「…………」
体中重だるく、弱くて甘い痺れがしつこく残っている。
まだ何か体の中に入っているような気がして少し腰を浮かせた。体はいろんなものでベタベタしている。
…………折角風呂入ったのに、これじゃ意味ねーだろうがあの馬鹿…………。
体が濡れたままベッドに放り出されたから、シーツは湿ってる通り越して濡れている。冷たい。
寒さに肩が震え、少しでも暖かい所を探してシーツの奥深くに潜った。
「…………何やってんの?」
「寒ぃ」
「あれま。出てこいよ、拭いてやるからさ」
「…………自分でやるからタオルだけ置いてけ」
「はいはいっと。風呂どうしよ、入れたら入る?」
「…………入る」
湯に入ればこの悪寒も少しは取れるだろう。
小さく笑ったティキは頷き、風呂場に消えた。
…………ああ、くそ、眠い…………。
風呂が入るまでに果たして意識を保っていられるか甚だ疑問だ…………。
…………。
「おはようございまーす」
「…………アレン?」
僕がその部屋に無断侵入すると、部屋の主人は驚いた顔で僕を見た。
「何? どした?」
「いや神田の姿が見当たらなかったんで。ラビの所にも居なかったし消去法でティキのところかなって」
師匠は昨日帰ってきてないし。
朝下に降りたら神田がいなかったから、まぁ「そういう事」なんだろうとは思ってた。
神田が誰かと一夜を共にした後の朝は、大体神田は起きてこれない。何故か一人だけラビの時だけはそうでもないんだけど…………どうしてなんだろう? ラビがそれだけ神田の事を気遣いながらしてるってことなのかな…………?
「ああー、成程ね。確かにいるけど…………ところでアレン?」
「はい?」
「その手の中にあんの、何なのかなー?」
「ああこれですか? 見て分かるでしょう?」
「それ」をティキの前に翳すようにしてみせる。
するとティキは大きく溜息を付いて、
「何でぶっ壊しちまうかなぁ…………」
「いえ別に壊すつもりはなかったんですけども」
僕の手の中にあるのは金色のドアノブだ。開かないなー、と思ってちょっと強めに引いたら取れてしまった。
鍵が掛かってた、なんて思いついたのは開いた後だったから仕方ない。
「ったく…………クロスに怒られても知らないからな」
ティキは溜息を付いた。それよりも。
「神田、まだ起きないんですか?」
「ああー…………まぁ、そうだな」
ティキの背後にあるベッドの膨らみの方にさっきから目は釘付けだ。
「昨日したんですよね?いいなぁ」
「いいなぁってお前…………。お前よりもよっぽど禁欲してるんだけど?」
「そりゃそうでしょうけど。僕は枯れ始めの師匠や貴方と違って若いので」
「ちょい待ち誰が枯れてるって!? この子酷ぇ!」
わっ、と顔を覆って嘘泣きを始めるティキを華麗にスルーして僕はベッドに近寄った。これだけ騒いでても神田は眠っている。今日は土曜日だから、寝坊が悪い訳じゃないけど。(敢えて言うならお腹が空いたくらいで)
普通にパジャマを着て横向きに眠っている神田は首筋に残る跡さえ無ければ「あんな事」の後には見えない。…………その跡が何となく面白くなくて(僕はもっと付けるけど)、指先で押さえてみる。
「ん…………、」
もぞり、と神田がベッドの中で少しだけ動いた。
「神田はまだまだおねむだし仕方ない、兄さん朝飯作ってくるわ。あ、もしかしてラビが用意してるか?」
シャツを来たティキの言葉に思わず眉根を寄せて、
「それは食べられるものですか?」
「お前が言うな」
間髪入れずに返された。
僕は原則、神田が居ないときにはキッチンの前に調理目的で立つことを禁止されている。例えラビやティキがいても、だ。
…………そんなに悪く無いと思うんだけどなぁ…………
顔に出たのか、ティキが「ないない」と顔の前で手を振った。
「お前のアレは食える食えない以前に、兵器だから」
「失礼な、ちゃんとした食べ物ですよ」
「ラベンダーの?」
「だってラベンダーティーとかあるんですからイケる筈…………」
以前神田が具合悪かったときに作ってみたラベンダーのお粥の事だ。匂いだって悪くなかった。フローラルなラベンダーの香り。
最終的には自分で食べたけど。そしてそんな僕を師匠達は信じられない物を見る目で見て、尚且つ神田が居ないときにキッチンに立つことを禁止された。
「イケないから。兵器だったからアレ。…………所でラビは起きてる?」
「あ、はい。起きてて下に居ますよ」
「はーん、じゃあ何か作ってるかな? 手伝ってくるか」
そう呟くとティキは僕に「イタズラするなよ、この部屋に食うものは殆どないからな」と言い置いて出て行った。ティキは僕を何だと思ってるんだろう、いくらお腹が空いてたって、人の部屋を漁って食べ物を探したりなんかしないのに。
むぅ、と膨れて、それから再度神田に視線を戻した。
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