朝飯食って二時間ばかりだというのに直ぐに腹が減ったと喚きだしたモヤシの為「だけ」に俺達は適当な喫茶店に入った。
「あっ! …………あー、」
サンドイッチやトーストを10人前頼んだ奴は、待っている間に突然間抜けな声を上げた。
「どうしたんさ?」
「さっきのお店に、前のお店で買ったもの置いて来ちゃいました…………」
「ソレの他にまだあったのかよ」
モヤシの横には既に山ほどの荷物が放られている。
「取り行かなきゃ…………ラビ、ティキ、ちょっと手伝って下さい」
「「何で俺が…………」」
「ね?」
にっこり。
有無を言わさず、といった様子で後ろに何やら黒いものを感じさせる笑みを浮かべたモヤシに、ラビとティキは溜息をついて立ち上がった。
「ちょっと行って来るわ…………」
「何往復するんだ?」
「止めてよユウ、ありそうで嫌さ」
奴等三人は連れたって店から出て行く。
そもそもお呼びでない俺と父上は、奴等が出ていくのを視線で見送った。
…………俺は再度、手の甲を見下ろす。
父上とも、ティキとも、ラビ、モヤシとも違う肌の色。
さっき、売店で言われた言葉が何処かに引っかかっていた。
俺は、自分の片親が外国の人間だなどと想像した事は無かった。
自分の事は日本人だと信じていたし、同じ日本人の群れの中に居ても目立ちはしなかった…………と思う。
混血の子供が必ずしも両方の血を半々に受け継ぐとは限らないのかもしれないが…………。
「…………何を考えてる?」
下らない事を考えていた俺は、父上の言葉にはっとして慌てて顔を上げた。
「いえ、別に、」
「さっきのか…………お前は本当に母親似だからな」
…………聞いてたのか。
「但し似ているのは顔だけだがな。中身は大分違う…………似ている部分も、無くも無いが」
「…………そうですか?」
中身が違うのは当然だし(そもそも俺は男だ)そんなに母上と俺は似てたか? 余り意識した事ないが…………。
「…………お前の母親は、」
父上は一度其処で言葉を切って、先を迷うように視線を彷徨わせてから続けた。
「一切他人を信用しなかった。俺は元より、養父のティエドールですら、な」
「――――――…………、」
思わぬその言葉に俺は思わず目を見張る。
…………母上が?
「…………だからティエドールの元を飛び出して来て、俺の所からも去ったんだろう」
「何、で…………」
「………自動車事故で、お前の母親を除いて一家全滅した聞いた」
父上が目を閉じた。
「…………両親と兄弟を一度に亡くした上に、親類中を盥回しにされたらしい。財産だけは奪い取られてな。体中、傷跡だらけだ。―――――――親を亡くした十にもならん小娘を、親類中が寄ってたかって甚振った訳だ」
「――――――!!」
「ティエドールが見兼ねて引取った頃にはもう、一切他人に心を開かなかったそうだ。…………他人が傍にいる事に、酷く緊張していたな」
「…………母、上」
思わず、…………喘ぐように呟いた。
「家族に飢えていたんだろう。…………だがティエドールは血の繋がりが無い。不安だったんだろうな、紙一枚で繋がる関係の脆さが。――――――『紙一枚で繋がるような関係なんて必要ない』が持論だったか」
「…………」
「お前の母親は子供が欲しかっただけだ。俺は種馬にされたに過ぎん――――――ったく、こっちの心情なんざお構い無しでな」
「―――――――?」
「…………散々好き勝手やったツケだ。こういうのを罰が当ったっつーんだろうな」
そこまで言うと、父上は新聞に目を落とした。
…………俺は父上の言葉の意味が計り知れなくて、そして聞いたばかりの母上の過去に戸惑って、…………モヤシ達が帰ってくるまで、口を開くことが出来なかった。
帰りの日。
「こんな量車に載らないだろどう考えても」
「じゃあ送っちゃいます」
「伝票何枚書くんだ? これ」
アレンの大量の土産を前に俺達は溜息をつく。
…………何でこんなに買うんだか…………。
宿の人に手伝ってもらって、何とか荷物全て送ってもらう手筈を整え、俺はユウの元に向かった。
…………昨日、ちょっと元気がないように見えて心配だったんだけど…………
ユウはロビーで実にコンパクトな荷物を片手に俺達を待っていた。
「もう表で車待ってるぞ」
「あ、今行くさ。おーい、ティキー、アレンー! 急ぐさ!!」
バタバタと騒がしい足音が近付いてくる。
他のお客さん居なくて良かった…………。
「行くぞ」
ユウの言葉に俺達は車に向かった。
「ユウ、良かった?」
「?」
隣を歩くユウに、俺はそっと聞く。
「遊びに来て」
「…………勉強、心配だけどな」
小さく肩を竦めて、
良かった事もあんま良く無い…………いや、良いのか迷う…………もあったけど、こんな何でもない些細な事がこれからも続けばいいと思った。
何れ来る辛い時にも、幸せな記憶が多いほうが良いに決まっているから。