「…………そうなのか?」
…………12月も後半の、ある昼下がり。
「あれ? 知らなかったんさ?」
目の前がラビが意外そうな顔で俺を見る。
…………神道の俺には関係ないが、明日は世間一般的に「クリスマス」とか言う日だ。何でも偉い大工の息子の誕生日らしい。
キリスト教徒程盛大に祝った事は無いが、俺も母上と世間一般的レベルでイベントごととしてやった記憶はある。…………つっても夕飯がチキンとケーキになって、しかも俺も母上も甘いものが苦手なのでかなり苦心して(そして大体新年まで掛けて)ケーキを食ってたな。
何気なく、今年は家でどうするか、という話になったのだが…………
「…………全然聞いてねぇぞ」
何と明日は、モヤシの誕生日だと言う。
…………全く知らなかった。
「何かやった方がいい…………んだよな?」
「んー、どうなんだろ? 今まで俺らそういう事した事無いし。でもまぁ、やってやればアレンは喜ぶさ」
「…………、」
…………誕生日か…………
奴の喜ぶようなもの…………、…………食い物?
それ以外が思いつかない。
「…………手の込んだものでも作るか…………」
「まぁアレンには物よりそっちのがいいさね」
…………甘いもんでも、他の奴らが(つかモヤシが)食うだろうしな。
俺はひそかに材料の計算を始めた。
「どうせなら驚かしたいじゃん?」
俺が明日のことを話すと、ティキが笑った。
「驚かす?」
「今まで俺らクリスマスも誕生日も家で祝った事ないからさぁ、突然そんなのあったらアレンだって驚くって。どうせならギリギリまで黙っとけば?」
…………ふむ。
「…………つーか、今まではどうしてたんだ?」
「俺は実家の方かな。んでラビとアレンは多分ダチとやってたんじゃねぇ?」
「…………とりあえずまず明日奴が本当に家に居る予定か聞いといた方がいいな、そりゃ」
「んじゃ俺探り入れとくわ。神田が聞きに行くと感づかれそうだし」
「頼んだ」
俺は自室に取って返し、図書館から借りてきた本を鞄から出した。
ケーキの作り方だ。
甘いものは専門外だし、殆ど作った事がねぇ。苦手だしな。
でもまぁ、ようは作り方通りにやれば変なものは出来やしねぇだろ。
写真を見るだけで胸焼けがするが、此処は堪え所だ。
「…………あ、やべこのデカさじゃオーブン入らねぇな…………」
12月25日。
朝俺達はいつも通りに(全員ポーカーフェイスが得意だ。多分ユウはポーカーフェイスっていうよりも何か企んでるつもりが無いんだろうけど)朝食を終え、学校に向かった。
ティキに言われ俺は今日アレンを7時まで連れまさないとならないんさ。いくらユウが手際が良くたってそんないくつもの料理を1時間ばかりで作るのは無理だしね。
アレンも特に普段と変わった様子も無い。
「なー、アレン」
「はい?」
四時間目を終えて昼飯時。
四時間目が第二外国語の為別々になった俺は、アレンと一緒に食堂でユウを待ちながら(ついでにジャスデビも待ちながら)何気なくアレンに話しかけた。
「今日、ちょっと帰りに街の方寄ってかねぇ?」
「街の方ですか? 何でです?」
「冬のコート見たいんさ」
「そんなの一人でいってくだs」「因みにユウの」
「分かりました行きましょう!」
…………分かりやすいなぁ。
ユウのワードローブはびっくりするほどお粗末なので(着れればいいって言わんばかりの服ばっかりさ)俺達がこっそり買い足しては入れている。ユウは特に気付いてなさそうさ…………。
「神田だったらロングコートですよねー」
うっとりしながらどっか斜め上を見てるアレンに俺は小さく苦笑した。
「そういえば神田はどうしたんです?」
「先に帰って貰ったんさ。ほら、ユウいるとユウの好みになるから…………」
帰りの車内。一人少ない事に訝ったアレンが声を上げた。俺は其れを適当に誤魔化す。
「…………それもそうですね。前いちきゅっぱの買おうとしてて慌てて止めましたもん」
「ああ、お前がレディース渡してユウにぶん殴られてた時の?」
「レディースだって紺とか黒ならいいじゃないですかー。神田細身なんですし」
「そういうこと言ってるとユウがまたプロテイン飲もうとするさ…………」
「…………」
「…………」
「自重します」
