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「…………」
「…………」
パラッ
訪問客は此処に来てから特に何をするでもなく、何を言うでもなく、ただひたすらにソファーに陣取って本を読んでいる。
まぁ別にどうでもいいが、本読んでるだけなら俺が此処にいる必要も無さそうだ。
かといって、形だけでも「客」の奴を一人で遺しておくっつーのも、それはそれで微妙な所だが。
つか、こいつ何がしたいんだ?
「おい」
俺が声を掛けるとそいつは面倒くさそうな顔で本から視線を上げ、俺を見る。
「お前何しに来たんだ? うちは図書館じゃねぇぞ」
「知ってるよ、本無いし」
そこじゃねぇ。
「ラビにでも用あったのか?」
ラビはモヤシを伴って少しだけ出かけている。
ティキはついさっきまでその辺りにいた。その内戻ってくるだろう。
「別に」
別に、って。
「所でさ、此処は客に茶の一つも出ないわけ?」
…………こいつ。
「生憎俺は人ん家に約束無しで来た挙句家主や家人に挨拶もなしに読書を開始するような奴を客だとは思わねぇ」
俺がそう言ってやると、奴はラビそっくりの顔で片眉を跳ね上げた。
何せこいつときたらうちのドアを開くなり「邪魔するよ」とか抜かしてソファーの占領を始めたんだ。
「…………」
暫しの謎の沈黙。その後に、
「話すから取り敢えず、何か飲み物」
テメェ…………。
米神に青筋が浮かびそうになるのを堪え、俺は台所へ向かった。
出涸らしの茶でも淹れてやろうかと思ったが出涸らしの茶葉自体が無い。
モヤシ秘蔵の高級茶は勿体無い気がしたから普段使い用の黄色のパッケージを開けた。まぁ結局味なんて大して変わらないよな…………。俺には分かんねぇ。
ディックは俺が持ってきたティーカップを一瞥するなり「センスねぇな」とかほざきやがった。コイツ簀巻きにして玄関先に放り出してきてもいいか?
顔を引き攣らせながら奴の前にティーカップを置く。乱暴に置いたからか、少しだけソーサーに零れた。知るか。
喉が乾いていたのか、ディックはそれを一気に飲み干した。
「…………んで?」
「ラビは?」
「何だ、結局ラビかよ。今出かけてる、直ぐ戻ってくる」
「ふーん…………」
ディックは少しだけ考えるように顎に手をやり、目を細めた。
真面目な顔をしていると本当に良くラビに似ている…………。
「じゃあいいか。これ、渡しといて」
「?」
ディックが何処からとも無く取り出した封筒を突きつけてきた。
「何だこれ」
「ラビなら中見りゃ分かる。叔母さんからの手紙でもあるし」
「お前の叔母…………? …………!」
誰だ、じゃねぇ。それは間違いなくラビの…………
「俺と叔母さんで組んで家乗っとる事にしたから。分け前欲しけりゃ連絡寄越せつっといて」
「…………」
乗っ取る?
何処を?
「言っとくけどこの家じゃないからな」
「そりゃそうだろ…………」
お前人を馬鹿にしてないか。そんな勘違いしねぇよ。
突き付けられた封筒に手を伸ばす。ほんの少し指先が触れ合って、
「!」
思い切り握られた。一瞬折られるかと思ったが杞憂だったらしい。折るつもりだったら俺だったら掴んだ瞬間に一気に決める。
じっ、と睨みつけるかのように顔を覗き込まれて何やら不穏な気配だ。
「おい」
「…………にしても。幾ら女顔つっても、分かんねぇ。何でラビはお前なんかがいいんだ? 女なんか幾らでも寄って来るだろうに」
「知るか」
それは他の奴らにも言えることだ。
誰一人として女に不自由しそうにはないのに…………何で俺なんだ、と思わないことは勿論無い。口にだして訊いたことすらある。
「愛してるから」という回答には嘘偽りはなさそうに見えたが(そもそも偽る必要性は無いだろう、興味が無いのだったら手を出さなければよかったまでの事だ)、その理由は相変わらず良く分からない。
「アンタ、上手いの?」
「何がだ」
「セックス」
「! 臆面も無くそういう事をほざくな!」
真顔で聞くな!!
上手いかどうか何か知らねぇよ、つーか多分下手だよ!
体を引いて逃げようとしたが掴まれている指は離れない。下手に振りほどこうとしたら痛い思いをするのはこっちだ。
「…………試させろ」
ボソッ、と呟いたディックが俺の腕を引いた。
「! させるか!」
引かれた腕で逆に相手の腕を取り、関節を逆に――――――
「あだだだだだだっ!!!」
ディックは途端にギャアギャア騒ぎ出した。
決められると痛ぇんだよな、これ。
解放するか更に追撃しようか決めあぐねている間に、
ピッ
「…………ん?」
ディックの頬に、一筋細い傷が入った。
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ディック再登場。
大体ろくな目に合わない気がする。。
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