カードを捌く鮮やかな手つき。
ユウは不思議そうな顔――――――どうしてあれでバラバラにならないんだろうという顔だ――――――でアレンの手元をじっと見る。
瞬く間に十五枚、三人分のカードがそれぞれの手元に配られた。ユウは俺のすぐ横から、手札を覗き込んでいる。
今はユウにルールを教えるのを兼ねての無し無しルールのワイルドポーカー中。因みに無し無しとは(賭け金)無しで(いかさま)無しの略という家庭内ルールだろう。因みに普段、分かる奴だけ、つまりユウを除いてゲームするなら両方共有りにしている。アレンなんか露骨にえげつなくいかさま仕掛けて来る訳だけど、見ぬかれたらどんな見事な手を揃えててもそれは一切無効、ノーペア扱いで尚且つそれまで獲得したチップ(と言う名の現金)の半分を没収するという恐怖のルールだ。
そんな詐欺師アレンは実は俺とゲームの相性が宜しくない。結構俺に見抜かれる率が高いからだ。
「で、ほら、このカードとこのカード、このマークが一緒じゃん? こういうのを集めて役にするんさ」
「数字が連続になってるか、同じ柄の奴ならいいんだろ?」
ストレートとフラッシュの事だ。
「そうそう。それから、同じ数字が2以上ある時も役になるさ」
「じゃあ、これ役になってんじゃねぇのか?」
ユウが俺の手札の中のスペードとクラブの9を指す。
「うん、まぁね。でもこれだと一番弱い役にしかなってないんさ。どうせならもっと強い役にしたいじゃん? だから要らないのを捨てて、もう一回カードを引くんさ。これがドローね。賭けてる時は最初に幾ら賭けるかとか、もっと賭けたいとか、もしくはもう全然駄目そうだからゲームから降りる、つまりフォールドする事も出来るんだけど」
「交換前に降りるのか?」
「うん。そうすれば損失は参加料だけで済むからね」
懇切丁寧に説明しながら俺はハートの4、ダイヤの6、クラブの2を纏めて捨てる。
ティキ達はとっくにドロー済だ。
代わりに三枚、積み札から引いて――――――おや。
「あ」
ユウが少し驚いたように声を上げる。
「え、え、何ですかそのリアクション何か怖いんですけど」
「ビギナーズラックってのも、ありうるしねー」
「ふっふっふ」
俺は手札で口元を隠す。
「今は何も賭けてないけど賭けてるとすると、此処で例えばアレンが幾らか賭けるとするだろ?」
ティキがポジションの悪いアレンに話を向けると、頷いたアレンが、どこからとも無くお札を一枚。
「じゃあ千円で」
コインも無いからまさかの現金だ。何てリアリティのある賭けなんさ…………。
「すると俺が出来るのは三つ。アレンの言ったのと同じ千円を賭ける、つまりコールするか、勝ち目が無いからってゲームからフォールドするか、逆に絶対勝てると思ったら掛金を上げるか。それがレイズね。今回俺はコールするわ」
ティキがポケットから出した薄い財布から同じく千円を出す。
思いがけず現れた現金にユウが眉根を寄せた。少し困ったような顔で俺を見る。
「俺達はどうするんだ?」
「レイズで。五千円」
「げっ」
ティキが嫌そうに顔を顰めた。俺も財布から五千円出して置いておく。
「Show Down」
流暢な発音で言ったアレンが最初に手札を晒した。
ハートのA、5、7、8、10、J。
「全部同じ柄…………フラッシュ? か?」
「そうです。これでAが6だったら数字も連続しますよね? そうするとストレートフラッシュって言うもう少し強い役になったんですけど」
残念です、まぁこればっかりはしょうがないですよねとアレンが言った。
アレンがドローしたのは1枚だ。想像するに何かを捨ててハートのAを引いたと見た。フラッシュもストレートも狙える、随分良い手札だったみたいさ。勿論駄目だったら只のノーペアで終わる。
「げー…………いかさま無しでそれやる?」
ティキがぼやきつつ手札を晒した。
ハートの2,スペードの2、ダイヤの2、クラブの7、ダイヤの8。
「同じ数が三つ…………だからスリーカードか」
「正しくはスリー・オブ・ア・カインドね。まぁどっちでもいいけど」
「よりによって2で…………」
最弱の数でのスリーカードにアレンが失笑する。失礼な。
「で、お前らは? レイズしてきたって事は自信あるんだろ?」
「まぁね…………ほら」
俺も前二人に倣って手札を晒す。
ダイヤの9、クラブの9、ハートの9、ダイヤの9、そしてジョーカーことワイルドカード。
ファイブカード、正しくはファイブ・オブ・ア・カインド。最高の役だ。
「うわっ」
「ファイブ・オブ・ア・カインド…………」
ティキとアレンが呆然と俺達の手札を見る。
「ラビ、強いのかこれ? ティキのより数が揃ってるが」
「うん。同じ数字4つとワイルドカード…………あぁ、このジョーカーね。これで作った役が一番強いんさ」
「へぇ…………」
いかさま無しで見れることは、そう滅多にない。
とは言えユウにはその珍しさは余り伝わっていないようで、ふぅん、と小さく呟いただけだ。
「さて、神田も慣れてきたようですしそろそろ本番行きます?」
「待てよ、いかさまは無しにしようぜ。流石に可哀想だろ今日ルール知ったばっかりなのに」
「えー…………」
「おい、賭ける金なんてねぇぞ」
ユウが戸惑った顔で俺を見る。
「んー、大丈夫。ユウは別にお金賭けなくていいから」
「そうそう。神田はコイン以上に価値あるものあるじゃん?」
「?」
ティキの言葉をまるで理解していないユウが、配られたカード――――――今度は俺と一緒ではなくユウだけのカードだ――――――を開いてみる。
そのゲームの終わりで漸く自分が何を賭けさせられていたか理解したユウが猛然と抗議するも俺達は聞く耳を持たず。
欲望に必死な俺達と逃げるのに必死な俺達のゲームは、結局明け方まで続いた。
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神田が賭け(させられ)てたのは自分とのエッチ権。
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