――――――翌朝。

「おはようございます」
「お、おはよーさんアレン。もう大丈夫か?」
「ええ、お陰さまで」
  
 俺がその声に入り口を振り返ると、其処にはブレザーの制服を着込んだモヤシがいた。
 すっかり熱は下がったらしい。

「おい、どうせお前も食うんだろ。早く座れ」

 それを見越して大量の米と味噌汁、焼き魚を用意したんだ。
 早く座れと指し示すと、しかしモヤシはそれを無視して俺の方に近付いてきた。
 にこっ、と笑って、

「あ?」
「…………神田、二日間ありがとうございました」

 そんな殊勝な事を言ったかと思った次の瞬間、
 俺の視界には、印象的な白と赤。
 次いで、妙に柔らかな感触が――――――。

 え?

 抗う間どころか何をされたのかすら把握出来ずに俺はその感触を受けた箇所、自分の唇に触れる。
 呆然と俺がモヤシを見返すと、奴はまたニコッと笑って、

「ついでに、ごちそうさまですv」
「「あ――――――っ!!」」
「っ!!」

 突然ラビとティキが叫び出し、俺は思わずビクッとした。
 不意打ちで叫ぶなこの野郎共!

「何やってんだよアレンッ!」
「あはは、看病してくれた優しいお兄ちゃんv に感謝の気持ちを示しただけじゃないですか〜」
「だからって何でキスなんだよっ」

 ――――――キス?
 …………って俺、モヤシに…………っ!?
 
 その段になって俺はようやく、自分が何をされたのか気が付いた。

「〜〜〜〜〜っ、テメェこのクソモヤシ――――――!!」

 

 俺達が朝飯を食えたのは、それから三十分以上経ってからだった。
 
 
 
 
   
 
 
  

 八時過ぎに、俺達はそれぞれに制服に袖を通し、玄関前で待っていた車に乗り込んだ。

「おい、通学位徒歩か自転車で行かねぇのか?」

 俺が金曜に感じた事を口にすると、ラビとモヤシは顔を見合わせた。

「…………そりゃ、行って行けない事はないけどさぁ…………」
「神田、それは一度行って見てからの方がいいですよ」
「山奥だしね」
「車で四十分かかりますし」
「…………待て、一体何処だそれ!?」

 通学区って何だったっけ?

「私学だもん。関係無い無い」
「ちなみに男子校です。…………僕らも十分気をつけますけど、神田気をつけてくださいね?」
「あ? 何にだよ?」
「「…………。」」

 何で其処で揃って沈黙する!?

「何って」
「ねぇ?」
「アレさ」
「ナニですね」
「意味分かんねぇよ!!」

 俺達がそんな漫才みたいな会話を繰り広げていると、車は市街地を抜け坂を上り、森の中(ただし道路はしっかり整備されてる不思議な空間だ)を通り、やがて車はデカイ煉瓦造りの門を潜った。
 …………待て、このセンスは見覚えあるぞ?

 門を潜って十分ほど、両脇を背の高い木に囲まれた道を走り――――――

 不意に開けた視界に、俺は思わず目を見張った。

 でかくて如何にも歴史がありますって感じの色合いの煉瓦造りの建物がいくつか。一際目を引くのは、その建物の後方にある時計搭だ。

「あ、ねぇこの辺で降ろして! ユウに案内しながらいくから」
「承知いたしました」

 車が静かに止まり、俺達はその車から降りた。
 まだ建物から遠いからか辺りは静かだが、建物の方から物音が聞こえてる気がする。

「此処から歩くのなんて久しぶりですよ」
「だね。…………じゃ、ユウ案内するからついて来て〜」

 俺は一歩先から振り返る二人について、石畳の道の上に足を踏み出した。

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