「そうするさ」
一方その頃。
…………さて、
「やるか」
「…………確認するけど神田、これ全部今夜の分なんだよね?」
「ああ」
大学から戻ってきたティキが俺と一緒に台所のテーブルの上を見て呆然と呟いた。
まぁいつもの五割り増しくらいの量ではある。特に果物と生クリームが凄い。時間的な制約があるのでスポンジ部分は昨日の夜のうちに焼いて空き部屋に置いてある。
これは急がねぇと間に合わないな。今ラビがモヤシを連れまわしてる最中だが、余り遅くなる訳にもいかねぇし…………。
「ティキ、そこにある卵全部割ってボールに入れて、果物全部洗ってくれ。…………バナナは洗わなくていいからな?」
ガキに指示してるみたいだがこうでもしねぇとこいつらは何を仕出かすか分からない。前に一度米を洗剤で洗われて絶句した事もある。
「はいはい、了解ー」
そこから俺達は余り会話する事も無く、黙々と調理に取り掛かった。
「はー、遅くなっちゃいましたね。神田怒ってないといいんですけど…………」
…………7時ちょい過ぎに俺達は家に戻ってきた。
ユウが俺達の外出を知らないと思っているアレンは心配顔だ。
さっきメールでティキに訊いたら一応ほぼ完成してるとか言ってたからきっと大丈夫だろう。
アレンが盛んにリビングを気にする様子で足早に向かう。俺もその後をのんびりついてった。
「ごめんなさい神田、戻りまし…………た…………?」
そしてその先の光景に、俺までも思わず目を見張ったんさ。
「…………神田、これ…………」
「ちょっと椅子支えてろ」
そんな事をのたまった神田は、いくつ目になるか分からないスポンジを、更に載せた。
…………結婚式のウェディングケーキみたいだなおい…………。
下から段々小さくなるように設計されたスポンジを六層重ねて、それで漸く高さは出たらしい。そうはいったって多分1メートル超えてる。テーブルの上に置くと俺等の身長より高い。
神田は更に器用に生クリームを塗りつけて行き、塗り終わると今度は細かく切った果物(五種類のベリーとキウイとバナナだ)を一番上から順に撒き始めた。どう考えても素人の域を超えている。そして量も一般家庭のキャパを超えている。ってもアレンがいるからきっといけるんだろうけど。
…………凝り性だからかねぇ…………。
余った果物を上の段との境目と更に盛り付けて、神田はようやく満足そうな溜息をついた。
…………保父なんか似合うと思ったけど、これならこっちの道でも十分食べていけそうだ。
椅子から降りると神田は今度はキッチンに戻り、オーブンの中を覗き込んだ。塩コショウやスパイスを擦り込んで、詰め物をしてオリーブオイルを塗りつけた大きな七面鳥がこんがりと焼けている。肉の近くに置いた野菜も肉汁を吸って旨そうだ。レストランで普通に金取れるレベルだろう。
「こっちはもう少しか…………」
「神田ってこういうのも出来たんだ…………」
「? 初めてだけどな。本の通りに作りゃ失敗なんかしねぇよ」
「…………」
そういうもんかねぇ…………?
その他、神田曰く適当な(俺から見りゃやたら立派な)オードブル数種を銀の大皿(これも初めて見た。何処にあったんだ)に載せていく。
「そろそろだな」
「だね」
それをテーブルに運んだ、ら。
「…………なんだこりゃ…………」
…………クロスがいた。テーブルの前に立ってケーキを見上げている。…………見上げて、っていう表現が既に可笑しい気がするけどね…………。
「あんたいっつも手伝うこと無くなるくらいに丁度よく来るよね…………神田の力作。すげぇよな」
「ただいまー」
「お、帰ってきた」
クロスと二人してケーキを見上げていると、玄関の方から声がした。
「神田、二人共帰ってきたよ」
「ああ」
「うわ…………な、何ですかこれ?」
驚いて―――――――特にテーブルの上のケーキにだろう俺だって驚いた―――――――目をしばたかせるアレンに向けて、俺とティキはポケットから取り出したクラッカーを鳴らした。
パンッ
「うわ!?」
「「「「Happy Birthday,Allen」」」」
Happy birthday Dear My Familly.
何処かの誰かの誕生日より、お前の誕生日を!