ラビュ大学生パラレル。
12/22 PM3:45
講義終わり。
テキストと資料を鞄に仕舞いつつビカビカ光っている携帯を取り上げた。
伝言あり、の表示に眉根を寄せ、ついでに着信履歴に残っていた名前にその眉根の皺をより深くする。
気が進まない、そんな表情のままメッセージを再生させ――――――
『ユーウー!! 25日、付き合って欲しいさぁァァァァァ!』
そんな泣き言に、思わず神田ユウは大きな溜息を吐いた。
同じ大学の同じキャンパスだが学部が違う為に日中顔を合わせることは少ない、腐れ縁の幼馴染みをうんざりと見る。
食堂の机に突っ伏してやがるので此処から見えるのは暑苦しい色合いの髪と旋毛だけだ。
「つかテメェ、女はどうしたんだよ」
聞きたくもないが訊かなければ話が進まなさそうだ。仕方無しに口にしてみる。
と、くぐもった声の返事が返って来た。
「…………フラれた…………」
「へー」
どうでもいい。
だがしかし、何でこいつはこう頻繁に女に捨てられるんだ。
俺の腐れ縁の幼馴染のラビは、幼馴染の欲目を差し引いてもそう悪くない顔立ちだし、頭の回転が早いから会話していて楽しい、とは高校の同級生の弁だ。最も俺の頭の回転数はラビの半分以下であるので正直何言ってるんだか全く分からない事が多い。
「何もこんな時期にフラなくたっていいのに…………」
「いいんじゃねぇの? クリスマスに何か貢ぐ手間と金が省けて」
俺が慰めのつもりでそう言うと、漸く顔を上げたラビが渋面を作って、
「ユウ、幾ら何でも夢なさすぎ」
「お前は夢見すぎだ。二股掛けるような女に何の夢見てんだよ」
「うっ…………てーかユウ、どうして知ってんの?! 俺まだ言ってないよね?!」
「これまでお前が女に捨てられたってーのは大体二股掛けられて乗り換えられたからだろーが」
「うぅ…………」
というのは勿論建前で、実際は俺はラビの女(元)が他の男とも付き合っているのは知っていた。
性格か顔かその他かは知らないが兎に角俺は女に好かれない。その代わりとでもいうかのように、男によくまとわりつかれる。そんな奴らは当然俺と近しいラビの事も知っている。
そんな奴らの何人かが、口を揃えて言っていた。「あの女は駄目だ」と。ラビの他に何人も男がいるのだと。
とは言えそれをわざわざラビに報告するつもりはなかった。恋は盲目とも言う。嘗て親切にも報告してやったところ逆ギレされたこともあるので尚更だ。
その時の事を思い出すととうに数年は経った事なのに今でもムカムカしてくる。
なので、意地の悪い事を言ってみた。
「ところでラビ。俺はその日サークルの集まりがある」
「!」
といっても嘘でも何でもない。事実だ。
大学の武道サークル(残念なことに剣道単体でサークルが存続できるほど人数がいない、だがそれは他の武道の奴らも同じだ)ではクリスマス前日のその日、恒例の柔剣道場での鍋パーティーだ。勿論参加するつもりだった。こいつからのあの着歴がなければ、だったが。最も前日は同じくサークルで飲み会だから鍋パーティーとは要するに独り身の奴らが傷を舐めあう、若干のヤケクソ感漂う生温いパーティーだ。
人と騒ぐことは苦手だが余りにも逃げすぎても顰蹙を買う。去年も出た結果酔っぱらいの一人(無論男だ、武道サークルにいる女は片手で足りるほどしかいない、ちなみにその数えるほどの女は何故か揃って「年末の締め切りが」「年末の準備が」とか言ってるんだが年末に何かあるのか?)に告白されるというちょっとした罰ゲームを受けたが幸い他の奴がそいつを殴り飛ばしたのでまぁいい。
「え…………ユウ、付き合ってくんないの?」
正しく兎の耳が折れた。
まるで縋りつくような目をしたラビが上目遣いに俺を見上げる。――――――これが二十を越えた男かと思うと気持ち悪い。心底気持ち悪い。
「…………。お前に乱入されるのも迷惑だな」
去年も全くコレと同じ状況で、俺はサークルの方に出た。結果、何故かコイツが乱入してきて、それだけでは飽きたらず泥酔して裸踊りするという見事なまでの醜態を晒してくれた。その場でしばきあげて連れ帰ったのは言うまでもない。
「鍋代、お前が全部出せよ。どうせお前が殆ど食うんだから」
一々コイツに付き合ってやる俺はなんて人が良いんだ、と心の中で自画自賛して頬杖をついた。
12/25、PM9:00。
「おいラビ、テメェそこで寝るんじゃねぇよ!」
「やーだよー、ユウんちのコタツ暖かい…………」
鍋の中身は空だ。汁の最後の一滴まで飲みつくしたラビはコタツの中に入って出てくる様子がない。
「洗い物手伝えっつーんだ、よっ!」
「うぎゅっ!」
コタツから辛うじて出ていた赤い後頭部を全力で踏み抜く。
じたばたと暴れ、やがて諦めたように動きが止まった。のそのそと外に出てくる。
「手伝わせてイタダキマス…………」
「小皿集めてもってこい」
ラビに命じてから鍋を持って流しに向かう。ガシガシと洗っているうちに後からラビがやって来て、
「そういやさ、結局クリスマスは毎年一緒に過ごしてるよね俺達」
「お前が毎年この季節に捨てられるからだろ」
「うっ!」
しかし、まぁ、よく懲りないもんだ。俺だったら二人目位で面倒になる。確実にだ。
「何度やっても懲りねぇんだからお前も大概だ」
「だって一人じゃ寂しいじゃん。……………………ユウ剣道ばっかで構ってくんないし」
「あ? 何か言ったか?」
突然小声になったから聞き取れなかった。
「いーえ何でも。あ、ユウ、ケーキ買ってきたから食べよーよデザートに」
「甘いもんなんかいらねーし一人で食えよ。それにしても明日には半額になるのに何で今日買うんだお前は」
「一人でワンホールは流石に無理…………それにユウ相変わらず夢無いね…………」
大体男でケーキ突っつきあうってどんな絵面だ。地獄絵図か。
「酒出して来い、酒。そっちなら付き合ってやる」
「ユウってば弱い癖にお酒好きさね…………つまみはケーキ?」
「もうケーキなんかモヤシにくれちまえよ」
しかし本当に毎年だ。
結局俺の部屋で鍋になるのも、こいつが俺が食わないケーキ買ってくるのも。
いい加減互いに、
「もう諦めるか」
「え、何を?」
「…………何でもねぇよ」
来年も全く同じ事をするであろうことは、既に予感出来ていた。
――――――まぁ、悪くはねぇけど、な。
<終>
実はラビ⇔ユウ。
互いに確信犯でこの状況に持ち込んでる所がある。
武道サークルの女性はアレだ、冬の大祭典的な所に用があるに違いなかろう。