それから。
俺達は、少なくとも表面上は平穏に暮らした。
まぁ表面上は、ってのは俺達の間に色々なシタゴコロがあるからなんだけど。
だけど、ユウに触れたい。でも触れられない。
…………増すばかりの想いと劣情が、重すぎて苦しすぎて。
「「…………はー、」」
俺とアレンは同時に溜息ついた。
「つーかさぁ、何が今度は問題な訳?」
デビットが肩肘つきながら俺達に問う。
「特にラビ。散々兄弟だからっつってたじゃねーか。いいじゃん、結果として血は繋がってませんでしたオールオッケー結果オーライだろ?」
「…………今度は、逆に兄弟じゃなかったから不味いって感じ?」
「何だよそれ」
「…………例えばですけど。今僕等が神田を抱きたいって言ったら、神田は絶対断らないですよ」
「じゃあいーじゃん」
「…………ちっとも良くないさ」
アレンと視線を合わせて、再び溜息をつく。
「…………断れない立場の人にするお願いっていうのは、実質強制以外の何物でもないんですよ」
例えば、俺達が望んで、ユウを抱いたとして。
その時、俺達の望みに仮にユウが首を縦に振ったとしても―――――――
もしも、触れた時にその瞳に恐怖と嫌悪の色を見つけてしまったら、俺達は絶対に立ち直れない。
「…………もし、そんな事の為に此処にいろって言われたんだ、なんて思われたら…………」
きっと、ユウはとても傷付く。
傷付くどころじゃなくて、間違いなく絶望するだろう。
―――――――そんな事、絶対に出来ない。
「…………あー、そーいうことかよ…………」
デビットは合点がいった、と顔を顰める。
傷つけたくなくて、それが怖くて俺達は何もできない。我ながらこんなに自分が、好きな人に対して臆病だとは思わなかった。
「んでもさぁ…………あ、」
何事か言い掛けたデビットが、俺達が今いる十字会室のドアが開かれたことに口を噤んだ。
「あ、お帰り神田、ヒヒッ」
代わりにジャスデロがそこに立っていたユウに声を掛ける。
「ああ」
「ど、どうだった?」
「…………」
俺達全員の視線がユウに集中した。
「…………全科目、判定ギリギリで受かってた」
「「「「っしゃあああああっ!!」」」」
これでユウも晴れて祝☆ご卒業だ。
今日は三年の卒業判定の発表日で、俺たちは一人一人呼び出されて結果を告げられている。俺はわりと最初の順番だった。まぁ全然結果なんて心配してなかったんだけどね。
ユウの顔にも安堵の色が浮かんでいる。
――――――色々あって、ユウの心労は計り知れなくなってて、けれどそんな状況下でもテストは待ってくれなかった。
「良かった、これで一安心さぁ」
「まさか。明後日だろ、入試」
「そういやそうさねぇ」
そうは言ったって、大学入試の方が受験科目は少ない(しかも比較的ユウが得意な科目での受験だ)んだから、卒業試験程の難しさじゃない。
「お前も一応受験科目くらい、目ぇ通した方がいいんじゃねぇのか。俺につきあってないで」
「え、神田それ誰に向かって言ってるんですか?」
「あー神田神田、ラビなら心配いらねーよ。だってこいつ卒業試験、全科目満点だぜ」
「…………」
ユウが唖然としながら俺を見る。
「ユウ、大丈夫さ俺勉強は得意だから」
「…………何か腹立つな、お前」
「「「いつもの事だろ(でしょ)」」」
「酷っ!」
ガタン。
ユウは円卓の椅子の一つに腰掛けると、携帯電話を取り出した。ちなみにあれはクロスが買い与えたもので、結構な期間俺達はその存在を知らずクロスとユウの間のみの専用回線状態だった。因みに勿論現在は俺達も、ジャスデビ迄もが番号とアドレスを知っている。
使い慣れていないのが一目で分かる指先でユウはメールを作っていた。
「何処送るんです?」
「父上とティキ。分かったらすぐ教えろって散々言われたからな」
因みに俺は一切そんな事は言われていない。
「そりゃお前はそんな心配いらねーからだろ」
「まーね」
プルルルル、
「え、リターン早くね?」
「あ、違うこれ俺の方。電話さ」
表示されているのは担任の名前だった。
「はいもしもしー? あー、はいはい」
用件は卒業式の事だ。前生徒会長の俺と現生徒会長のアレンに用があるらしく、
「アレン、ちょっと職員室来いってさー」
「はいはい。ちょっと行ってきますね神田」
ユウ限定か。
「ああ、行ってこい」
俺とアレンは、十字会室を後にした。