父上とモヤシも帰って来て、夕食の席。その終わり掛けに思わぬ事を聞かされた俺は、少しだけ目を見張った。
「ありゃ…………」
「またしても重なったねー、」
父上は出張。ティキはジャスデビの一家と旅行。ラビは卒業式の準備の為の泊りがけの会議で、モヤシは部活。
次の土日、また奴らが出掛けると言う。しかも今度はラビまでもがであり、俺は一人だ。
「あっちゃー、日ぃずらせれば良かったんだけど…………」
ラビが眉根を寄せる。
「? 何でだ?」
「ユウ一人になっちゃうじゃん」
「ジャスデビ…………って訳にも行きませんよね、一緒に出かけるんですから」
モヤシが眉根を寄せながらティキに言った。
「んー、そうだねー…………あ、神田、いっそ一緒に来る? うちのハハオヤに紹介しよっか」
「無茶言うな、お前この間のアレがあんだろ」
「ああ、あのじょs…………ごめんごめんごめんユウもう言わないからやめて痛い痛い痛い!!」
不適切な発言をしようとしたラビを実力行使で黙らせた。
「…………ともかく。ガキじゃあるまいし、んなもの一人でいいに決まってんだろ。てめーらの世話ねぇだけ楽ってもんだ」
「「「「…………」」」」
俺がそう言うと、ラビ達は顔を見合わせていた。
「あんだよ?」
「…………んーん、別に? 何でもないさぁー」
ヘラヘラ笑うラビ。
俺はその後直ぐに食器を洗い場に運んだので気付かなかった。
――――――俺以外の奴等が顔を見合わせ、溜息をついていたことなんて。
「大丈夫だと思う?」
「…………神田の事?」
「当たり前じゃないですか」
夜も更けた頃。
ラビとアレンが、俺の部屋に来た。
「本人がああ言うし、ああ言ってるのに誰か残ったりしたら神田怒ると思うけどね」
「…………だけどさー、ユウって」
「多分一人になるの、怖いんじゃないですかね…………」
「…………」
…………そりゃ、まぁ。
全員――――――本人以外――――――、気付いている。
母親が亡くなってからティエドールさんと会うまでの数日間、神田は文字通りの天涯孤独の気分を嫌という程味わっただろう。
本人は気づいてないようだけど…………、人付き合いが良い方ではないのに人気のない所を避ける癖がある。
もっとも無意識下での行動だから本当に本人が一人になる事態になったとしてそれで何がどう、という訳でもないのかも知れないけど。
「…………、傍に、居た方がいいような気がするんです。僕」
「…………」
迷いを滲ませた声と目で、アレンが俺に訴える。
神田だったら…………どうしただろう?
雷を怖れるラビの為に雷夜には必ずラビの下に行き、悪夢に魘されて怯えるアレンが忍び込んでくれば黙って受け入れる神田の事だ。
独りになるのが怖い、なんていう奴がいたらきっと一緒にいてやろうとするだろう。
「…………うーん、」
だけど、本人は気付いていない。プライドの高い神田の事だ、そんなのは本意じゃないだろう。
「…………、じゃあせめて、日程の短縮でも図るかねー、」
せめて一晩くらいなら、どうにかなるだろう。
俺はそう思って、そう意見した。ラビとアレンもそれぞれに(そもそも外せるような用事なら外してたんだろう、こいつらも)頷き、俺達はそう決定する。
気付く由もある訳ない。それを後で後悔する羽目になるだなんて。
毎日が忙しい所為かあっという間に日が経って、週末の土曜日。
「じゃあ、行って来るねユウ」
「ああ」
俺は出かけるのは最後になるラビを玄関で見送った。
父上とティキは数日前から、モヤシは昨日から既に出かけている。
こいつは一泊二日なので、今日出発という訳だ。…………しかし出かける日は違うのに戻ってくるのが全員図ったかのように明日の朝予定ってのはどういう事だ。
「…………ごめんねユウ。留守番宜しくね」
「…………? おう?」
心底申し訳無さそうな顔のラビに、俺は何故其処まで…………? と不思議に思った。しかしすぐにまぁいいか、と思い直す。
車に乗り込んで中から手を振るラビに、手を上げて答え。
そして車が見えなくなった頃俺は家の中に戻った。
戻った瞬間、背中に走る寒気に肩が震えた。
「――――――、?」
…………外で寒いならまだしも、この暖房の効いてる中に入ってから寒いって…………おかしくねぇか?
また風邪か…………?
背中に燻り続ける寒気に不穏なものを感じながら、俺は部屋に戻った。
カリカリカリ…………、…………。
…………分かんねー…………
教師役がいないとどうにも勉強も捗らない。
それでも一時間程机に向かった俺は、溜息をついた。
とりあえず気分転換に茶でも飲むか…………。
机から立ち、部屋を出て一階の台所に向かう。
一番小さいやかんに少量水を入れ、待つこと暫し――――――そんな時だった。
ピンポーン、
来客を告げるチャイムが鳴った。