「…………ユー君、」
「…………」
ティエドールさんの呼び掛けに、ユウはのろのろ顔を上げる。憔悴、そんな言葉がぴったりな様子に、一瞬誰もが痛ましい、そう思った。
「…………これを、見てご覧」
ティエドールさんは、ごそごそと大きな自分の布鞄――――――いつもは画材やスケッチブックが入っている、クロス曰くゴミ袋だ――――――を漁った。
そこから現れたものに、ユウ以外が全員して目を見張る。
ブルーの装丁の、写真屋にいけば幾らでも手に入る、それはアルバムだった。
「…………」
「君達のアパートを引き払う際にね、出てきたんだ。本当は直ぐにでも君に帰すべきだったんだろうけど…………ごめんね、あの子が余りにも懐かしくてね」
…………ティエドールさんが眼鏡を外して目元を拭う。
ユウは、中央のテーブルに置かれたアルバムを暫しじっと見つめてから――――――手に取った。
「…………、」
「さぁ、開けてごらん」
ティエドールさんに促され、ユウはそのアルバムの表紙を捲った。
…………そこに写っていたのは、紺色のブレザーを着た、ユウの姿だった。
「…………これ、」
「…………前の、学校の入学式だ」
ぽつん、と。
ユウが呟いた。
ユウの言うとおり、桜の花が満開で、そして後ろには「入学式」という看板らしきものも見える。
次のページをユウが捲る。
それは、恐らく前の写真と撮られた時期は殆ど一緒に見える、だけどユウの着ているのが黒の詰襟だという、写真だった。
「神田、こっちは?」
「…………中学の卒業式」
左胸に小さなリボン付きの花を付け、長細い筒を持ったユウ。
余り表情が無いのはこの頃から変わらないみたいさ。
「うわ、これはカワイイ…………」
思わずなんだろうが失言をかましたティキは、アレンと二人掛りでシメておく。
…………しかしそう言いたくなるのも分かるのは、見開きのページに収められていた、中学校の入学式と小学校の卒業式の写真だ。この頃だと幼さを残す、まだ綺麗っていうよりは可愛い、ってのがぴったりな容姿さ。
段々と幼くなっていくユウの写真に思わず口元を綻びかけさせていた俺達は―――――――その最後の一枚に、息を止めた。
ユウの指先も、まるで凍りついたかのように止まる。
アルバムの一番最後にあった写真。
それは、産まれたばかりだろう赤ん坊を、―――――――きっと当然此れはユウなんだろう―――――――を大事に抱いた、優しい、とても優しい微笑を浮かべた、ユウにそっくりな女の人だった。
「…………アレが、」
クロスが呟く。
「…………こんな風に笑うとは、な」
「…………」
…………その微笑みは、望まなかった子供を抱いているにしては余りにも優しすぎて。
ああ、だけどそもそも、家族を――――――
寒いときには身を寄せ合って、
痛いときには慰めあって、
何時如何なる時にも帰ってくる場所。
そんな風に想える様に育てられて来たユウが、愛されて無い訳が無かった。
「…………ねぇ、ユー君」
ティエドールさんが、優しくユウに声を掛けた。
「確かに、君が出来た事は、あの子にとって不本意だったのかもしれない。傷付いたのかもしれない。―――――――だけどね、君のお母さんは、間違いなく―――――――君の誕生を喜んだんだ」
―――――――ぽつん、と。
アルバムのビニールの上に、水滴が一つ落ちた。
その夜も、俺達は一つのベッドで眠った。
「…………ありがとう、」
眠りに落ちる寸前の、ユウのその小さな一言は…………まぁ実際は分からないけど、俺だけが聞いていたことにした。