「二年前に家族で此処に戻ってきたんだ」
「へぇ。そんなに前にか」
「うん!」
犬か何かのように纏わり付いてくるアルマ(こいつこれでも俺より一個上なんだよな…………)に、立ち話も何だとアルマの家に招待された。極々普通の一戸建てだ。変な屋敷だったらどうしたものか、と少し身構えていたからほっとした。
他の奴らは無言だ。最初俺がアルマの誘いに応じた時露骨に嫌そうな態度をとった(確実にそれは無用心な、とか、そんな不審者に、とか、そういう目だった。でも最悪四対一だ。こっちに十分すぎる勝ち目がある)
「…………? お前ん家の親は?」
「仕事だよ、だって今日平日じゃん」
「あ」
そうだ。夏休みに入ってたから忘れてたが世間は普通に平日だ。父上だって今日も仕事に出ている。
アルマは俺が小学校一年、アルマ自身は二年の時に親の都合だと言って遠い所へ引っ越していった。その頃には俺の記憶にある一度目の引越しが済んでいて(学校は変わらなかったが)俺も此処から離れていた。
「はい、どーぞ」
並べられた茶碗に露骨に警戒している三人は放っておいて俺はさっさと口をつける。
「戻ってこれることになって、まぁ離れてた時間が長かったから此処じゃなくても良かったんだけど。でも此処からだとチャン先生の病院近いでしょ?」
「あぁ…………あそこまだやってるのか?」
「普通にやってるよ! 若先生が今医院長なんだよー」
「へぇ…………」
若先生というのは此処から程近くにあるチャン医院のバクとかいう名前の跡取り息子(だった奴)だ。まだあの頃は医大生だとか言っていた、気がする。
小学校に上がった頃には俺は剣道や武道を習っていて、そのお陰で生傷が絶えず良く世話になった。一時は同じ道場に通っていたアルマも同様だ。元々気管支が弱かったアルマは俺よりも病院に通う率は高かった。
まぁ最も俺の記憶にあるのは直ぐにムキになり(人のことは言えないが)ガキだった俺達とある意味で対等に喧嘩する(二回り位年上だったと思う)バク「で」遊ぶのが楽しかった、という事位だ。
別に病院なんかに用は無いが、顔でも出して見るか…………? でも手土産の一つもねぇし、また日を改めるか。
「今でも通ってるのか?」
「うん。相変わらず此処、強くなくて」
トン、とアルマが自分の喉元を指て軽く突付く。
「大人になったら治ると思ってたんだけどね。まぁ今も昔も日常生活に支障は無いからいいけどさ」
「ってお前たまに死にかけてなかったか?」
「それはユウと追いかけっこしたりして暴れた時だけだよ…………」
そうだ。そう言えば母上に「あんまりアルマと騒がないように」って注意されてたんだ。最もその注意は遊びに興が乗るとよく忘れさられた。母上は随分アルマを心配してたけど、アルマの両親は寧ろ騒いで暴れたほうが鍛えられるだろうって考えの持ち主だったみたいで、逆に俺は「アルマと一杯遊んであげてね」なんて言われてた。
「そう言えば、ユウのお母さんは元気?」
「――――――っ!」
隣でモヤシが息を飲んだ。
逆隣のラビの肩も強張る。
そんな反応に逆に俺の方が心配になる。…………アルマの反応も、だ。
「…………亡くなった。一年位前に」
「…………えっ?」
俺が告げると、アルマは大きく大きく目を見開く。
「…………嘘?」
「嘘じゃねぇよ。…………癌だったんだ。三年前発症して、去年亡くなった」
「…………嘘…………」
大きく開かれた目に、直ぐに涙が溜まる。
溢れない内に乱暴に服の袖でごしごしと目元を拭ったアルマは、それでもまだ哀しそうな顔で。
「…………そっか…………。おばさんが…………」
「あぁ。それで今、父上と一緒に暮らしてる。で、こいつらは俺の兄弟なんだ」
正しくは父上じゃないんだが、まぁそこまで説明しなくてもいいだろう。余り話したく無い事もあるし、それよりも話が長くなりすぎる。
「えっ? 兄、弟?」
今度は驚いた顔で(相変わらず百面相だ)アルマがティキ、ラビ、モヤシ、と順番に眺め回す。言いたいことは分かる。似てない兄弟だ。無論俺を含めて。
「全員腹違いだからね」
「…………、」
ティキが苦笑いで答えるとアルマはぱちぱちと瞬いた。四人兄弟で全員腹違いなんて聞かされたら、どんなのが父親なんだと思うだろう。あんな人だ。
「ごめん、てっきり友達だと思ってた」
「まぁ、そりゃそうだろうさ…………」
ラビも苦笑顔で頷く。俺達四人を見て一目で兄弟だと思う奴はまずいない。これからもきっといない。
「友達にしてはちょっと歳的に…………」
「ちょ、アレン酷くね!? それ酷くね!?」
モヤシがまたしても余計な事を言う。その「歳的にちょっと」なティキが声を上げた。
「仲いいんだね〜」
「今ので仲良く見えるか? それにしてもお前動じないな」
「?」
「四人全員腹違いっつったら、もっとデカいリアクションすると思ってた」
もっとこう…………騒ぐとか。
「あぁ…………だってユウのお父さんでしょ? それくらい想像付くよ」
「何だよ其れ」
「あのねユウ。すっごく失礼な事言うかもしれないけど。…………あんなに若いお母さんだったら普通、お父さんがどんな人なのかって邪推はするよ」
「あぁ…………そうか」
まぁ、確かに。
後々考えれば恐ろしい。
「「「?」」」
不思議そうな顔をする三人に、
「あ、そうだ。いいもの見せてあげるね」
アルマはそう言って部屋から出ていった。
階段を登るような音がして、暫くした後戻ってくる。手には最近では余りお目にかからないビデオテープが一本。
それをビデオデッキに入れて、スイッチを入れた。
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