「此処から見える一番手前の建物が、授業棟。東西南北の4つあるから、移動教室の時とか気をつけてね。まあユウは俺のクラスに編入するから一緒に行けば大丈夫だけどさ」
「…………しかし、なんか文化財みたいなとこだな」
「あ、鋭いですね。事実この黒聖学園の建物全9棟、全て重要文化財ですよ。全部、某旧侯爵家に寄贈された戦前の建築物を移築したものです」
 
 …………いいのか? そんな大切なモン学校にしまちまって…………

 校舎に近付くにつれ、人の気配が濃くなってくる。同じ制服を着た奴の姿が見えるようになってきた。

「あっ、ラビ様! お早うございますっ」

 …………待て、ラビ「様」?

 前の方に居た奴がラビに気付いて、笑顔で振り返った。
 ってか何だ「ラビ様」って。普通ならそれかなり馬鹿にしたニュアンスじゃねぇか?
 しかしラビに声をかけた奴はそんなつもりはないのか、頬を染めながらラビに何か包みを押し付けて、パタパタ走り去っていった。

 …………何だ? アレ…………

「ラビはモテますからねー」
 
 モテ…………何だって?
 此処男子校じゃなかったか? 
 
 俺は唖然とした顔で走り去った奴を眺めていると、モヤシは肩を竦めた。

「ま、あの位日常茶飯事ですから気にしないで下さい」
「…………。」
「…………。」

 日常茶飯事か…………
 何やら俺は薄ら寒い気配を感じて、腕をさすった。









 
「な、アレ誰だ…………!」
「嘘だ…………ラビ様っ…………!」
「アレン君っ!?」

 中庭に来た俺達に、容赦なく他の学生達の視線が突き刺さった。

「おー、注目の的?」
「そりゃ僕ら目立ちますから」
「そうさねぇ」
 
 しかしお世辞にも好意的とは言いがたい視線ばっかりなのは気のせいか?
 こいつら自分で目立つとか言ってやがるし…………ちょっと離れた方がいいのか?

 俺が後退りすると、あっという間にラビとモヤシを人が取り囲んだ。
 しかも殆どの奴がさっきラビが手渡されたみたいな奴を持ってる。
 …………男ばっかり、だよな。

 俺が唖然とその人垣(なんていうか、餌に群がる動物とかを思い出す光景だ)を見ていると、不意に後ろから声を掛けられた。

「ちょっと、貴方」
「あ?」

 掛けられた声に俺は振り向いて、目を見張った。
 其処に居たのは、色素の薄い、あれ来る所間違えてねぇか? って感じの…………制服を女子のとっ替えたら、女子にしか見えねぇような一年だ。(ネクタイのラインが一本だから直ぐ分かった)
 しかし何故かそいつは男にしちゃデカい目に涙を湛えて、俺を睨みつけている。

 …………俺、何もしてねぇぞ?

「貴方、どういうつもりですか、ラビ様達と一緒になんてっ…………」
「…………そりゃ同じとこから来たんだから一緒に来るだろ」

 何言ってんだ? このガキ…………
 俺が眉根を寄せながらそう答えると、そいつは驚きにか眼を見開いて、喘ぐ様に呟いた。

「嘘だ…………これまでお持ち帰りされる子はいてもお泊りさせて貰える子なんていなかったのにっ…………!」

 お持ち…………何だって?

 そのガキはキッ、と俺を睨むと、

「…………ラビ様を独り占めなんて、させないっ…………!」

 そう捨て台詞を吐いて、駆け出して行った。

 …………何だ、あれ…………?
 
 俺の疑問に答えてくれるような奴は、何処にも居なかった。

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