「車の名義は此処の坊ちゃん付きボディーガード。…………まぁ普通に考えて坊ちゃんがやらかしてくれたんだろうねぇ」
「その坊ちゃんって」
「父親がラビのお袋さんの兄貴。一人息子だね…………あ、ラビとタメなんだ?」
「じゃ、じゃあそれってつまり、」
「どゆこと?」

 待って。訳が分からなくなってきた。
 何でラビの従兄弟がラビを誘拐する?
 僕らはそういう話を全然しないから、僕は実はラビの此処に来る前の事は殆ど知らない。
 
「…………っつー事は何? その坊ちゃんはさ、自分以外の跡取り候補潰すつもりで誘拐した…………って事か?」

 従兄弟なら確かに、財産の継承権がある筈だ。

「いや、違う…………と思う」
「え?」

 酷く曖昧な、誤魔化すようなぼかすような、そんな感じで神田が呟いた。

「…………縁、切ったって」
「神田?」
「そう聞いてる」
 
 …………あ。
 神田は、知ってるんだ。
 …………そりゃ僕だって、神田にしか言わなかった事があるんだから、まぁ、当然なんだろう。

「違うだろうな。あいつは俺が引取った時に、」

 師匠が振り向いた。

「家名ごと、財産も何も全部捨ててきた」
「「「「「…………」」」」」
「法的な手続きは十年以上前に済んでるんだから今更その件でどうこう言いやしないだろ。大体ラビ本人にその気がないしね。あいつ意外に無欲だし」
「うーん…………」

 …………理由が分からない。
 僕達はそれぞれに首を傾げる。
 と、だ。

「…………父上」
「何だ?」
「車貸してください」
「神田?」

 僕の後ろにいた神田が、突然そんな事を言った。

「どうするつもりだ?」
「迎えに行きます」
「迎えって…………」


 ざわっ
 

 瞬間、殺気に背筋が粟立った。思わず伸ばす。

「理由とか、どうでもいい。あんな方法で連れて行ったのが許せない」

 俯き気味だった神田が顔を上げる。
 背景には、鬼が見えた。

 お、怒ってる。
 すごくとても、いっぱい怒ってる。

「力技で来るならこっちも力技で対抗するまでだ」

 そう言って、玄関に向かった。

「ちょ、神、」

 それを慌ててティキが追う。
 僕らも一瞬顔を見合わせて、直ぐに追った。
 玄関に置いてあった鍵の中から一つを選ぶと神田はそれを持って外に出る。
 僕らも外に出る。

 止めてある車。の中でも、一番大きいのを神田は選んだ。
 赤いスポーツカー。
 律儀にも、何処から取り出した初心者マークを貼り付けて。

「「…………」」

 師匠は若干、とティキは分かりやすく、顔を引き攣らせた。
 運転席に乗り込んだ神田はエンジンを掛ける。


 ブオオオオオッ


 地響きみたいな音を立ててエンジンが回りだした。
 そして神田は僕らへ視線を向ける。

「乗るなら早くしろ。…………乗らないなら置いてくぞ」

 低い声。

 …………これは、相当、キちゃってるな…………

 元より目の前でラビを連れ去られた神田は、自分をずっと一晩中責めてた。それは僕らがどんなに慰めても無意味なほどで。
 悔しさも、人一倍なんだろう。

 僕は後部座席のドアを開いて、最初に乗り込んだ。
 僕に続いてジャスデビも乗り込んでくる。
 立ち尽くしたままの師匠とティキを、車内から見つめてみた。

144へ