「…………寒ぃな…………」
俺は窓から外を見上げながら呟いた。部屋の中は暖かくても、窓の傍は少し、寒い。
寒いのは冬なんだから当然だが天は灰色に曇って、ちらちら白い物が舞っている。
そろそろ外で鍛錬するのはキツくなってきた。
…………まぁ最も。
「なー、何処行くよ? やっぱ南半球の方?」
「ゴールドコーストの別荘は? 暫く行ってませんよね。あとポルトフィーノとか…………」
「あとはー、そうさねぇ…………面白いとこでセント・トーマスのとかドバイのとかモンテカルロとか…………」
…………やたら暖かい部屋で暢気な事ばかり言ってるこいつらには全く関係ないんだろうが。
「ねー、ユウもこっち来るさー。ユウは何処がいい?」
「何処ってなんだよ」
「休みの間に何処行くかって話。寒いし、どっか暖かいところ行こうよ」
寒いってお前ら、この部屋の中に居て寒いとか言うか?
俺が前いたアパートなんてストーブ焚いても焚いても寒かったんだぞ。(今から考えるとあれ絶対どっかから隙間風入ってたな)こたつに入ると出たくなるなるんだよな…………。
「南半球なら暖かいですよ」
「…………海外?」
俺は眉根を寄せた。…………海外、っつーことなら…………
「外国なら俺行かねぇからお前ら行って来い。留守番してる」
「ええっ!? 何でですー!?」
俺がそう言うとモヤシが速攻唇を尖らせた。
「俺パスポート持ってねぇんだよ。あれって申請してすぐ発行されるもんじゃねぇんだろ? 下手すりゃ冬休み終わる」
「あー…………」
「そういやそっかぁ…………」
「休み入る前に申請しときゃ良かったね〜…………」
奴らは顔を見合わせて肩を落とした。
しかしこいつらはやっぱ全員持ってるのか。
「大体俺は受験勉強あんだよ。遊び歩いてる場合じゃねぇ」
忘れがちだがラビだってその筈なんだがな。まぁ寝てても世界的トップクラスの大学に受かる位の頭持ってる奴にんな事言っても意味無いが。
結局俺が選んだのは此処から程近い、中堅どころの大学だ。それにしたって俺にしちゃ大分背伸びした志望先だ。…………ラビにしちゃやたらランク落としまくった志望先だが。
「…………よし、ティキ、アレン。俺ユウの勉強見ついでにユウと留守番してるからお前らどっか行って来るさ!」
「抜け駆けする気ですかっ!!」
…………またモヤシが噛み付いてるし…………。
「そういやお前も受験生か」
父上がラビに言った。
「うん。そーだけど」
「まぁお前なら何処でも問題ねぇな」
「まーね」
「…………」
父上が俺を見た。
「お前は?」
「…………ギリギリ、です」
二週間前の模試では合格率が60%台だった。…………でもまぁ11月の半ば(志望先を決めて直ぐ位の頃)には30%も無かった事を思えば(流石に自分で自分の頭の悪さが嫌になった)進歩はしている。
「大丈夫だって、一月で合格率倍になったんさ。まだまだ伸びるって!」
ラビがぐっ、と親指を立てた。
いつの間にか始まって終わっていた十字会の常任委員会の選挙で(結局会長はモヤシの信任投票だった。当然みたいに100%で会長決定だった。他には二年のジャスデビが引き続き学内報の委員長職をやるらしい。三年になるのにだ。)引継ぎも終わり、暇になったラビはずっと俺の勉強を見ている。
「遊び歩いてる余裕はないのか」
「無理です」
んなものがある訳無い。
「ならこういうのはどうだ」
父上が俺に指先で来い、と示した。俺は窓際を離れて父上の座るソファーに向かう。父上の持つ数枚の書類を覗き込んだ。
「何ですか? …………温泉?」
…………場所は此処から車で二時間足らず位の温泉地だ。俺だって名前を聞いたことくらいは在る。
「買収した会社が持ってる所だ。施設が老朽化してたから改装させてな。確認ついでに一度は行く予定だ」
「へぇ…………」
「温泉ー?」
「なんでそんなジジくさいとこに…………」
速攻で文句を付けるティキとラビはとりあえず置いといて。
「師匠、体にガタ来てるんですか? そりゃ飲む打つ買うばっかやってれば駄目にもなりますよねー」
…………モヤシも大概失礼だな。
「失礼な奴だなお前ら」
父上が顔を顰めた。
「もうちょっと若向きな所ないのー?」
「お前らな…………」
「俺はこういう所のがいいけどな」「「「さて行く(きます)か」」」
…………あ?
俺が何気無く呟いた瞬間奴等が意見を180度翻した。…………何なんだ。
「じゃあ日にちは?」
「どうやって行く?」
先程までのブーイングが嘘のように計画を立て始めた奴等を見やってから、俺と父上は顔を見合わせた。