「…………急激なストレス、だね」

 倒れたユウを慌てて抱きかかえて保健室に走り、コムイに診察を頼むとコムイはユウと共にベッドの方に消え、程無くして戻ってきた。
 
「ストレス、」

 呟いた。
 心当たりは痛い位に在る。

「ま、原因は言うまでも無く、かな」

 …………そうだ、コムイは知ってるんだ。
 クロスに頼まれてクロスとユウのDNA鑑定をしたんだから…………。

「…………可哀想に、」

 コムイが溜息をついてベッドの方を振り向いた。

「なぁ、コムイ。…………鑑定ミスってのは、無いんだよな?」
「…………無いね。僕だって何度も確認したよ。クロスも自分で確認してた位だ」
「…………」
「クロスは、何て?」
「ユウは…………これまでと一緒さ、一緒にいるんさ。だって俺達、家族なんだし」

 俺がそう言うと、コムイは何故か顔を微かに曇らせた。

「?」
「…………いや、五月蝿いのが出てこないと良いな、と思ってね」
「…………」

 …………心当たりは、ある。
  クロスの親戚とか親戚とか親戚だ。主に親戚。
 …………それに、ティキの親戚にしろ、…………俺の親戚にしろ、血の繋がらないユウをクロスが迎えたとなれば黙ってはいない筈だ。

 だけど。

「…………何があったって、護ってみせる」

 





「アレン君を呼んでおいで、もう帰りなさい。――――――ゆっくり休ませてあげてくれ」
「分かった」

 …………ラビの足音が去っていく。
 
 
 シン、と沈黙が降りてきた。


 シャッ、


「…………だ、そうだよ神田君?」

 俺が身を横たえているベッドのカーテンを引いたコムイが、そう言った。

「…………」

 目が醒めていた事に気付かれていた事に、微かな後ろめたさを感じる。

「彼らの言葉に嘘は無いよ。皆、君を大事な家族と想っている」
「…………」
「それは君自身が一番分かってるんだろう?」
「…………。」

 本当は。
 そんな事は。
 誰より、誰よりも、俺が。

「…………識っている」
「…………」
「だから、応えたい。その為に、本当の事が知りたい」
「――――――!」

 母上の事。昔の事。
 俺の本当の父親の事。
 全部知らない内に、無責任なことはもうしたくない。

 全部カードを並べて揃えて晒してから、それから――――――だ。

「また、辛い思いをするかもよ?」
「それでもだ」

 このままあいつらの好意に溺れて甘えて縋って、それで一生暮らすなんて――――――馬鹿馬鹿しい。
 俺は支えがなきゃ立てない案山子じゃない。

「…………コムイ、」
「…………」
「お前、父上と知り合って長いんだよな?」
「うん、まぁね」
「じゃあ、教えてくれ。――――――お前はどんなカードを持ってる?」






 
『クロス当人の事はともかく、マリアン家の事はあまり僕も知らないんだ。だけど、一つだけ印象に残っていることがあってね。――――――十九年前、クロスがそれまでかなりの人数いた使用人を一斉に解雇したんだ。代々仕えているような古い人間から雇い入れたばかりの 者まで全員、ね。多分、理由は君のお母さんが家を出て行ったのを止められなかったか――――――止めなかったか、のどちらかじゃないかなと踏んでるけど。その内の一人が、この近くにまだ住んでるんだ』



 …………コムイに渡された名刺から控えたメモを一枚、指先で弄ぶ。
 
 学校から帰って来て、直ぐに部屋に一度引っ込んだ。
 …………着替えだけして、直ぐに部屋から出直す。
 タイミングの良い事に誰も共有スペースにはいなかった。
 そのまま一階まで足音を殺して駆け下りて、家から出る。

 外に控えている車に問答無用で乗り込んで、

「此処まで頼む」
「…………は、しかし、坊ちゃま…………?」
「…………いいから、出してくれ」
「畏まりました」

 車がゆっくりと動き出す。
 代わっていく風景を、俺は睨むようにして見ていた。







「ユウ、…………ユウ、ご飯にしよ?」

 ラビが神田を呼ぶ。

「…………篭城中? 何も無かったことにしてスルーしようぜ作戦は失敗かぁ…………」
「…………やっぱり、嫌なのかな…………」

 同じく神田の部屋の前でアレンが悲痛な色を浮かべて小さく呟いた。

「んな事ねーって、きっと…………おーい、神田ー」

 一緒になって声を掛ける。
 …………返事は無い。
  
 さぁどうしたものか、と三人顔を見合わせて溜息を付いていたそんな時。



「――――――おい、」


 階段を昇って来たクロスが、鋭い声を掛けてきた。

「あれ、お帰り」
「…………てめぇら、」

 クロスは確認するかのように俺達一人一人見回して、溜息をついた。

「何で全員揃ってやがる」
「何でって、何が…………?」
「ねぇんだよ」

 ?
 何だ?
  
 意味が分からなくてまた三人で顔を付き合わせた。

「ねぇんだよ、車が。――――――お前らがいるって事は、乗ってったのは…………」
「「「――――――!!」」」

 その言葉に素早く反応したのはアレンだった。
 鍵の掛かってないドアノブを開いて、力いっぱいドアを開く。
 前室を越えて、寝室へ。

「――――――いない、」
「え…………」

 だって、え? 何時の間に…………!?

「ったく、何で目ぇ放した」
「え、だって、俺達着替えしただけであとずっと下に居たのにっ」
「その間に出てったんでしょ…………」
「…………神田…………」

 アレンが震えた声で呟く。

「あ…………でも、出てった訳じゃなさそう」

 机の上には半開きの鞄。財布も入っているし、何より神田が大事にしている剣が飾られたままだ。

「…………ホントだ」
「出かけた?」
「だって、何処に?」
「…………これ、何だろう」

 部屋の一番奥まで行っていたアレンが足元から小さな紙を拾い上げた。
 
「…………名刺?」
「名刺って神田が名刺なんて…………」

 ぞろぞろとそれを覗き込みに俺達はアレンに近寄り――――――、一人が、息を呑んだ。

「…………クロス?」
「…………そういう事か」

 次いで、苦虫でも噛み潰したような顔をする。
 
「誰? これ」
「…………昔の使用人だ。…………十九年前にクビにした」
「「「…………、」」」

 誰からとも無く顔を見合わせ――――――

「ちょ、急がないと! 神田絶対此処ですよ!!」
「あーもーなんであの子は一人で何でもしたがるかねぇ!? たまには人頼れっつーの!!」
「頼ってもくれないなんてほんとにユウはイケズさぁっ!」
「そろそろ夜のお仕置きを」
「「「それはやめろ」」」

 ――――――俺達は団子になるようにして、慌てて家から転がり出た。

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