ザアアアア――――――


「「…………」」

 俺とアレンは顔を見合わせながら――――――正確には睨み合いながら、その音を聞いていた。
 ともすれば想像して、催してしまいそうだ。
 前に家族で行った旅行でのこと、とか。
 それはアレンも同じらしくて、俺達はユウのベッドの上で正座しながら睨み合い、牽制しあう。
 危うい均衡は、誰か一人が崩したら簡単に粉々に砕けることを俺達全員が熟知していた。
 
「…………ねぇ、ラビ」
「何さ?」
「僕達…………一体何時まで耐えればいいんでしょうね…………」
「…………」

 その言葉に、思わずシーツの上に目を落とした。
 俺達、は。

 ユウを傷付けるのが怖い
 ユウが欲しい
 でもそれはユウに誰かを選んで貰うという事。 


 ――――――じゃあ、選ばれなかった、ら?


 きっと誰もがそれが怖くて、だからこそ動かない。
 危うい均衡の中にいるのは分かっているから。
 そして、きっと。
 崩れてしまったら、多分、もう戻せない。
 二度と今みたいな「家族」には戻れない。


 ダッタラズットイマノママデモイイ
 ウシナッテシマウクライナラ。


 
「…………」
「人を好きになるって、…………こんなに辛い事だったんだ」

 アレンが正座を崩して膝を抱えた。
 膝に顔を埋めて、呟く。

「…………酷い事しちゃったな…………」
「…………そうさね」

 何人に愛を告げられたのか、――――――勿論この目から見たって、本気では無さそうな、興味本位での、生徒会長・理事長子息というブランドに惹かれたと直ぐ分かるのもあったけど――――――最早思い出す事も出来なくて。
 正式に「付き合った」子はいなかったけど、抱いた子の何人が、俺達の中に何の想いも無いのに気付いて傷付いただろう?
 誰を傷つけても、何とも思わなかったんだ。あの頃は。いや、傷つけている事すら気付かなかった。気付けなかった。

 恋する事も愛する事も、俺達は知っているつもりでその実何も識りはしなかったから。

「…………こーいうの、罰が当ったっていうんでしょうね」

 アレンが顔を上げて、苦笑した。
 何時もみたいな裏も何も無い、本当に弱々しい笑顔で。

「…………はぁ、」

 その溜息がそのまま俺の心の中も代弁しているようで、俺は目を閉じた。


  
  




 
 日はあっという間に過ぎ去り試験当日。

「終わったー!!!!」

 解放されるなり手足を伸ばして伸びをするラビを横目に、俺も確かな手ごたえに満更でもなかった。
 答えは控えてあるから、帰ったら早速答え合わせだ。

「おい、」
「ん? 何?」
「…………今日の晩飯どうする?」

 一応、一番世話になったのはラビだ。メニューのリクエストを受け付けてみる。

「んーとね、」

 指折しながらあーでもないこーでもないとブツブツ呟きだしたラビに、

「スーパー着く前に決めとけよ」

 俺は思わず笑った。 
 



 ラビの「パエリア」というリクエストに応じて、スーパーで海鮮類を買い占める。
 いい加減いつもの事になった為か行きつけのスーパーのレジ打ちの人間も、慣れた物だ。
 毎回毎回万単位になる会計にも、俺自身慣れた。
 手分けして袋に詰め込み、カートに乗せる。数往復するのは基本だ。


「じゃー俺、これ運んでるね」
「おう」

 ラビが一足先に、カートに積んだ荷物を車に持っていく。
 俺も後に続こうとして、――――――ふと気づいた。
 うちの車の隣に、よく似たこれまた高そうな黒塗りの車が一台止まっている。こんな一般的なスーパーにしては珍しい。
 何処の物好きだ――――――と暫く店の入り口から見ていると。

 …………え?

 音もなく、ドアが開いて、


 そこから伸びた腕が、ラビを捕らえた。


「ラッ…………!」

 そこからはまるでスローモーションみてぇだった。
 捕まれ、振り返るラビ。
 その顔が驚愕に染まっている。
 俺はカートを放り出して駆け出す。
 運転手も異常に気づいて、慌てて運転席から降りかけた。

 車までの数十メートルが、異様に長く感じてもどかしい。
 引きずり込まれかけたラビのシャツに、指が届く。
 握り締めると、車の中にいた奴に棒のようなもので肩を打たれた。痺れるような痛みに、それでも放すまいと掴んだシャツを力付くで自分の方へと引き寄せようとすると、


 バチッ!!


 鋭い、音。


 と共に、俺は意識を失った――――――。

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