トントントン…………
今日の晩飯はモヤシの希望により唐揚げだ。
唐揚げ粉を肉に塗しているモヤシの隣で俺は付け合わせのキャベツを千切りにした。
学校で良いもの食ってる割には、奴の好みはカレーやらハンバーグやらシチューやらと庶民的なものばかりだ。
「神田、油そろそろ火付けても良いですか?」
「ああ」
何気なくモヤシに話しかけられて奴の方を向く。…………と感じる違和感。
…………ん?
「…………モヤシ、」
「アレンです。…………何です?」
「お前、背ぇ伸びたか?」
何だか知らんが妙に目線が近い。
俺が聞くと、奴は胸を張った。
「ええ、こないだズボンのサイズ変えましたよ」
「…………」
「神田を追い越す日も近いですね」
「うるせぇ」
余り触れられたくない話題に俺は眉を顰めた。
やっぱ牛乳だ。
「…………だから、」
「?」
終わらせたつもりが続いた会話に、もう一度振り向く…………と、余りにも近い、紅い目。
「っん!?」
流石に何度も同じ手は食らうまいと身を捩って逃げようにも、馬鹿力のモヤシに腰を押さえつけられた所為でそれも出来なかった。
押しつけられた唇の感触に、膝が震える。
「んー! んんっ!!」
「…………こういう事するにも便利ですね」
「ッ、ゲホッ、!」
一瞬だったのか数秒だったのか、数十秒だったのか。
モヤシに解放されて、急に喉が新鮮な空気を求めた為かせき込む羽目になった。
「あ、ごめんなさい…………でも、キスにも慣れていってくださいね」
「あぁ? 何言ってんだよてめぇはっ!」
意味が分かんねぇ!
「何って…………ねぇ?」
含み笑いを漏らすモヤシを全力で睨み付けてから、俺は舌打ちしてキャベツを刻む作業に戻った。
洗い物と片付けは奴等に任せ、俺は早々に部屋に戻る。
書き物机の上には開いたままにした参考書とノート。
…………入試は明後日だ。今は一分一秒でも惜しい。
その内ラビも来るだろう。
自信はそこそこある。
あと少しだ。
暫く夢中でペンを動かしていると、
コンコン
部屋のドアがノックされた。
ラビか? と一瞬思ったが奴はそもそもノックなんぞしない。
「誰だ?」
「お邪魔するよ」
「…………ティキ?」
何やら盆を下げたティキが其処に居た。
「何か用か?」
「…………あんま根詰めるなよ? ちょっとラビが遅くなるみたいだから、その間俺が勉強見てやるよ」
言いながらティキはサイドテーブルに盆を置いて、俺の参考書を覗き込み…………暫く見てから、似非臭い笑顔で閉じた。
「うん、お兄さんは給仕しに来たんだよ?」
…………分からなかったんだな。
確かにこんな詰め込み、受験が終わったら速攻忘れそうな気はする。
「ロイヤルミルクティでいい?」
盆の上にはティーポットや白い液体の入ったカップやら。
モヤシの専売特許かと思ってたが、そうでもないらしくティキが手際良く茶の用意をする。
元が色男風なので、どっかの喫茶店にでもいそうだ。
「砂糖はいらねぇ」
「はいはい」
勉強の手を止め、淡いベージュ色を湛えたカップを受け取って、一口啜る。
甘い。
「勉強する時は、ほんとは糖分も取った方がいいんだよ」
「…………へぇ」
ソファーにかけて自分も一口啜ったティキはテーブルにカップを置いて、立ち上がった。
暫く目で追うと、俺の後ろに立って、俺を後ろから羽交い絞めにした。
「何だよ、」
「…………ねぇ神田。入試終わったらさ、」
頭を撫でられる。
「お前さんのお母さんの墓参り。行こうか」
「…………母上の?」
意外な言葉に少しだけ、目を見張る。
「そうそう。挨拶しときたいし」
「別に構わないが…………」
どの道受験が終わったら行くつもりだった。合否が出た後、結果報告を兼ねて、と。
「御宅の息子さんを俺達に下さい、って」
「何だそれ、嫁に貰うのとは訳が違ぇだろうが」
「俺達にしてみりゃ似たようなもんだって」
俺は。
結局、父上の養子になる事になった。
そこでもティエドールさんとひと悶着あり、父上は最後まで渋っていたが。
暫く休憩としてティキと取り留めない雑談を交わし、片付けを済ませてやってきたラビと入れ替わりにティキは出て行った。