「つーか、お前マジ役に立たねぇな! もう本気でお前邪魔だ。座ってろ」

 ティキを殴り飛ばしたその彼女もとい彼は、不機嫌度MAXの声でティキにそう命令した。  
 頬を抑えたティキは、涙目で彼に抗議する。
 
「顔は酷いでしょ…………」
「アホか、油もん作ってる時に人にちょっかい出す馬鹿にはこれでもヌルい。お前下手すりゃ次は口ん中じゃなくて顔面やけどすんぞ」

 そしてようやく入り口で立ち尽くす俺達に気付いたのか、視線をこちらに寄越して眉根を寄せた。

「何だ、お前らいたのか。…………お前らまで寄越せとか言わねぇだろうな?」
「…………え、」

 そりゃ頂けるもんなら頂きたいけど。
 だけどティキの恋人? にそんなもん貰ったらティキに悪い…………、

「ティキ、貴方のセフレですか彼?」

 ってお前直球過ぎだろアレン…………。
 しかし俺達の言葉にティキが何か反応する前に、目の前の黒髪の麗人が不思議そうに聞いてきた。

「おい、そいつも言ってたがセフレって何だ?」
「…………へ? …………因みにティキは何て?」
「俺にお前らのセフレなのかって…………」

 俺達全員の視線が、ティキに集中した。 

「…………あのさ、神田。その単語、頼むから外で連呼しないでね」

 …………神田、

 ――――――神田、ユウ!?

「っ、うぇっ、ユ、ユウ!?」
「っええええええ!? 何処をどうしたらアレがコレになるんですか!?」

 俺達二人は、絶叫した。
 
 







 …………うるせぇ奴らだ。

 奴らの絶叫を耳を塞いでや遣り過した俺は、全力で嫌そうな顔をしておいた。
 アホ面してる紅白コンビは置いといて、俺はそろそろ料理に戻りたい。
 
 …………奴等の物欲しげな視線は、無視を決め込む。

 じー。

 じー↑

 じぃ→

 じぃぃぃ↓

 じぃぃぃぃぃぃっと←

「あーもーウザってぇ奴らだな! そんなに食いたきゃ食えよ!!」

 …………奴等の、俺の動きに過たず付いて来る視線に遂には根負けした俺はそう叫んで奴等の前にパットをダンッ! と乱暴に置いた。
 途端手掴みで食べ始める紅白コンビに俺は渋い顔をする。

 …………こいつら、本当にいいトコ育ちのお坊ちゃんか? 品が無いにも程があるだろ、これ…………

 ガツガツと食い漁る奴らに呆れて溜息をつくと、此方を見上げるティキと視線が合った。

「…………勝手にしろ」

 物言いたげな視線に軽く手を振って答えると、ティキも二人に混ざって食べはじめる。
 やがてパット一つ分空にした奴らは、満足げな溜息を――――――

「神田、ご飯無いですか?」

 ――――――約一名、モヤシを除いて溜息をついた。
 っていうか見てりゃあ一番ちっこくて細い癖に明らかに一番食ってるし…………。
 
「…………炊けてる。欲しきゃ勝手に持ってこい」

 俺がそう言うと、モヤシは嬉々として炊飯器に向かい、布巾で中から釜を取り出した。

「?」

 何をする気だと俺が観察していると、なんと奴はその釜を抱え込むとそこにその辺の菜箸を突っ込んでそのまま食べ始めた!

「ってお前!! 何やってんだ!?」

 茶碗によそって食うって事が何でできねぇ!?

「ふえ? だってこれしかないならいいかなって…………」
「…………ユウ、アレンはものっそ大食いなんさ。あのくらいの米、夜食くらいにしかならんさ」
「…………、…………」

 食ってよしだなんて言うんじゃなかった…………。
  
「…………つーかもう、お前ら金払えよ…………」
「?」

 この食材を買った所為で俺の財布の中身は相当厳しい事になったんだ。
 それをこいつらにこんなに食い漁られるとは…………

「あれ? ユウこれもしかして自腹切った?」
「ラビ、カードの説明した?」
「あ、やべ…………」

 米食うのに夢中のモヤシは放っといて、ラビとティキは顔を見合わせている。
  
 …………カード?

 ラビはポケットから薄い財布を取り出すと、中から一枚の黒いカードを取り出して見せた。

「コレなんだけど、ユウの部屋にもライティングデスクあったでしょ? あれの一番上の鍵付きの引き出しにコレ入ってるんさ」
「何だ、それ?」
「クレジットカード。ちなみにブラック。俺達はこれで何でも買い物して良くて、支払いはクロス持ち」
「ちなみにブラックってのはランクの事で、これだと限度額無いからその気になりゃ家でも買えるよ」

 …………そんなの、学生に持たせるもんじゃねぇだろ。
 
 しかしそれで一つ納得がいった。
 奴等の外食だのケータリングだのっていうのは、みんなそのカードがあったからか。

「しかし現実に家なんか買ったら流石になんか言われるんじゃね?」
「さー? 俺が前一括でベンツ買ったときは特に何も言われなかったけどね」
「ああ、あの事故って納車から一ヶ月で廃車にした奴?」

 …………ベンツ…………。

 まぁ、いい。
 多分、こいつらと俺の感覚は一億光年分くらい離れてるんだろう。
  
 ふと静かなモヤシが気になって奴を振り返ると、奴はぼーっとした顔をしていた。
 手元の釜は既に空だ。
 
「食い終わったんなら洗っとけよ」
 
 俺がそう言うと、モヤシは少し赤い顔でこくり、と頷いた。
 流し台に釜を入れて、危うい手つきで洗い始めるのを横目に俺は再び二人に視線を戻し、そして俺は関係ないとでも言いたげな二人の耳を引っ張りながら命令した。

「てめぇらもやるんだよ」
「「…………はい…………」」

 フライパンやらパットやらを流し台に置き、片付けさせているとふとぼんやりこちらを見上げるモヤシと目が合った。
 …………なんかやべぇ目してねぇか? こいつ…………

「…………僕、もう寝ます。…………おやすみなさい…………」

 そうしてフラフラと台所を出て行く奴の背を見送って、やっぱ一番訳分からん奴だ、と俺は首を捻った。

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