ちゃぷっ…………
「ど、どうしよアレン、あれヤバいって!!」(小声)
「…………、」
心地良さそうな顔でお湯の中で手足を伸ばす神田を、僕らは生唾飲み込みながら見守る。
今なら分かる、どうして師匠とティキが付いてこようとしなかったか。
…………こんなの、お湯から上がれなくなるに決まってる。
立ち上る湯気の向こうに見える色の白い肌も、髪を上げたから露になったうなじも、その他色々ヤバめな所も。
全部全部、僕等の劣情を煽って止まない。
…………正直、ラビが今此処にいることに感謝した。もし二人きりだったら、理性が持ったかどうか…………
「…………? おいお前ら、何やってんだ?」
こそこそと前屈み気味になる僕らを訝って神田が声を上げた。
「い、いえ別に何でも!! ね、ねぇラビ?」
「う、うん何でもないさ!!」
僕等は乾いた笑い声を立てあう。
…………神田は不思議そうな顔だ。
「…………? まぁいいけどな…………」
「あは、は…………」
…………それにしたってここのお湯は結構熱い。
しかも神田は長風呂だ。
…………湯当たりしそう…………。
「あははははラビ僕なんだかクラクラして来ました…………」
「俺も…………」
ザバッ!!
「!? おいっ!? おい、お前等っ!!」
そして、ああ、ブラックアウト…………。
「…………ーい、おーい、ラビー? お、目ぇ覚めた?」
「…………ティキ?」
誰かに呼ばれてる、そう理解して目を開くと其処にはティキの姿。いつの間に風呂に行ったのか風呂上りの姿だ。どうでもいいけどね。
「神田、ラビも目ぇ覚めたよ」
「ったく…………何やってんだよてめぇらはっ!!」
更に見えたのは呆れた顔で腕組みしているクロスと、怒りながら丁度俺の隣に寝かされていたアレンの額の上に乗せていたタオルを取り替えていたところのユウだ。浴衣に髪を上げたままの姿が色っぽくて大変よろしい(格好は同じなのにどうしてこうも印象が違うんだろう)。じゃなくて。
「てめぇら風呂の入り方も分かんねーのか!」
「はいお茶。飲みなよ」
「あんがと…………」
ティキに差し出されたペットボトルのお茶を有り難く大人しく頂戴する。
ひんやりとした感覚が気持ちよくて暫くそれを額に押し当ててから蓋を取った。
渇いていた喉に滑るように流れ込む冷たいそれが、有り難い。
「お前等二人抱えて風呂出た俺の身になれ!」
「ご、ごめんさユウ…………」
いやほんとは熱かったんだけど。出たかったんだけど。
…………でも出れなかったんだよなこれが…………もう一人の自分が臨戦態勢だった所為で…………。
「…………飯は? 食えそうか?」
「僕はいけます」
「…………お前には聞いてない」
「俺もだいじょぶ…………」
500mlを一気飲みして、大分頭もすっきりした。俺は寝かされていた布団から起き上がる。
何気に結構いい時間で、昼過ぎ位に風呂行った気がするのにもう外が暗い。
「んじゃー二人が目ぇ覚ました事だしメシにしてもらおうか」
ティキがそう言って、電話を取った。
「え…………無理です、」
ユウは困惑したような顔をした。
夕食は豪勢だった。アレンの腹を満たす為に用意された量は相当さ。
山の中の温泉地の為並ぶものも山の幸が多い。
ユウもいつもより箸が進んでるように見えた。…………まぁ隣にいるアレンと比べるとどうしてもやっぱり小食に見えるけど。
…………今ユウは、クロスに酒を勧められて困っている。
「何だ、呑めねぇ訳じゃねぇだろ」
「…………俺、未成年なんですけど」
「今時んな事言う奴ぁいねぇ」
…………何て駄目なクソ親父さ…………
ユウは困った顔で俺達を見た。
…………うーん。
「べっつに一口位平気じゃね? アレンクラスに酒弱いんなら別だけど…………」
ティキがさらっと返した。おいおい…………
うちで酒が駄目なのはアレンだけ。受け付けない体質らしくて一口で沈没する。後は世間一般的にザルとか呼ばれるティキと、むしろワクのクロス。俺だって弱くは無い。
ユウは…………どうなんだろう。
「其処の奴もアホみたいに飲むしな」
「…………おい、ラビ」
…………俺の手元にも杯が一つ。
いや、ほら、だって、ねぇ?
まぁ以前俺等の煙草にブチ切れてたユウとしては、コレも嫌なんだろうけど。
「でもまぁタバコと違って酒は百薬の長って言うよ?」
満更身体に悪い訳じゃ無いんさ。
「…………、あ、」
クロスが無理矢理盃を押し付けると勝手に並々と酒を注いだ。
面白そうな顔で見守るクロスとティキに溜息をついてからユウはおずおずと縁に唇を付ける。
…………おお、一気飲みさ。
「何だ、やっぱりイけるんじゃねーか」
「ちょっ、大丈夫なんですか神田?」
一息で飲み干したユウは、静かにその盃をお膳の上に置いた。眉根を寄せてヘンな顔だ。
「…………熱、」
「ビールなんかと違って度数あるからね」
「そうか…………って、父上、もういいですからっ」
何気なく置かれた盃に更に注いで行ったクロスにユウが慌てて声を上げた。
…………結構な量さ。
んでもまぁ、大丈夫だろうと思っていた俺達だったが―――――――
―――――――この後、それを盛大に後悔する羽目になるとは、思っていなかった。