「ちょっと神田、住所知らないでしょ!?」
「何処だ」
「えーと」

 アレンが余計な事にもさっきの住所を読み上げた。手元のナビを操作して神田がその住所を打ち込む。
 神田は分かってなかったのに!!

「乗らないのか?」
「いやそんな事は、」

 無いけど。
 っていうか怖すぎるんですけど。色んな意味で。

「早くしろ」
「…………はい…………」

 怖い。怖すぎる。
 運転席に座って半眼で俺達を睨む神田に根負けして、クロスが助手席に乗り込んだ。
 俺達も慌てて後部座席に乗り込む。

「何コレ? どうやって締めんの?」

 デビットがシートベルトを見て怪訝そうな顔をした。
 この車はクロスの道楽で作らせた奴であり、一般的な車の三点式シートベルトではなく競技用の四点式シートベルトが付いている。
 イコール、それだけスピードの出る奴だって事だ。数度乗ったことがあるから俺は知っているが他の三人は不思議そうな顔をしていた。

「四点式だ、ティキ締めてやれ」

 前に座るクロスに言われて俺はデビット及び他二名のシートベルトを締めてやる。
 ミラー越しに俺を睨む(いや睨んでるつもりはないのかも知れないけど、ともかく目つきが悪かった)神田に急かされるようにして俺もシートベルトを締める。

 と、だ。


 ギャアアアッ!


「!」
「「「うわっ!!!」」」 

 その俺が座ったまさにその瞬間。
 車が、横っ飛びに門から飛び出した! 
 つんざくようなタイヤの悲鳴。車内に居ても分かる、タイヤの焦げた匂い。見えてないがきっと道路には黒い痕がついただろう。

「ちょ、神田、」
「舌噛んで死にたくなきゃ黙ってろ!!」

 制止しようとした瞬間、怒鳴り返される。
 ガクンッ、と首に衝撃が走った。
 大きく体でハンドルを切った神田が、アクセルを一気に踏み抜いた!

「うぉっ!」

 途端に体に、まるでジェットコースターに乗ってるみたいな圧力が掛かる。
 レース用の車と同じエンジンを積ませた車の加速力は伊達じゃない。っていうか!

 ※一般道の最高速度は時速60kmです※

 そんな、教習所時代に習った言葉が目の前に浮かんで消えた。
 まるで地響きみたいなエンジン音をさせながら、神田は妙に手馴れた様子で住宅街を走り抜けていく。
 後ろから見たメーターが、一般道どころか高速道路ですら出しちゃまずいような数字であったのはどうか俺の見間違いでありますように!
 比喩的表現でも何でもなく飛ぶように周囲の景色が流れていく中、そのスピードにも慣れて俺はようやく隣を気にする余裕が出来た。
 こんな体験、したこと無いだろう奴らは大丈夫だろうか、と。

 …………お子様三人衆は、目を輝かせていた。

「凄いです神田!」
「すげー! はえー!」
「ジェットコースターみたいだねっ! ヒヒッ!」

 …………大喜びだった。 

「おい、何処行くつもりだ」

 進路方向を見据えていたクロスが訝しげに神田に訊く。

「高速です」

 その短いお返事に、背中に嫌な汗がドッと吹き出た。
 隣三人は期待に目を輝かせている。
 やがて、数分もしないうちに――――――因みに本来うちから最寄のインターまでは約20分かかる――――――インターに近づいた。この時ばかりは神田も減速し、自動で上がるバーを潜り抜けた。

 と、思ったらまた、

「ちょっ…………神田ー!」

 全力でアクセル踏み抜いた!
 俺の悲鳴など意に介さず、高速の本線の合流地点まで来た神田はあっさり追い越し路線に入り込む。

「チッ、トロトロ走ってんじゃねーよ!」

 …………結構、いや相当前の方を走っていた車に対して毒づきながら。
 瞬く間に追いつくと相手が追い越し路線から引いた。そりゃそうだ、明らかに異常な速度の、でっかい外車。しかも初心者マーク付き。
 俺だったら間違いなく引く。係わり合いになりたくない。
 ってゆーか!

「何キロだしてんの!?」

 ヤバい。ヤバすぎるそれ!
 限りなくメーターの限界ギリギリじゃん!
 隣ではテンション上がりまくったデビットとジャスデロが騒いでるし!

「あんたも止めろよ!」

 前に向かって叫ぶ。

「…………止められるもんならな」

 …………帰ってきた返事が妙に冷静で、俺一人騒ぐのがちょっと馬鹿らしくなってきた。いやほんとに。
 暫く走るとまた運転席から盛大な、苛立った舌打ちが聞こえた。

「クソオービスが、死ね!」

 オービス。それは速度超過を取り締まる為のもので、正式名称は自動速度違反取締装置、である。

 …………なんで設置場所把握してんの…………?
 
 この子、元走り屋さんなの? ねぇそゆことなの?

「え? 撮られた?」
「んなヘマする訳ねーだろ!」 

 鼻で笑い飛ばしながら神田は再び加速(いつの間にか減速してたらしい)する。
 俺は神田の知らない過去を垣間見た気がした。
 
 前を行く車には容赦ないパッシングとクラクションの嵐。
 次々に追い越し車線に居た車は一般車線に逃げていく。俺は心の中で善良なドライバーの皆さんに土下座して謝罪した。

 すいませんすいませんすいません! ほんとごめんなさい!!
 全部終わって家に帰ったら、しっかり言い聞かせますから!!

 そして、数時間は掛かろうかという最寄インターチェンジへの道のりを…………数十分で、着いてしまった。
 半端無い。

 高速を降りた車は、大通りを抜け、住宅街へと走っていく。
 家の近くの雰囲気に似てる。所謂高級住宅街なんだろう。

「…………あれだ」

 クロスが呟いた。

「え? どれ?」
「あの一番大きい門だ」

 奥の方の、一際大きい門。
 今は開放されている。誰か家の人間が出かけてるのか、客でも来てるのか。

「ど、どーすんの? 入れて貰えんの?」

 普通に追い返されそうな気がするのは俺だけか。

「…………ハン、」

 神田が、笑った。
 再び背中に冷たい汗の感触。

「あ、のー。神田さん…………?」

 どうなさるおつもりで?
 いやまさか、いくらなんでもそれは。
 それはっ…………!

「「「轢ーくーぞー」」」

 隣で愉しそうに、歌うようにアレンとジャスデビが言った。
 前方の門では、高速で近づいてきた俺達に気づいたのか、慌てて門を閉めようとしている。
 だけど大きな門は閉めるのにも時間がかかるようで。

「だ、駄目ー!!!」

 やりすぎ! 
 それはやりすぎ!!

 俺の悲鳴は何一つとして功を奏さず、神田は止まる気が無いと判断して人が逃げ出した門に車を頭から突っ込ませた!!  

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