何がそんなに不満だったのかは知らないが、兎も角父上がディックを文字通りの意味でつまみ出したので茶の支度が無意味になった。まぁ、誰か飲むだろう。
 首根っこひっつかまれてドア迄連行される様子は宛ら運ばれる子猫みたいだった。いや、奴はどっちかってーと兎だが。父上の向かい側で首を竦めたラビがおっかねー、と小さく呟いた。
 相変わらず機嫌が悪いのは、瞬く間に積み上がっていくテーブル上にある灰皿の中の吸い殻と何時もよりも多く立ち上る紫煙で知れる。眉根に皺を寄せながら煙草を灰にしていく父上の横顔をじっ、と見る。…………体に悪いだろうに。ガキのモヤシと違って体にどんな悪影響があるのか分かった上で吸ってるんだろうから色々言いはしないが。

「…………何だ?」

 テーブルの上に放り出されている小箱が殆ど空になり対照的に灰皿の吸い殻が山盛りになった頃。あの煙は何処に入って行くんだ、肺は分かるがその先は? などと考えていると父上が俺に視線を向けた。
 どうでもいいが少し煙い。
 小さく咳払いしてから、

「何処に入ってるんだろうと」
「何がだ」
「煙」
「…………。ほー」

 父上は上を向いて煙を吹き上げてからまだ吸う所の残ってそうな煙草を灰皿に押し付けた。新しく取り出す事はせずにテーブル上の小箱を回収してポケットに仕舞う。
 それから突然肩に回された手を見た。手を見て、父上の顔を見て、また手を見る。引き寄せられて体が傾いた。
 妙な姿勢だが機嫌を取るように言われてるんだから大人しくしとく方がいいだろう。


 それから少し後に父上が出掛けてくるとだけ言いおいて消えるまで俺は大人しくしていた。









「おい」
「あー、おかえり〜」

 人が遅くに戻ればコレだ。
 車から降りた時点で無人の筈の私室から灯りが漏れていることに嫌な予感がしていた。が。
 床に転がって伸びているアレン、同じ床に座り込んでいるラビ、ソファーの上のティキ。
 赤い顔で陽気に笑い――――――アレン除く――――――、随分上機嫌な事だ。
 酒盛りは良い。勝手にすればいい。何が良くて何が悪いかの判断は大分昔から本人達に任せている。今更色々言うつもりはない。
 だが。

 何故それを俺の部屋でやった?

「何だこのザマは」
「見ての通りさ〜えへへへへ」

 ガキをあやす玩具のように笑い首を前後させる(壊れたか、)ラビを一瞥して溜息をつく。
 ラビの横のアレンはピクリとも動かない。

「俺達だって頑張ったんさー、でも中々うんって言ってくれないから…………」
「あぁ?」

 全く意味が分からん。酔っ払いの戯言になど付き合っていられない。
 比較的マシな顔色――――――地黒の所為で分からないだけかもしれないが――――――のティキに視線を向ける。甘ったるいポートワインをラッパ飲むしていた奴は視線に気付いたか肩を竦めて、寝室の方を指さした。

「ご機嫌取りはあちら」
「…………」

 機嫌取り。
 奴らが考えるような事じゃないのは確かだ。
 その単語に嫌な予感を感じつつ寝室と此処とを隔てるドアを開く。
 そちらも煌々と灯りが灯り、そしてベッドの上には――――――

 赤い顔で酒瓶を抱き締めながら眠るユウの姿。

「…………」

 安らかに寝息を立てている。

「…………これをどうしろっつーんだ」

 まさかこの寝てるのをたたき起こして相手させろと?
 振り返ると丁度ティキが床の上のアレンを肩に担ぎつつラビに肩を貸していた。

「ちょ、重いってラビ! 自分で立てよ! 俺はアレン一人でせーいっぱいなの!」
「うにゃー…………」
「…………」

 自分で立つどころかべったり寄りかかる形のラビを引き摺るティキが出ていく直前に目が合い、

「…………ごゆっくり〜」

 そんな言葉と共にドアは閉められた。




 ・ ・ ・ ・




「…………頭が痛いです」
「飲み過ぎだろ」
「…………腰も痛いです」
「…………」

 ベッドシーツに顔を埋めるユウを上から見下ろす。丁度旋毛の辺りが揺れている。

「昨日俺、何しましたか」

 そこはかとなく恨めしげな目で見上げてくるユウに、

「…………何も?」

 そう答えて小さく笑った。





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 ご機嫌取り=取り敢えず神田差し出しとこう的思考。
 実はクロス誕祝いに考えてたものを流用。間に合わなかった。
 アレンは差し出すのが気に喰わずやけ酒でグラス一杯飲んだら沈没。


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