
何日間かはそれもなく、ティキに聞いた所母親の実家に帰っているという素敵過ぎる返事が帰って来た。…………本当に俺のことどうでもいいんだろうなぁ、と目元をそっと袖で拭った。
「その内戻ってくるよ、顔見せてくるだけだし」
「…………」
「まぁそれにもう一個の目的は果たしたってさっきメール来たしね」
ガゴッ!
「!!」
ティキが何事か言い掛けた瞬間、何故かすぐ側にいたアレンがぶっといパンパンなファイルでティキを殴りつけた。突然の暴力に唖然とする。
ティキがその場で頭を押さえてうずくまるのにアレンは「余計なこと言うからです」と吐き捨てた。実におっかない。
それにしても…………俺には一通のメールもないのに、ティキには連絡するのねユウ…………。
自分の立場は分かっている。ティキはユウが産まれたときから一緒にいる半分家族みたいな存在だし、少し遅れて一緒に暮らすようになったというアレンだってそうだろう。父親については言うまでもない。たかだが一年に満たない付き合いの俺が割り込める程緩い関係ではないし、向こうからしてみればむしろ俺が割り込んできていい迷惑、そんな感じだ。
でもやっぱりちょっと寂しい。だってこんな日なのに。
割り当てられた机の上に放り出してある最新型の携帯は新着メールが二十三通、と表示している。
中身を見る時間はないけれど、とフォルダを開くと案の定「誕生日おめでとう」とタイトルに入れられたメールが多数。
そう、今日は俺の二十一回目の誕生日だ。もっともたった今この忙しさの中じゃそんなこと言っても仕方ないけど。
即座に返信できないことをメールの送信者達に心の中で詫びて俺は画面を消した。
ユウが今日のことを知っているかどうかは微妙だ。知ってても無視するかもしれない。だったらいっそ知らないんだと思ってた方が精神衛生上宜しいだろう。
「手ぇ止めるなっつってんだろ」
「いだっ!」
飛んできた灰皿に後頭部をどつかれて、俺は目の前の画面に向き直った。
「ただいま」
午後四時頃ユウが戻ってきた。
「おかえりー」
「お祖父様達はどうでした?」
「あぁ、いつも通りだ。一緒に暮らそうだの何だのと随分引き留められた」
「渡さねぇぞ」
「断ってる」
職場スペースに顔を出したユウは後ろに付いてきてた運転手が捧げ持つ荷物をその辺に置くように言って、それから俺を見て笑った。
「すっげぇ顔。今にも死にそうだなお前」
「実際シニソウデス」
「体力無いなぁ…………」
「そんなんじゃ先が思いやられるぜー? お前俺達より若いだろうに」
アレンとティキが呆れたように言うが、俺からしてみればお前等が化け物すぎるんさ。どんだけ働いてんだよ。
「慣れだよ、慣れ。期待してるぜ? ボーイ」
言ってくれる、と俺は再度溜息をついた。肩やら何やらが強ばっていて凝り固まっている。
軽く動かして、またパソコンの画面に向かった。
ふと居住スペースの方からいい匂いがした。肉の焼ける匂い。此処数日何を食べたか忘れるほどだ(実際ロクなもん食ってない)から、その匂いに脳が過敏に反応する。
「今夜は肉だねー」
「久しぶりです」
「飯にありつきたきゃ手元の分終わらせろ」
「「yes,sir」」
…………ユウが晩飯作ってるんだろうか。
ユウが食事を作ってるところなんて見たこと無い。せいぜいバレンタインデーの時のチョコレート菓子だけだ。手際が良かったから満更料理できないって事は無いだろう。お嬢様だから普段は自分でやらないってだけで。
画面を睨みつつそんな事を考えているとどうやら容易く読まれたらしく、
「神田は料理上手ですよ?」
「プロ直伝で花嫁修業はバッチリ。嫁に出すつもりなんか一ミクロンもねえのになー」
…………そうなんだ…………でも嫁に出すつもりはないのに花嫁修業はさせるんだ…………。
今頃存分にその腕を振るってるんだろう。まぁ最も俺の分なんか存在していない可能性がデカいけど。期待は禁物さ、精神的ダメージがヒドくなる。
数分後ユウが夕飯の用意が出来たことを告げに来たときにちゃんと俺も呼ばれたことに密かに安堵した。
ディナーのメニューはスープにサラダに分厚いステーキ。それから知らない銘柄の、どっしりとした重みのある美味しい赤ワイン(製造日をチラ見したところそれは二十一年モノのヴィンテージだった。普段使いにしていいんだろうか)と数種類のプチフール。
「ボルチーニのいいのが手に入ったからスープにしたんだ」
「美味しいです。お祖父様から頂いたんですか?」
「あぁ」
数種類を盛り合わせた甘いプチフールも美味しい。
暫く黙々と食べていると、ふと視線を感じて顔を上げた。含みのある視線の、クロス。
「…………?」
見上げるとふい、と視線は逸らされた。
? 何だろう?
まぁ、何でもないなら別にいいんだけどさ…………。
やがて食事が終わると俺は追い立てられるようにして仕事用のスペースに向かわされた。
「んで、どうなんだ? 使えそうか」
「…………まぁな」
ティキとアレン、ラビを仕事に戻らせておいて自分は戻らない親父に肩を竦める。
「飲み込みが早い。それなりに度胸もあるな。何つってもどこの言葉でも困らないのが一番の強みか」
「翻訳ソフト要らずだな」
ソファーに鷹揚に腰掛けて食後のウィスキー(このあと仕事に戻るはずなのにだ)を楽しんでいた親父に、指先で来い、と示される。
大人しく従って隣に座る。ごく自然に肩に回された腕に、頭を預けた。
「…………が。お前をくれてやる気にはならねーな。ようやくスタートライン、って程度だ」
「…………」
「それはそうと、何だあの晩飯は」
「あぁ…………あいつ今日誕生日なんだよ」
好きな食べ物は焼き肉とか言ってたけどそれは却下だ、うちにはプレートも網も使わないから無い。
だからせめて、と同じ肉類にした。ついでに生まれた年のワインと、バースデーケーキでそうと分かるようにしてやるのは腹立たしいのでプチフールにして。
「…………まだ嫁にはやらんぞ」
拗ねたような物言いに思わず苦笑した。
「俺だってあいつに嫁ぐ気はない」
あの鈍いバカに嫁いでやるつもりなんて。
当分、無い。
昇ってこいと嘲ったのは俺。
昇ってきたのはお前。
「…………昇ってきたのを突き落とすべきかどうか、悩む」
「突き落としとけ」
「ふふ。…………さて、取り敢えず突き落とす前に栄養補給、させてきてやるよ。…………なんだよその顔、労いの言葉を掛けるくらいいいだろう」
「気に入らんな」
「言ってろ」
『あぁバカ兎、仕事ご苦労。――――――それから、誕生日おめでとう』
<終>
何が腹黒って適度にラビがくじけないように飴も与えてコントロールしてる所が腹黒。
ところで誕生日分マジ薄い。