ちぅちぅ。
 
 さわさわ。


「ん…………、」

 …………くすぐったい。
 
 胸に直に触れる感触に目が覚めた。
 ぼーっとした頭のまま目を見開くと、視界に広がるのは白い…………頭だ。

「?」

 感覚が戻るにつれ、くすぐったさの他に感じたのが、湿り気…………というよりは、濡れた…………

 …………何だコレ?


 ちぅ。


 ツキンッ、


「っん、!?」

 微かな痛みと形容しがたい感覚に、びくっとして一気に意識が澄み渡る。
 そしてその後に襲ってきたのは何ともいえない羞恥心。

「ってめ、」

 胸に引っ付いてるモヤシを引き剥がそうとしたのに、やたら強い力で…………っ!?

「何やってやがるこのクソモヤシッ!!」(小声)

 怒鳴ろうとして、慌てて声を潜めた。
 …………父上やティキ、ラビはまだ寝てるんだ。

「う?」

 無理矢理首根っこ引っ掴んで話そうとすると、間抜けな声を上げてモヤシが顔を上げた。

「赤ん坊じゃあるまいしアホな事やってんじゃねぇよっ!!」(小声)

 どんな夢見てやがったんだっ!!

 ぽーっとした目をして俺を見上げていた(俺が何に怒ってんのかも分かってねぇなこの様子じゃ!!)モヤシは、段々目が醒めてきたのか瞬いてぎょっとした顔をした。

「うっ…………わ、神田、」

 声がでかい!

「ソレ、僕が…………?」
「そうだ、ったく何してくれやがってんだよテメェはっ!」(小声)
「…………っ、」

 あっと今に、モヤシの顔が朱に染まる。

「ごっ、ごめんなさいっ!!」

 そう叫ぶと(静かにしろよ!!)モヤシは突然布団から跳ね起きると、部屋を飛び出していった。


 バタンッ!!


 ついでにドアの閉まった音がした。
 …………何だ? 何なんだ?

 思わずぽかんとして奴の消えた先を見ていると、

「んー? 何だぁ?」

 今度はティキが目を覚ました。欠伸しながら布団の上に半身を起こし、頭を掻きながら俺を見る。

「…………悪い、起こしたな」 
「つか、アレンの声がしたんだけど…………って、おい、」

 ティキが目を見張りながら俺を見る。奴の視線の先を目で辿って行って、俺は眉根を寄せた。
 全開になってる俺の浴衣の前(上半身だけだが)。俺の胸には謎の紅い跡がいくつも付いていた。
 …………何か痛いと思ったら、これだったのか…………

「…………ナニソレ?」
「モヤシの野郎が吸ってた」
「吸っ…………」

 ティキは絶句、といった感じで俺を見る。

「ったく、何の夢見てたんだあいつは…………」

 俺は取り合えず全開になってた前を掻き合わせて、一旦帯を緩めてから着なおした。

「…………、…………。少年は?」
「知らねぇ、何か叫んでどっか行っちまいやがった」
「…………ああ、トイレか。…………ハハハ」
「?」

 ティキが乾いた笑い声を立てる。
 …………何だ?

「青少年ってモンだねぇ。…………どっちかっつったら性少年か」
「??」
「まぁいいや。…………外の風呂でも入って来ようかなー」
 
 ティキはそう言いながら、んーっ、と背伸びした。

「あ、俺…………も…………?」

 …………ん?
 風呂? 外…………?

 俺、何か忘れて…………?

 …………何だっけな…………?

 昨日…………?

「…………?」
「二人で入るにゃ狭いだろ。交代で入るか、大浴場行くかにしたほうがよさげじゃない?」
「…………それもそうだな」

 幾ら考えても思い出せないから、俺は考えるのを止めた。
 まぁ大事な事ならそのうち思い出すだろ。…………多分。

 手ぬぐいとタオル、着替えを用意しながら、それでも俺は微かに感じる違和感に内心首を傾げた。







「でさぁ、これからどーすんの?」

 俺とティキは朝風呂を済ませ、他の奴等も目を醒まし、朝食になった。箱膳の上に米と味噌汁、川魚に佃煮に山菜に卵、と典型的な和食が並んでいる。(そしてまたモヤシの量だけ馬鹿馬鹿しい程だ)
 そんな時、ティキが言った。

「二泊なんでしょ? 夜まで何すんの?」
「観光するような所あるのか?」
「温泉地なんだし何かはあるでしょーよ」
「寝てりゃいいだろ…………」

 父上が面倒そうに言った。

「酒と女ありゃ満足のあんたはね。此処で寝てるのはいーけど、此処にオネーサン連れ込むのは止めろよ? …………神田もいるんだから(小声)」

 …………? 今最後だけ聞き取れなかったが…………

「…………土産、見てぇかも」
「土産? 誰に?」
「ジャスデビと、ティエドールさんに」

 俺がそう言うと、ティキが一瞬目を見張って、笑った。

「ティエドールさんはともかくうちの愚弟ーズにはいいよ別に、気ぃ使わなくても」
「俺、こないだ色々貰っちまったんだよ」

 海外土産とやらで貰った謎の物は皆部屋においてある。…………大半は使途不明だ。紐を編んだようなものにやたらと派手な羽が付いてたり(幸運のなんとかっつってた)、同じ形のサイズ違いの人形が全部最後には一つに収まるようになってたりする奴とか(ロシア土産つってた気がした。並べ替えるのはちょっとだけ面白かった)。

「お前らは? 何かあるか?」
「「はっ、はいっ!?」」

 俺がラビとモヤシに話を振ると、奴らは飛び上がらんばかりにして返事した。
 …………聞いてなかったのか?
 そう言えば奴らは朝から様子が変だ。モヤシは常に赤い顔で(また熱でも出したかと思ったがそうでもないらしい)、ラビは…………何故か俺の様子を伺ってるような…………
 …………何だ? 何なんだ?

「特に無いなら、土産物屋でも見て回ろうか」

 ティキがそう言って話を締めた。
 異存は無い俺は、頷いて、それから食事を再開した。

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