「…………ん、」

 明るい…………。

 陽光に誘われて急浮上した意識。
 目を開いて最初に目に飛び込んできたのが見慣れない天井で、思わず目を瞬いた。
 それから漸く思い出してきて、体を起こす。
 そうだ。俺が、頼んで泊めて貰ったんだった。

「…………迷惑だっただろうな」

 思わず自分で呟いて、項垂れた。
 俺が家を飛び出して此処に着いたのはもう夜中と言っていい時間だ。
 約束も前触れも無しに、そして理由も言わずに(言えるかあんな事!!)訪れた俺を、あの人は笑顔で迎えてくれた。
 暫く自分の短慮を責め、それからベッドから抜け出る。
 
「こんな時間か」

 壁際にある大きな時計を見て驚いた。何時もの起床時間より大分遅い。
 借り物の寝巻きを軽く整え立ち上がると、直ぐに着替えが、いや正しくは俺が着てきたものを洗濯してある服が見つかった。

 …………あの時間に着いたのにそんな手間まで…………

 申し訳ない、そう思いながら寝巻きを脱いで、手早く着替えた。
 それから部屋のドアを適当に開けてみると洗面台が見つかった。家の造りはうちと結構似ている。というか金持ちの家は何処もあんな感じか?
 顔を洗って、それから部屋を出た。 
 朝日が差し込んで明るい廊下は静かだ。
 
 当てもなく歩いていくと、人の話し声が聞こえた。
 開かれたドアの中を何の気無しに覗き込んで――――――

「あら、まぁ!」
「旦那様、」
「ああ、今起こしに行こうと思ってた所だよ。お早うユー君」

 …………ユー君?

「おはようございます」
「良く眠れたかい?」
「はい…………」

 此処は朝食用のダイニングだったらしい。
 テーブルにはそれらしい支度がされている。
 
「今ご朝食をご用意いたしますからね」

 ティエドールさんと話していた使用人らしき奴がそう言って、椅子を引いた。
 促されるままに席に着くと、俺の向かいにティエドールさんが掛けた。
 次々にテーブルの上に料理が運ばれてくる。
 パンとスープとサラダに豆を煮たような奴、、ハムとベーコンとソーセージ、卵にヨーグルトに果物。それから紅茶とコーヒーと牛乳とオレンジジュース…………典型的な英国式朝食って奴だろう。うちでは滅多に出さないが。(朝飯は米と味噌汁だろ)
 …………モヤシが喜びそうな量だ。
 そういやあいつら、朝飯どうしたんだ?

「いただきます」
 
 味は…………どれも良かった。
 肉や卵料理は全て作りたてらしく熱くて、そしてパンも焼いたばかりだったらしい。
 普段は米派の俺ですら焼きたてのパンは旨いと思えたくらいだ。
 家でもそのうち焼いてみるか…………。

 だが困ったのはティエドールさんで、腹一杯になってフォークを置くたびに「遠慮しなくていいから」と進めてくれる。
 うん、まぁ…………腹一杯なんだがな。
 気遣いに応じて無理矢理にいつもよりも大分多い朝食を腹に収めて、いい加減俺が限界だと気付いたらしい回りの給仕が残りの物を全て引き上げていった。
 残った紅茶を苦しい胃に流し込む。

 そんな俺を、ティエドールさんは目を細めて眺めてた。

「…………」

 見られてるよな…………。

 その視線に、幾らそれに厭な感情は全く込められていないしても緊張する。
 紅茶の最後の一滴まで胃に押し込めるて何とも言えない満腹感に思わず下腹に手をやった。

「良かったら庭でも見てみるかい?」 

 …………庭?

「…………はい」

 別に他にやることも無い。
 俺は大人しく頷いた。



after days 29へ

after days 27へ
beautiful daysトップへ  



小説頁へ