「ユーウー、こんばんわー」

 許可無く勝手に部屋に入る。
 拒絶されるかも、っていう内心の恐怖は押し隠して。

「…………ああ、」

 …………ユウは、一人ライティングデスクに向かっていた。レポートを作っていたらしい。

「どう? 進んでる?」
「…………大体な」

 レポート用紙から目を離さずユウが答えた。
 視線を合わせてくれない、その事に拒絶を感じるのは果たして本当に俺の被害妄想だけなんだろうか?

「じゃ、俺先ベッド入っててもいい?」
「好きにしろ」

 お許しがでたので俺は先にユウのベッドに入る。
 暫く、ペンを滑らせる音が続いて、やがてそれも止んだ。ユウが、近づいてくる気配がする。
 ドキドキ、した。
 らしくもなく、緊張してた。
 これじゃあ立場が逆、だなんて思いながら、ユウが一つ一つ明かりを消して行くのをベッドの中から見守る。
 そうして、ベッドサイドの明かりだけを残して部屋が暗くなった。俺のいる方の逆側に、ユウが入ってくる。

「「…………」」

 俺達は互いに押し黙ったまま、天井を見続ける。
 暗い部屋の中、ぼんやりとベッドサイドの明かりに照らされて天井がようやく見えた。
 …………静寂の中の沈黙を破ったのは、ユウからだった。

「…………なぁ、起きてるか?」

 押さえた声量。
 だけどその声の色は、俺が起きていることを確信しているものだ。

「うん、」
「…………、」

 応えると、ユウが寝転がって、俺の方を向いた。俺のそれに併せて、ユウの方を向く。
 黒い瞳が、微かに不安げに揺れていた。

「…………お前も、ああ思ってるのか?」
「…………。」

 何を、などと訊くまでもない。

「…………うん」
「…………。」

 俺が応えるとユウは無言で眼を閉じた。

「…………いつから?」

 掠れた声の問い掛け。

「ずっと。ずっと前、から」
「…………。」
「会って直ぐの頃、かな、」

 最初に思ったのはそんな頃。
 想いは、色々な事を一緒に経験する度に、どんどん強くなった。

「…………俺達、家族、だよな…………?」
「うん、」
「男同士、だぞ?」
「…………うん、」

 変だと思われるのは承知の上、だ。
 
「…………」

 ユウは再び沈黙した。
 暫く黙り込んでから、

「…………少し。考えさせてくれ、」
「うん、」
「もう寝る。お前も寝ろ、」
「…………うん、」

 頭から拒否されなかっただけ、希望があるんだろうか。これは。
 やがて隣から聞こえてくるようになった規則正しい寝息に、俺も、其れに倣って目を閉じた。
  






 次の日の朝飯は何だか気まずかった。
 ユウは珍しく――――――理由は俺達だけど――――――手元を何度も狂わせて、物を取り落としたりしていた。

 大学でも、何時も誰よりも真面目に講義を受けているのに、今日は全く上の空だ。
 白紙のノートの上にシャーペンが転がっている。
 頬杖を付いて、外を見ているみたいだった。

「…………、」

 ねぇ、ユウ。
 今何を考えて、何を想ってるの?

 胃がキリキリ痛む。
 思わず懐に手をやって、服の上から胃を抑えた。

 時間はじわじわ過ぎていって――――――やがて、俺達は帰宅した。





「「「「…………。」」」」

 今日の夕飯は魚のムニエル。
 それを一口口に運んだ俺達は揃って硬直する。
 何だか、凄く、面白い味がする。
 いや遠まわしに面白いなんて言ったが、正直――――――美味しくない。というか、不味い。

 何で、甘いの?

 ユウが、最初に無言で紙をとって口許を押さえた。

「…………神田、」

 気合か愛か、どっちか知らないが根性で飲み込んだティキが、グラスに入った水に手を伸ばした。  
 
「随分独創的な味付けだけど、これこういうもんなの?」
「…………間違えた、塩と砂糖…………」

 …………。
 ユウがそんな初歩的? なミスするなんて…………ある意味貴重さ。

「…………まず、」

 ユウは眉根を寄せて、水に手を伸ばす。 
 
「悪い、下げとく。外でメシ食って来い」
「え、でも…………ユウは?」
「自分で作ったものくらい責任取る」
「あ、僕はこれでいいですから。行って来るならどうぞ」

 一人だけ全く食事の手を止めないアレンが、そう言って片手をひらひら振った。その間にもしっかりもう片方の手でフォークを持っている。

「無理しなくていい。不味いだろこれ、」
「そんな事ないですよ。こういう味付けだと思えば全然。大体、君の作ったものなら何でも美味しいです」
「――――――…………」

 ユウは、その言葉に目を見張った。
 それから、もう一度魚を小さく切って口に運ぶ。
 暫く口を動かしてから――――――

「…………モヤシ、お前病院行け」
「いやいやいや、何でそうなるの神田」
「こんなもんが美味いだなんて、お前の味覚はどっかおかしいとかしか思えねぇ」
「いやいやいや、」

 ユウ、あれは世間一般的には気遣いとかに分類される発言じゃ…………

「そんな事ないですって。大体僕なんか、昔はその辺の公園に生えてた雑草とか生で食べてましたからね。世の中何でも食べられるもんです」

 …………。
 そうでもなかった。
 案外本気の発言らしい。

「…………まぁ、食って食えない事はねぇな。塩胡椒でも振りなおせば」

 沈黙していたクロスが、そう言って食事を再開した。
 まぁ、確かに。
 大体、折角ユウが作ってくれたもんなんだし。

 俺達が揃って食事を再開すると、ユウは微妙そうな表情で、自分も食べ始めた。



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