ある日の、父上を除いた家族での夕食後。
 片付けたテーブルの上に、茶や酒(ティキ限定)やらを出して、俺達はどうでもいい話に興じていた。
 
「…………これは由々しき問題さ!」
「どうでもいい。心の底からな」
「どうでもいいなんて思ってるのはユウだけさ!」

 リビングのテーブル(春頃何時の間にか入れ替えられていた)をだがだか叩きながら抗議するラビの姿はとても大学生には見えない。
 
 …………俺は春から目出度くも第一志望の大学に通っている。
 ラビも当然の如く受かっており、アメリカの大学に籍を置きながら同時に、俺と一緒に大学に通っている。
 酔狂な奴だ。

「これって何です?」

 今日の昼間の出来事を知らないモヤシが訝しげに聞いてきた。そりゃそうだな。

「学食の飯がまずいって文句ばっか言ってやがる」

 そりゃ確かに。
 俺達が春から通い始めた大学の学食は、至れり尽くせりの高校のそれとは大分違う。
 というか世間一般的には大学の学食の方が普通だろう。

「ダシが美味しくない、合成調味料の味がする!!」
「味ついてないよりいいだろ」
「大体あれどこの肉!? あれ肉って言わないさ、タイヤの仲間さ!!」
「ゴムは食わないでしょ…………」
「あと萎びた野菜を出すなって!!」 

 ラビは想像以上に不満足そうだった。
 俺は毎日蕎麦が食えれば満足なのだが、ガキの頃から甘やかされまくった味覚を持つラビにはどうしても我慢ならないらしい。
 …………そんなに不味いのか? というか、今日の昼までラビがここまで味に煩いとは知らなかった。文句言われた事もねぇし。

「そりゃ神田が料理上手いからでしょ?」
「…………そうか?」
「ま、ガッコの飯が不味いってのは同意。俺も最初びっくりしたもん。ナニコレって」

 テーブルの向こう側から頬杖をついたティキが笑いながら言った。
 そんなに不味いもんなのかあれ。

「あんまり不味かったからさぁ、今でも外出る余裕無い時は抜いちゃうよ」
「食べないのか?」
「そう。美味しくないもの無理して食べたくないし。食べなくても案外持つし」

 …………なんだこの我侭野郎共は…………

「其の点僕は何でも食べますよ神田! お買い得ですよ!!」
「「「そりゃお前はな」」」

 質より量。その言葉がこれほどぴったり来る奴も珍しいんじゃなかろうか。
 そしてその燃費の悪さはとてもじゃねぇがお買い得ではねぇだろう。
 っていうか何だお買い得って。何と比較して「得」っつってんだ?

「アレンって結構味覚音痴なとこあるもんねぇ」
「ちょっ…………なんですかそれ! 失礼ですよ!?」

 ティキにからかわれてモヤシが口を尖らす。
 確かに失礼な話だ。 

「腹は膨れなくてもいいから美味いもん食べたいさー」
「そういうもんか?」
「お腹一杯にならなきゃやですよ僕」
「そう? 例えばさぁ、目の前の極上の甘味とか」

 そんな事を言いながらティキがちらり、と俺を見た。

「腹一杯にはできなくてもいいから、味見したいって思わない?」 
「ああ、そういう意味ですか。それなら是非に」
「あーあ。目の前にご馳走はあるのに手ぇ出せないのって、切ないさぁ…………」
「? 食えばいいじゃねぇか」
「「「…………」」」

 何だ。何で顔見合わせてるんだ。

「いやいやいや、ラビ冷静になりな? どうせ何も分かっちゃいないんだから」
「そーそー。此処で本気になると馬鹿を見ますよー」
「…………お前ら俺を揃って馬鹿にしてるだろ」

 何て失礼な奴らだ。
 
「そんな事言ってると食べちゃうさー」
「あ?」
「抱くが抱っこの意味しかないと思ってる人に言われてもー…………」


 …………他に何か意味があるのか?
 

 誰も知るわけが無い。この小さな疑問が、泉に放り込まれた小石の如く波紋を呼ぶなどと。


after days2


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