「ねぇ神田」
「何だ?」
 
 夕飯の支度中。
 下ろすと泣く、他の奴に抱かせても泣く。
 だったら料理中でも抱いてるしかねぇ。
 …………いくら赤ん坊だっつっても、結構腕に来るなこれ。

「…………その子、うちの玄関にいたんですよね?」
「? ああ」

 モヤシが手元の野菜(皮剥き中)に視線を落としたまま話しかけてくる。
   
「…………その子の母親、こんな寒い時期にそんな小さい子を置き去りにしたんですか」

 …………モヤシの言葉には非難する色が浮かんでいた。

「モヤシ、」
「そんな小さい子、体力無いのに。もし誰も帰ってこなかったら、もし二人が帰ってくるのがもっと遅かったら、風邪引いたかもしれないのに、それが原因で死んじゃうかもしれないのに、」
「…………」


 ダンッ

 
 モヤシが振り下ろした包丁がじゃがいも諸共まな板まで真っ二つにした。…………相変わらずの馬鹿力だ。

「それこそ動物じゃあるまいし、責任も取れないなら子供なんか産まなきゃいい。――――――産む資格なんか、無い筈なのに」
「…………」

 …………モヤシがこの赤ん坊に何を重ねたかは言われなくても分かる。
「いらない」とでも言うかのように、捨て置かれた境遇に――――――自分を重ねたんだ。こいつは。

 …………この子供が、もし、父上の子でもティキの子でもなかったら、一体どうなるんだろう。
 やっぱり、施設、――――――か?

「…………その子、どうなるんでしょうね」

 今父上がDNAの鑑定の出来る病院に問い合わせしてる所だ。結果は、二、三日で出るらしい。
 
「…………」

 しかし、その結果如何でどうなるかは基本的に父上に決定権が在る。…………勿論この子供がこの家の誰とも血の繋がりの無かった場合のだ。もしもあったならば、言うまでも無い。此処で育てる。
 腕の重みを再度抱き抱えなおす。赤ん坊は静かに眠ったままだ。
 思わず天井を仰いだのは重さの所為にして、俺も溜息をついた。







「美味しい♪」

 じゃがいもその他の根菜が甘辛い汁を吸って、しみじみ美味しい。
 僕は二日振りの神田の手料理(僕も手伝ったんだけど)を口に運んで幸せな気分だった。
 向かい合うところに座った神田は、腕の中の赤ちゃんを気にしながら片手で器用にご飯を食べている。何せ下ろしても他の人が抱いても泣かれるから、しょうがない。
 神田の隣のラビは何度か赤ちゃんにちょっかいを出しては泣かれそうになってすごすごと退散している。

「「…………」」

 師匠とティキは、顔を片手で覆って溜息だ。
 まぁ自業自得なのか何なのか(勿論冤罪の可能性だって捨てきれない訳だけど)、知らないけどまぁどうでもいい。

「ぁー、ぅー…………」
「ん…………?」

 赤ちゃんが小さな手足をパタパタ動かしている。
 神田が怪訝な顔で腕の中を覗き込んだ。

「機嫌いいさね」
「お前が手ぇ出さなきゃな」
「あうっ!」

 ラビがショックを受けたような顔で胸を押さえた。

「ていうか何でその子神田だけに懐くんですか?」
「俺が聞きてぇよ…………」
「人見知りの時期なんじゃない?」
「人見知りなんてすんだったら何で俺に…………」
「ユウがお母さんに似てるとか」
「待て何で母親なんだ」
「…………そんな髪長い男の人、そうそういないさ」

 そりゃまぁ、確かに。
 大体神田は普通に女の人に見えr

「…………おいコラモヤシ」
「何でもありませんごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

 …………神田に思いっきり睨みつけられた。ちょっとぞくぞくした。
 余韻にうっとりしてたらラビがドン引きしてたけど、まぁいいや。

「ぅー…………」

 と、ついさっきまで機嫌よさそうだった筈なのに、小さく泣き声のような声が上がり始めた。

「ああお前、眠いのか」


 ガタッ、


 神田が椅子を引いて立ち上がった。

「神田?」
「明るくて寝れなくて嫌がってるみてーだから、戻る。後は頼む」
「あ、部屋のドア開けるさ、ついてくね」

 ラビも続いて席を立ち、二人は階段を上がっていく。
 なんとなく物足りないような、寂しいような、そんな感覚に僕は一人で小さく溜息をついた。

106へ
104へ

beautiful daysトップへ  



小説頁へ