口直しに、と言ってユウはいつもクロスやティキの為に作る酒のつまみを多めに作って、俺とアレンにも分けてくれた。
それだけ作って渡すと、ユウは部屋に引っ込む。まだレポートは完成して無いらしい。
ユウが不在の間に晩酌中のクロスに事の経緯を説明したら、「そうか」とだけ言って考え込んでいた。もっと何か言われると思ってたから、ちょっと拍子抜けした。
「為るようにしか為らないよねぇ」
ティキもそう言って、グラスの中身を一気に飲み干す。
「…………俺、ユウの様子見てくる」
…………どうしても気になる。
此処に居てもどうせ気になるだけで他の事なんて手に付かないんだし。
コンコン、
「…………ユウ?」
「…………、」
ユウは、外を見ていた。
俺が部屋に入ると、ゆっくり振り向いて、
「ラビ、…………どうした?」
「あー、えー、いや…………」
特にどうかしたって訳じゃない、けど。
様子が気になって見に来ただけで。
「特に、何でもないんだけど、」
「そうか」
「ユウこそどしたの? 何かいる?」
「…………考えてた。この間、お前らに言われた事」
一瞬の間と共に帰ってきた返事に、背筋を打たれたかのような衝撃が走る。
心臓が五月蝿く喚きだすのを必死に抑えて、抑え続けて。
ユウが、ゆっくり振り向く。
「…………正直、んな事したいかって言われたら、そんな事ねぇって返す」
「、」
だよ、なぁ…………。
抱きたい、なんて言われてそれをあっさり受け入れる奴なんてあの学園の中くらいなもんだ。
…………胸に鈍く走る痛みに気付かない振りをしながら、俺は返すべき言葉と、それからアレン達に説明する言葉を捜した。
けれど。
「でも、じゃあ嫌なかのかって訊かれたら、そんな事も…………ない」
「…………え、」
どく、ん。
心臓の音が、大きく一つ、跳ねた。
ずっと、考えた。考えて、考え続けた。
俺は、多分、倫理的に考えて拒否すべきなんだろう。
男同士。血こそ繋がっていなくとも、親子、兄弟という間柄。
どちらをとっても、繋がっていい関係じゃない。と、思う。
薄っすらとしか知らないその行為。
けれど何度考えたって、――――――嫌悪感なんてなかった。
どうして無いのか、俺はそんなにインモラルな奴だったか、と色々自問自答しても答えが出ない。
結局、外に相談して返って来た返事は、
『神田の好きでいいんじゃねぇ? 嫌だっつったら奴等だって食い下がりはしねぇだろ。…………だけど、さ。あいつらの気持ちだけは、本当なんだぜ?』
『見てるこっちが心配になるくらいにねっ! …………自分で一番分かってると思うけど、神田、大事にされてるよ、』
『…………何だか知らないけど。あんたが嫌じゃないならいいんじゃない? ラビも、その方が喜ぶと思うけど』
暈し過ぎた相談内容に、ジャスデビはどこか感づいてるような答えを、ディックは投げやりなような、そうでもないような、微妙な返事が返って来た。
『ああ、分かった。あんた、――――――嫌なんじゃなくて、怖いんだ?』
画面でのやりとりだけでどうして其処まで人の腹の底まで覗けるんだと、いっそディックに関しては感心した。流石ラビの縁者とでも言うべきか。
元より女じゃあるまいし、自分の身に対する心配なんかしうてなかった。
あったのは、不安。
俺達が、その所為で変わるんじゃないだろうかという、漠然とした恐怖。
だけど、ずっと、俺達は絶えず変わって来た。
其れでも今此処にこうして、それどころかその度に結束は固くなって、今此処にいる。
――――――だったら、それもまた…………いいんじゃないか?
そんな、出してしまった結論は自分でも驚く位単純で、笑えてしまう。
「俺には、拒否する理由は無い」
目の前で目を見張るラビに、そう告げた。
望んでいるのかといわれれば否。しかし、嫌かと言われればそれもまた否。
だったら、――――――お前達の望むように。
ほんの少しの恐怖など溶かし尽くして、流してしまおうか。
…………帰ってこないラビと姿を現さない神田に焦れて僕らは二人を部屋まで迎えに行った。
「遅いですねぇ、全く…………神田ぁー、ラビー?」
「入るよー?」
ガチャ。
部屋の中。
そこにいたのは、何か興奮してるラビと、そのラビに襲い掛かられ? 組み敷かれていた神田だった。
「ちょ、ちょっとまてラビ!? いきなりか!?」
「ユウーvv」
神田が慌てた様子でラビを引っぺがそうとしている。
…………。
…………。
「「おいこらテメェ」」
「ってうわ! アレン!? あ、ティキも、」
ごり。
「脳天吹っ飛ばされたくなかったら今すぐユウから降りろ」
師匠はつかつか歩み寄って銃口をラビの後頭部に宛がった。安全装置が外されている所に師匠の本気らしきものを感じる。
「や、止めます止めます、ごめんなさい、」
「何やってんのかな? かなぁ?」
ティキが笑ってない笑顔でラビの肩を掴んで、問い詰めた。
ギリギリ掴まれてる肩は中々痛そうだけど…………どうせなら僕に代わって欲しい。
「ちょ、ちょっと待て、俺がいいっつった所為だ、ラビの所為じゃねぇ、」
組み敷かれていた神田が身体を起こして慌てた様子で仲裁に入る。
…………って。
いい、って?
思わずぽかんとして神田を眺めてしまう。多分今僕らはきっととんでもないアホ面だ。
「うう、酷いさ…………襲うつもりなんてなかったのに…………俺嬉しくてユウにぎゅっとしたかっただけなのにぃ…………」
さめざめと嘘っぽく泣くラビを神田がよしよしと撫でている。
「え、いいって…………いいの?」
ティキが呆然と呟く。
…………僕らは結局の所、神田に委ねる=断られる事を前提としてた所があるから、こんなにあっさり首を縦に振ってもらえるなんて…………
「ああ」
…………思ってなかった。
「…………え、ええええええええ!?」
何でだろう、嬉しいのに凄く嬉しいのに、うろたえてしまう。
分かってるよね? 本当に君分かってるんだよね?
思わずそう確認したくなった。
見ればティキも師匠も唖然と神田を見ている。
「――――――ただ。俺はやり方知らねぇし。そこのとこはお前らがどうにかするんだよな?」
「任せといくさ!」
…………。
「任せて下さい神田。君にとって忘れられない最高の夜にして見せます」
親指を立てて見せると神田は不審そうな顔で、
「…………なんか今一信用できねぇ」
…………酷い!!
酷いです神田!!
「…………取り敢えず。ベッド行くか?」
銃を仕舞った師匠が、そう提案する。
早速今すぐなんですか。
流石の手の早さですね…………。
「あ、でも今夜はレポート作らなきゃならないので、また明日以降で」
「「「「…………」」」」
あ、今なんとなく出鼻を挫かれるって意味が分かった気がする。
神田は暢気に「どうやって纏めるか…………」なんて言いながら立ち上がってレポートに向かっていった。
僕らは思わず、それぞれに顔を見合わせあって、誰からともなく、笑ってしまった。
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