朝七時。現在神田が朝食の準備中だ。いや俺達だって何もしてない訳じゃないけどな。
 赤ん坊を抱きながら見事に卵を焼いていく神田は何処からどう見ても人妻だ。是非に嫁に来て欲しいところだけどそんな冗談はさて置いて。

「…………アレン」
「何ですか?」

 向かい合うところでテーブルを拭いていたアレンに、俺は若干底意地悪い考えで声を掛ける。

「お前さん、妬いてるだろ」
「…………ははは何を言い出すんですか? 僕があんなちっちゃい子に嫉妬なんてする訳g」
「まず誰もあの赤ん坊の事だなんて言ってないぜ?」
「…………」
「ん? 腹減ったのか?」

 背後で神田が赤ん坊の声に反応して話しかけると、目の前のアレンがムッとした顔をする。

 あーあーあー…………

 苦笑いの顔で見ると、流石にアレンが気が付いてはっ、とした表情を浮かべた。直ぐにバツが悪そうに顔を背ける。

「べっ、別にそういうんじゃないですからね!?」
「そういうって何だよ」  
 
 神田が他に気を取られるのがどうしたって面白く無いんだな。  
 まぁ元々独占欲の強いアレンの事だ。不思議でも何でもないだろうけど、今回ばかりは相手が悪い。

「…………いいなぁ、」

 ぽつん、とアレンが呟いた。

「…………ああやって、ちょっとでも泣けば直ぐ誰かが気に掛けてくれて」
「お前さんが泣いても多分神田はどうにかするぜ?」
「それは僕の期待する気に掛け方ではありませんよ」

 …………じゃあどんなだ?

「四六時中僕のこと考えて欲しいなぁ、なんて」
「…………お前知ってたけど歪んでるなぁおい…………」
「五月蝿いですよ。…………まぁ、神田はそんなに視野狭い人じゃないって事位知ってますけどね」
「お前はめっちゃ視野狭いよな」
「知ってます」
「自覚あるのかよ」
 
 アレンはふきん片手に溜息をついた。

「…………どうしよう。好き過ぎて、潰れそう…………」

 その本当に真剣な呟きに、俺は思わず苦笑一つ漏らして、それから我が身を振り返ってみたりした。





「…………おい」
「父上、」

 夕方。
 俺がリビングで一人赤ん坊にミルクをくれていると、父上がやってきた。

「他の奴等はどうした?」
「まだ学校です。俺はこいつ見てるから、早く戻ってきました」
「そうか…………」

 言いながら父上がどこからともなく封筒を取り出した。

「?」
「結果だ」
「!」

 はっ、とした。そうだ。そう言っていた。遺伝子の検査で、血縁関係があるのかどうか調べる…………と。

「結果はシロだ。俺もティキも、そいつとは全く血が繋がってねぇ」
「…………」

 その言葉に、俺は視線を伏せた。
 …………そんな気は、何となくしていた。何となく、だが。

 腕の小さな重みを、守るように抱き寄せる。

「…………で、だ。そいつだが…………」


 ピンポーン


 父上が何か言いかけた時。
 玄関から、呼び鈴の音がした。
 思わず父上と顔を見合わせてから、俺は玄関に向かう。

「…………はい、どちら様…………」 

 そしてドアを開いた。
 …………そこに立っていたのは一人の女。そう若くも無い。
 一瞬来客(父上的な意味で)かと思ったが、


 その女の視線が、俺の腕の中の存在に注がれているのを見て、俺は全てを察した。

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