次の瞬間、ディックの背後の壁に「何か」がぶつかって派手な破壊音を立てる。…………良く見たら壁には「何か」が刺さっている。思わずキメていた腕を離した。

「チッ…………外しましたか」
「外したか、じゃないさ!! 何投げてるんさアレン!!」

 後ろから聴こえた声に振り向くと、そこには帰ってきたラビとモヤシの姿。モヤシは家と車の鍵を一纏めにしてあるキーリングを上へ放り投げてはキャッチしている。…………さては投げたのは鍵だな?

「もしユウに当たってたらどうするんさ!?」
「神田なら避けますよ、反射神経抜群ですもん。ねぇ?」
「そりゃあの位なら避けられるが」

 何かが飛んでくるのは把握していた。逃げなかったのは俺には当たりそうになかったからだ。

「俺は良いのかっ」
「いいも何も。君の額を狙ったんですよ?」

 さらりとモヤシが言い放つ。
 あの速度で金属製の鍵が刺さったらどうなんだ、死ぬんじゃねぇのか?

「額に鉛弾で風穴空けられるよりはいいでしょ」
「?」

 モヤシがつい、と吹き抜け部分の二階の方を指さした。
 そこにいたのは――――――

「父上」

 いつの間にいた。
 所で父上は何も握ってなんかないぞ。物騒な黒光りするものなんて握ってないぞ。うん。その隣でティキが引き留めるように父上の肩を引いてるなんて事実は全く無い。
 自分に無理矢理言い聞かせておく。

「寧ろ助けてあげたんだから感謝して下さいラビ二号」
「ラビ二号…………」

 一号、であるのは間違い無いラビが心底微妙な顔をした。

「誰が二号だよ、ったく…………」

 腕を撫で摩りながらディックがボヤくように呟いた。

「俺、ちゃんと帰ってくる時間教えたじゃん。その時間に来ればよかったんさ。早く来た挙句にユウに手ぇ出そうとするからそーなるんさ」
「…………」

 ラビの台詞に不満気に口元を引き結んだディックがぷいとそっぽを向いた。
 
「どうでもいいが」

 ティキを伴って父上が二階から降りてきた。

「お前らが何を企もうが知らんが、うちに火の粉振りまくような事だけはするんじゃねぇ」
「けっ」

 父上の言葉にディックは小さく鼻を鳴らした。それはいいが、そこはかとなく顔が青いぞお前。大丈夫か。

「しっかし懲りないねアンタも…………ウチに関わると碌な事にならないってそろそろ学習すればいーのにさ」

 ティキが呆れたように言って首を竦めた。その点については全く同感だ。つっても、従弟のラビがいる以上ディックが全くうちに関わらないということは中々なさそうだが。
 人死にが出たりしないことだけを祈るとしよう。
 皆来たことだし茶の支度でもしよう。
 踵を返してキッチンに戻ると、後ろからモヤシが追いかけてきた。自主的に手伝いに志願するのは感心するが、つまみ食いするなよお前。

「あっちの話聞いてても、ぜんっぜん分からないんですもん」

「法律」「会社」「財産」「権利」、俺には全く理解出来ないし興味もない。
 ああでも、そういやこいつ昔、

「まぁな。そういえばお前、昔父上の後継者レースがどうとか言ってた」
「うわ、ヤなこと覚えてないでくださいよ」

 心底微妙な顔でモヤシが答える。二回目くらいに顔を合わせたばかりだったのに喧嘩売られたんだ。

「あれは結局どうなったんだ?」
「師匠の会社一つじゃないですし、分割して継ぐんじゃないです? 正直もうあんまり興味ないんですけど」
「無いのか」
「そんな事より僕は君と暮らせることの方が大事ですもん。でも大人になったら自分の食い扶持位は稼がなきゃってのは分かってますけどね」

 取り留めない話をしているとリビングからティキがやってきた。

「避難避難っと」
「どうしたんだ?」
「クロスがイラついてる。コワイネー」

 ティキはおどけてみせるがそれは結構マズイ事態だ。父上も気が長い方じゃない。
 苛立ちを向けられているだろうディックと、そのディックがいるが為に逃げられないのだろうラビを思う。

「だからさ、神田。後でちょーっとクロスのご機嫌取りしといてよ」
「…………機嫌取り?」
「かーいらしく甘えてみせりゃそれだけで十分だからさぁ」

 軽く言ってくれるが、何すりゃいいんだろう。
 そんな事を考えた瞬間、硝子が割れたような音がした。
 あーあ、とでも言いたげだが同時にどうでも良さそうなモヤシとティキに嘆息して、収拾を図るべくリビングに戻った。






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 ラビ母とディックが組んだ。
 めんどくさそうな気配にクロスがイラッ★
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