「…………」

 ガチャ、

 無造作に開かれた玄関のドア。
 ユウは無言で、靴も脱がずにリビングに向かうとソファの隅に腰掛けて、膝を抱えた。
 そのままその膝に顔を埋める。

「…………、」

 そんな、誰の目にも明らかな拒絶を浮かべたユウにティキが近寄って、その前で恭しく跪いてその足から靴を脱がす。その靴を持って、玄関に戻った。
 アレンは無言のままでキッチンに向かう。
 俺はユウの隣に、クロスはユウの正面に座った。
 

 カチッ、


 ジッポーの音と、クロスが好む煙草の匂い。一口吸って、けれどすぐに惜しげもなく灰皿に押し付けて火を消した。そのまま一人立ち上がって、リビングを出て行く。

「…………ユウ、」
「…………」
「ねぇ、ユウ。…………俺、思ったんだけどさ」

 …………思った?
 何をだ?
 何を思ったとして、それが何故真実なのだと、ユウのお母さんの事など――――――それこそ、その人が亡くなっていた事すら、つい先程知った俺が何を言った所で信憑性などありはしない。

「…………すぐに、」
「え?」

 ユウはくぐもった声で、答えた。

「…………すぐに戻る、から。…………放って置いてくれ」
「…………、」

 すぐに戻るから。立ち直るから。立ち直って見せるから。
 …………だから、放っておけ、と。
 
「〜っ、放っとける訳、ないじゃんっ…………!」
「…………」

 頭ごと強く、微かに震えているユウの震えを抑える為に抱きしめた。
 どうしよう?

 どうしたら、どうしたらいい?

「――――――、」

 こんな時、俺は賢くなんかないんだと痛感する。どうして、何で、目の前で傷ついている人がいるのに慰める事が出来ない、どうして慰める言葉すら出てこないんだ。 
 
「…………」

 歯噛みしているうちにアレンが戻ってきて、ユウと俺と、あといないクロスとティキと自分の分のティーカップを並べた。
 用意したきり手も付けないで、アレンも黙ったままユウに寄り添う。
 そのうちに、クロスもティキも戻ってきて俺達は沈黙したまま、大時計の秒針の音だけ聞いていた。
 …………それからどれ位経ったのか。少なくともアレンが淹れた紅茶が冷めきって、カップまでもが冷えきる位の時間が経った頃だ。
 そんな時だった。


 ピンポーン


 来客を告げる、チャイムが鳴った。
 珍しくもクロスがさっ、と立ち上がった玄関に向かう。程無くして戻ってきたクロスが連れていたのは、ティエドールさんだった。

「やぁ、こんにちは」

 いつも通りの穏やかな様子ながら、その眼差しは伏せたまま動かないユウへと向けられ悲しそうな色を浮かべる。
 クロスに、あんたが呼んだのかと視線だけで問えば無言の肯定が帰ってきた。

「失礼するよ」

 言いながらティエドールさんは丁度ユウの正面になる位置に腰掛けた。

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