否定したい――――――でも出来ない。
 確たる物として、その結果は俺の中に、ある。
 それが真実なのだろうと、結び付けられるだけのものが。

 最後まで解らなかったその「理由」。

「これ」が「そう」なら、何て極めて単純な、――――――解りやすくて残酷な、理由だったんだ。


 


「…………、」
「診断結果がご不満でしたら、貴方の臨席の元での再診断はお受けします。念には念を入れて、ティキ氏やラビ氏、アレン氏と兄弟関係にあるかどうかの診断をしても構いません」
「…………いえ」

 ――――――静かに首を振って、否定する。
  
「…………結構です」
「という事は、この結果を受け入れるという事でよろしいですか?」

 ルベリエが、少し意外そうな顔で俺を見た。
 …………此処は本当なら怒って怒鳴って、再診断でも要求するような場面だったんだろう。
 だけど、俺には。

「…………俺自身、多少は疑問でしたから」
「疑問、とは?」
「俺の外見は、どう見ても東洋人でしょう? …………本当なら、混血の筈なのに」

 母親似、それだけじゃ説明しきれない程、俺の中には父上との血の繋がりを見つけるのは難しい。
 だけど、そういう事もあるんだろうと思っていた。
 勝手に思い込んで、安心していた。

「…………そうですね。貴方の容姿は、純血の東洋人のものだ」
「…………それに、」

 どうして、母上は俺を身篭ったまま、此処を出たのか。

 これ以上無い答えじゃないか。




 俺が、父上の子じゃなかったから、だなんて。





「…………」

 身体から、力が抜けた。
 眩暈がする。手が震える。―――――――呼吸が、上手く出来ない。

「…………大丈夫ですか?」
「…………平気です」
「この結果ですが…………私の方からクロス氏にお伝えしますので」
「はい。…………あ、いえ」
「?」
「…………少しだけ、待ってくれませんか。勿論、伝えるなと言いたい訳じゃなくて…………」

 せめて。
 せめて、最後くらい。

「俺が話して、俺が謝罪したいんです。…………騙してた事になるんですから」

 父上にも、ティキにもラビにもモヤシにも。
 俺が言って、俺が謝るのが筋なんだろう。

「…………こんなの本当に、金目当てだったのか、なんて言われても仕方無い」

 此処という居場所もあの温もりもあの時間も、本来俺は受ける立場にいなかった。
 ――――――どんな非難でも、甘んじて受けなければならないだろう。
 
「…………本当に、全くご存じ無かったんですね」

 ルベリエが、初めて俺を気の毒そうに見た。
 …………哀れむような眼差しに、酷く虚無感を感じる。

「正直、ご存知の上でなのかと…………クロス氏の実子を騙る、そう言った人間が非常に多かったので」
「…………」

 ああ、モヤシがそんな事言ってたな…………。

「…………もしも今後、詐欺やら賠償やらの話になるようでしたら私にご連絡下さい。…………貴方の弁護でしたら、お受けします」
「…………。」

 ルベリエが席を立った。 
 机に封筒を置いて。

「これはDNA鑑定などの資料です。今日の所はこれで失礼します。…………私からの告知は、明後日という事でよろしいでしょうか?」
「…………はい」

 応接室から屋敷の玄関まで、無言で歩いた。
 沈黙の中、最後に一言、

「…………余りお気を落とさないで下さいね」
  
 そんな事を言って、奴は去った。







 ドアを閉めた瞬間、俺は立っていられなくなった。
 膝から力が抜ける、ってのはきっとこういうのを言うんだろう。 
 …………膝を抱えて、その場で蹲る。
 
「…………俺は、」
 
 誰に聞かせるでもなく、無意味に呟く。

「じゃあ俺は、一体…………」

 握った拳が、震えた。

「一体、何なんだ…………?」

 呟いた答える者のいない問いが、冷たい床に落ちて砕けた――――――。

123へ